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瞳に映る新世界

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 3.

 ZEXALは一人たたずんでいる。

 出会った頃はあれだけ反発していたというのに、気づけば相手の危機に必死になって助けに行く仲になっていた。一心同体だと言い切った二人の関係は、ついにはこうして文字通り一つになるまでに至った。
 ZEXALの中の遊馬の意思は、これまでの記憶を漠然と引っくり返していた。何てことはない、今の彼は非常に暇だったからだ。
 皇の鍵の世界。その地平線は赤々と燃えている。赤みの映った天空には、耳をつんざく爆発音が断続的にこだましている。ここからでは外の世界を見ることは叶わないが、よからぬことが起こっていることだけは遊馬も理解した。しばらくはここで待っていた方がいいと助言したのは、ZEXALを構成するもう一つの意思だ。
 この世界にいるのは「彼ら」一人きりだ。彼らと対戦していたカイトは、既にこの世界にはいない。凌牙の魂を解放した後に彼は一人でとっととこの世界から出て行ってしまった。直後にこの爆発音だ。おかげで、ZEXALはこの世界から出られないままになっていた。
 そういえば、カイトは最初「彼ら」が一体誰なのか分からなかったようだった。声を聞いてからやっと遊馬だと気づいたほどだ。まさか、今のこの顔はもう一人の顔そのままではあるまいか。確かめようにも、ここには鏡なんて便利なものはない。
〈遊馬、君は何をやっているのだ?〉
 ぴたぴたと両手で頬を撫でくり回している遊馬に、ZEXALのもう一つの意思――アストラルが訝しげに問うた。むにむにと手のひらで頬を柔らかく凹ませて遊馬は答える。
「調べてんだよ、オレの顔。今どんなになってんのかなって。そうだ、お前になら分かったりすんの?」
〈一々確認しなくとも私には分かる。君は確かに君だ〉
 断言するアストラルに、
「……ま、お前が言うんならそうなんだろうな」
 と納得して、遊馬は頬に伸ばしていた腕をすっと降ろした。
 謎の建造物、アストラルの言うところの飛行船。静止するリングの上でZEXALは一人たたずんでいる。
 外の世界の小鳥たちは果たして無事なのか。恐らく全員無事だと彼らは考えていた。かけがえのない仲間たちを彼らは信じているからだ。
 リングを揺るがしていた爆発音は、時が経つに連れて段々薄らいでいく。後もう少しもすれば外に出ることができるだろう。それまではこのままでいたい。遊馬は密かに思っている。しばらくここにいた方がいい、そう言った彼の理由が一つだけでないことを期待している。
 遠ざかる爆発音と引き換えに戻って来る、再起動した飛行船の歯車が紡ぐ大合唱。果てしなく続く砂漠からは、青い粒子が淡い光を放ちながら立ち上る。この世界に再び訪れた平穏な日常をずっと見つめながら、ZEXALは色の違う両目をゆっくりと細めた。
 ZEXALの赤い左目。それは遊馬の目だ。変わった形のD-ゲイザーに覆われてはいても、紛れもなく遊馬の、人間の目だ。
 だが、ZEXALの右目は金色だ。これはアストラル由来のものだった。属する世界がそれぞれに異なる瞳は、二人に新たな世界をもたらした。
 右目には、今までにアストラルが見ていたであろう景色が鮮明に映っている。遊馬が途中乱入したあのデュエルでもそうだった。モンスターも、相手の顔も、カードを引く手指も全て。ZEXALになりたての時は、奇跡と驚愕の連発でそれどころではなかったけれど。
 身体も心も何もかも、二人の知る限り誰よりも近くに寄り添って。
「アストラル」
〈何だ〉
「お前、いっつもこんな風に見えてんのな」
 しみじみと感想を述べる遊馬に、アストラルは声もなく笑ったのだった。


(END)


2011/10/20
作品名:瞳に映る新世界 作家名:うるら