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もう二度と…

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[羽鳥side]

その知らせを受けたのは、
ちょうど仕事が終わって会社を出る頃だった…―――

プルルルルルル プルルルルルル
携帯電話が鳴った。
ディスプレイを見ると、珍しく柳瀬からの着信だ。

「もしもし?」

「羽鳥か!?俺だ、柳瀬だ!千秋が大変なんだよ!」

「吉野が!?どうした!?」

「頭を強く打って病院に運ばれたんだ!」

「何だって!?どこの病院なんだ?!」

「K大学付属病院だ!早く来いよ!」

「分かった、すぐ向かう!」

電話を切ると、急いでタクシーを拾う。
車内で悪い考えがどんどん浮かんでくる。
無事か?頭を打ったと言っていた…
場所が悪いと死ぬ可能性だってある。
手を強く握りしめていたら爪が食い込み、血がにじんでいた…

病院に着くと、夜間受付に向かう。

「すみません、
 さっき病院に運ばれた吉野千秋さんの病室はどこですか?」

「吉野さんですね。えーと…305号室になります」

「ありがとうございます」

急いで病室に向かうと、
そこには柳瀬の他にアシスタントの子たち、
そして吉野の母の頼子と妹の千夏がいた。

「芳雪くん!」

病室に入ると、千夏が駆け寄ってきた。

「吉野は大丈夫なんですか!?」

「それが…精密検査もしてもらって、
 身体の方はどうにか大丈夫だったんだけど…
 記憶がなくなっちゃったの…!!」

「は!?記憶喪失??どこまで忘れてるんだ!?」

「それが…全部なの!
 私たち家族の事も自分が誰かも分からないの!」

突きつけられた状況に眩暈がしそうだった。
それでも無事だったという事実には、胸を撫で下ろす。
そして、柳瀬に向かって疑問をぶつけた。

「どうしてこんな事になったんだ?」

「それは…」

柳瀬がしゃべろうとした瞬間、アシスタントの子が口を開いた。

「私がいけないんです!
 私が転んだ時に、先生を巻き込んだから…!」

彼女が言うには、トイレに行こうとして歩き出したとき、
床に紙が落ちていたらしく、それを踏んで滑ってしまった。
そこに、たまたまコーヒーを飲もうとして立っていた吉野がいて、
彼女は吉野の服を引っ張ってしまったらしい。
突然服を引っ張られた吉野は、受け身を取ることが出来ず、
そのままひっくり返って頭を打ったというのが、事の顛末らしい。

「ごめんなさい…本当にごめんなさい…!!」

彼女の目は真っ赤に腫れていた。相当泣いたようだ。
頼子が近づいて、彼女をなだめる。

「まぁまぁ落ち着いて、うちの愚息は無事だったんだから。
 記憶もそのうち戻るわよ」

「本当にごめんなさい…」

そして頼子は病室の全員に声をかける。

「とりあえず、千秋は薬で寝ちゃってて起きないだろうから、
 みなさん今日はお帰り下さい」

その後、俺の所にも近づいて声をかけられる。

「芳雪くんもごめんなさいね、仕事で疲れてるのに」

「いえ、吉野が無事で良かったです。
 また明日改めて見舞いに来ます」

「ありがとう、千秋も早く思い出してくれるといいんだけど…」

「そうですね…とりあえず来月号の仕事は休載にするので、
 しっかり静養させてあげて下さい」

「ごめんなさいね、あなたの仕事にまで影響を出しちゃって」

「作家の体調を気遣うのも仕事ですから。
 吉野の事、よろしくお願いします」

そう言いながら頭を下げる。
しばらくは頼子が吉野の面倒を見てくれるだろう。
俺はこれからのスケジュールを思い出しながら、
どうやって対応しようかと考える。
一回高野さんに指示を仰いだ方がいいだろう。

そして頼子と千夏を残し、他のメンバーは病室を後にした。
連絡をくれた柳瀬にお礼を言おうと声をかける。

「柳瀬、連絡をくれてありがとな。
 吉野が無事で良かったよ」

「別に…お前が担当編集だから連絡しただけだし」

柳瀬が俺を嫌っているのは知っている。
それでも連絡をくれたのは、吉野を思っての事だろう。

「ところで、記憶がないって言うのは本当なのか?」

「あぁ…本当だ。自分の事も、俺は誰ですか?と言った位だ」

「それはかなりの重症だな…そのうち記憶が戻るのか…?」

「そればっかりは誰にもわかんねーよ」

「そうだな、とりあえず来月は休載にしとくから、
 アシスタントの子たちにも伝えといてくれ」

「あぁ分かった、じゃあな」

柳瀬と別れ、帰路につく。
一人になると、今更ながら吉野の事が重くのしかかった。
記憶をなくしたということは、
俺との事も、もちろん忘れてしまっただろう。
仕事の事も頭が痛いが、それ以上に心が痛い。
目を覚ました吉野に俺たちの事を言うべきか、
それとも黙ってるべきか…
正直吉野がこのまま俺との事を思い出さなければ、
普通の道に戻した方がいいのかもしれない。
恋人同士でも、吉野はいつも少し無理をしてる様に見えた。
ここで手放した方が、吉野のためになるかもしれない…



翌日、俺は仕事帰りに改めてお見舞いに向かう。
高野さんに吉野の状態を伝えたら、頭を抱えられたが、
どうにかするから、今は吉野さんに付いててやれと言われた。
もしかしたら、もう漫画は描けないかもしれない…
それならこのまま離れた方がお互い良いのか?と
考えながら、病室へ向かう。
ノックして扉を開けると、そこに柳瀬がいた。
吉野も起きていて、二人で会話をしていたようだ。

吉野がこちらに顔を向ける。
その表情が、明らかにどちら様ですか?と言っていた。
分かってはいたけど、その態度をみるとやはり落ち込んだ。
それでも表情に出さずに声をかける。

「吉野、体調はどうだ?」

「はい…少し頭が痛みますけど、後は特に大丈夫です。
 …失礼ですけど、どちら様ですか?」

そこで柳瀬が説明した。

「こいつは羽鳥芳雪、おまえの幼馴染で、
 俺とは中学からの付き合いだ。
 後はさっき言ったけど、お前の仕事の担当もしてる」

「幼馴染…すみません、全然覚えてなくて…」

「気にするな、自分の事も思い出せないんだろ?
 今はゆっくり休め」

「ありがとうございます。
 ところで今、仕事の担当って言ってたんですけど、
 俺が少女漫画描いてたって本当ですか?」

「あぁ本当だ、柳瀬に聞いたのか。うちの雑誌の看板作家だよ」

「そうなんですか…すみません、今月も仕事ありましたよね?」

「来月号は休載にしたよ。
 どちらにしても今の状態だと、無期限休載かも知れないな。
 仕方ないけど、こればっかはしょうがない。
 今は体を治すことだけ考えろ」

「…はい」

「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。
 柳瀬、お前はどこか仕事入ってないのか?」

「この時期はいつも千秋のために空けてあるから、
 仕事入れてない。
 まぁでも俺もそろそろ帰るわ、じゃあな千秋」

「うん、ありがとう2人とも見舞いに来てくれて」

2人で病室を後にする。
柳瀬に今日の吉野の状態を聞いてみることにした。

「柳瀬、今日の吉野はどんな感じだった?」

「昨日と変わらずだよ。自分の事すらまだ分からない状態だし」

「そうか…」

「羽鳥、おまえ千秋に自分たちの関係を伝えるのか?」

柳瀬の突然の質問に、思わず言葉が詰まる。
作品名:もう二度と… 作家名:涼那