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【シンジャ】百花蜜【SPARK】

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 シンドバッドの婚約者として行っているというのに、そこで誰かと恋仲になってしまう可能性がある。しかも、今までの彼女の行動を考えると複数の相手と。その事を不安に思いながらピスティの方をもう一度見ると、作り笑いを浮かべるだけでそんな事は無いと言う事は無かった。
 自分の言葉に対してそんな事は無いと彼女が言わなかったのは、行った先で誰かと恋仲にならないと言い切る自信が無かったからだろう。
「ピスティ以外だと……」
 八人将は男の方が多い為、ピスティ以外には一人しか女性がいない。もう一人の女性であるヤムライハの方へと視線を遣ると、自分に話しが回って来るとは思っていなかったのか、驚いた様子で自身を指さした。
「私ですか! 無理です。無理です。王の婚約者の振りなど私には無理です」
 即座にそう言ってヤムライハから断られた。
 ヤムライハは美人であるだけで無く、男ならば誰もが振り返るような豊満な胸の持ち主である。そんな彼女に落ちない男はいそうに無いというのに、過度の魔法おたくの彼女は好きな相手の前で魔法の話ししか出来ず、好きな相手が遠ざかってしまう事がよくあるらしい。恋愛経験が全く無い訳では無いのだが、恋愛が苦手である彼女がシンドバッドの婚約者を快く引き受けてくれるとは思っていなかった。彼女の反応は予想の範囲内であったのだが、これで八人将の女性全員が駄目という事になったので、困ったという気持ちになった。
「侍女に任せる訳にはいきませんしね……。文官……」
 武官にも女性はいるが限られた人数しかいない。しかし、文官には何人も女性がいる。シンドバッドの婚約者の振りをしてくれそうな。そして、出来そうな女性はいないだろうかという事を考えていく。
「既婚者には頼めない内容ですし、かといって未婚者だと……」
 そう言いながらシンドバッドの方を見ると、不満そうな様子へとなった。
「何が言いたい?」
 自分が何を言いたいのかという事が分かっていて、彼がそう言ったのだという事は分かっていた。
「未婚者にお願いすると、あなたが手を出しかねないと言おうとしていたんです」
 何が言いたいのかという事を察している事が分かっていながら、何が言いたいのかという事をわざわざ言葉にしたのは、今までの彼の行動が原因で様々な苦労をしているからである。
 顔を顰めながらも、そんな自分の行動に対して彼は何か言って来る事は無かった。それは、自分に苦労をかけている自覚があるからなのだろう。苦労をかけている自覚があるのならば、妄りに手を出すような真似は止めて欲しい。今まで何度もその事を彼に訴えているのだが、改善される兆しは無かった。
 ピスティとシンドバッドは、性別は違うが同族のようなものであった。
(何故、皆こんなに相手を取っ替え引っ替えできるんだか……。一人に決めてくれれば、私の気苦労が減るというのに)
 今まで二人が起こした恋愛絡みの揉め事を思い出しながら溜息を吐いていると、執務室の扉が開く音が聞こえて来た。
「おかえりなさい」
 シンドバッドへと向かって無愛想な声でそう言いながら部屋へと入って来たのは、シンドバッドの出迎えの時居なかったマスルールであった。
「マスルール、何処に行っていたんですか」
「ちょっと森へ」
 頭を掻きながらそう言ったマスルールが自分の横へとやって来た。出会った頃は自分よりも小さかったというのに、急激に大きくなり今では見上げなくては彼の顔を見る事が出来無くなってしまっている。
「あれだけ、今日はシンが戻って来るから遠くへ行かないように言っておいたというのに」
「はあ」
 そう言ったマスルールの態度は、シンドバッドの出迎えに間に合わなかった事を全く反省していないものであった。今までの経験から彼に説教をしても無駄であるという事は分かっているのだが、それでも全く反省をしていない彼の姿を見て溜息が出た。
「何の話しをしてるんすか?」
 先程まで自分に怒られていたとは思えない態度でそう言ったマスルールに対して、シンドバッドが先程の話しを掻い摘んで話していった。
 マスルールがシンドバッドの出迎えや衆議に無断で欠席したり遅刻したりするのは、それが駄目な事であるという意識が弱いからだけでは無い。自分は下の者に示しがつかないとそんなマスルールの行動に対して思っているのだが、シンドバッドがその事に対して何も思っていないからという理由が大きい。
 出迎えや衆議に無断で欠席したり遅刻したりしないように言ってくれという事を、以前シンドバッドに頼んだ事があるのだが、そのぐらいの事は大目に見てやれという事を彼は言うだけであった。
「という訳だ」

「じゃあ……、ジャーファルさんを連れて行ったら良いんじゃないすか」

 マスルールがシンドバッドの出迎えや衆議に遅刻したり無断で欠席したりしなくなる良い案は無いだろうかという事を考えていた時、全く予想もしていなかった言葉が聞こえて来た。
「え、何を言い出すんです!」
「ジャーファルはこう見えても男だぞ」
 マスルールに対してシンドバッドが言った言葉を聞いた瞬間息を飲んだ。今の言葉に驚いている事を彼に気が付かれる訳にはいかない。直ぐに平常心を取り戻し、シンドバッドを睨み付けた。
「こう見えてとは、どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
「ジャーファルさんが女の人の格好をして、シン様の婚約者の振りをすれば良いじゃないすか」
 自分たちの話しが聞こえていない筈は無いのだが、そう言ったマスルールの態度は、自分たちの話が聞こえていないかのようなものであった。
 彼が全く人の話を聞いていないかのような態度を取ったり、実際に人の話を聞いていなかったりするのは頻繁にある事である。その為、そんな彼の態度に対して何か思う事は無かった。そんな事よりも今は、マスルールの話しを聞いてシンドバッドが急に真面目な様子へとなった事の方が気になった。
「確かにジャーファルならば、女装をすればどうにかなりそうだな。武術の心得どころか暗殺術の名手だし、教養もある。……打って付けじゃないか」
 シンドバッドの様子からこんな事を言い出すのでは無いだろうかという事を予想していたのだが、それでも実際にその言葉を聞くと動揺してしまった。
「待って下さい、シン。男の私に婚約者の振りをさせるなど、冗談にしかなりません。それに、ハーレダーンの王にお会いした事はありませんが、私である事を知っている人物がいたからどうするんですか。他に適任者がいる筈です」
「いや、お前以上の適任者はいないだろう。もしもお前の事を知っている者と会ってしまう事を考えて、お前の妹という設定にしておこう。そうすれば、兄妹なので似ているで済ませる事が出来る」
「待って下さい、シン!」
 自分に婚約者の振りをさせるつもりへとなってしまっているシンドバッドに再考して貰おうとしたのだが、一度こうと決めると他人の意見を聞こうとしない所がある彼が、自分の意見に耳を貸す事は無かった。こうして、シンドバッドの婚約者としてハーレダーンへと行く事になった。

(本編に続く)