Da Capo Ⅵ
貴方の特等席は知っている。
僕の特等席の真上。
空に一番近い場所。
何時も聴ける訳ではないけれど、でも聴ける日は本当に嬉しい。
ゆっくり階段を上がって、夕暮れの空に僕は体を溶け込ませる。
僕が扉を開けた事を知らないまま、先輩たちはやり取りをしていた。
あの、月森先輩の怒りの声も聴いた。
何となく、胸の奥が、ちくり、言った気がする。
(…どうしたん…だろう…)
貴方の音には濁りがない。
真っ白なキャンバスに、真っ直ぐな心を染み込ませて。
僕に見たこともない鮮やかな風景を見せてくれる。
でも、さっきの音には違う音が聴こえた。
勿論それは月森先輩のでもあるのだけれど。
(…なんだろう…この、きもち…)
何だか少しだけ、頭がふらふらする。
貴方の音が聴きたい。
貴方の心が聴きたい。
「…先、輩…」
「なに?」
僕は貴方の手を取る。
行き成りの事で、きょとんと僕の事を見つめる。
(…あたたかい…)
伝わる貴方の温度。
この柔らかい指で、手で。
キラキラ輝いている、今日の降り注ぐ太陽の光のように。
貴方は音楽を世界に伝えていく。
「ど、どうしたの?」
「せんぱい」
「何?」
「僕と一曲弾いてください」
少し吃驚した表情で、貴方は一瞬戸惑う。
でも、直ぐに何時も通りの笑顔で、いいよ、と二つ返事。
曲名は考えていない。
でも、それでもいい。
僕にもっと貴方の語る時間を下さい。
僕にもっと季節を綴る時間を下さい。
貴方の心を、僕に。
僕は貴方の手を握り、心の中を伝える。
僕の温度で、貴方を染める。
今ほんの少しでも、僕が近くにいて。
貴方の隣で奏でて、未来に近付く為の音楽を。
貴方と一緒に、これからを紡ぐ為に。
(…少しだけ、先輩の手…温度が上がった…のかな?)
その温度も、僕の心を満たしてくれる。
貴方そのものが、僕の至高の音楽。