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皿の上

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「…てな夢見てん。あーアカンわあ、俺めっちゃ疲れとる!思うてー。ちょっと早く仕事退けたら早速熱出てな。なんやウイルス性の胃腸炎やって。…もー先週なんっっも食えんくって。薬とウイダーインとポカリのローテで一週間は流石にきっついわぁ!あー菊の作る飯ほんまうまい生き返るー。お代わり、まだある?」

目の前に置かれたサラダをがっつきながら、アントーニョは矢継ぎ早に菊に喋りかける。
ここは菊の経営するレストラン。10人も入れば満席になってしまう小さな店で、菊1人でオーダーから料理、店の仕事全てを執り行っている。
実質菊の城のようなもので、知人や友人が寄ると貸切状態になってしまう事もしばしばである。
今日も小さな店内には菊とアントーニョ、それに仕事帰りのギルベルトの3人きりだ。

「ええ、まだ沢山ありますから、遠慮せずにどうぞ。最近気温差が激しい日が続きましたから、そのせいでしょうかね…ギルベルトさん、顔色が優れないようですが。どうかしました?」

「ンなブラクラみてえな話のあとによくモノ食えるよな・・・お前ら・・・」

先程から2人の会話を傍聴していたギルベルトはげっそりと、テーブルに肘をつく。
会話に入ろうにも、どう相槌を打っていいものやら。途方に暮れていた。
フォークを齧りながら、それよりもと、ずっと挟みたかった質問を投げかける。

「そもそも菊お前、アーサーと仲良くなかったか? よく平然と聞いてられるな、ンな話」

呆れ顔で放てば、夢の中の話にまでケチつけるほど私は尻の穴の小さい男ではありませんので、つらっと返された。
「具合が悪い時って、大抵ロクな夢見ませんからね。アントーニョさんもきっとそうだったんでしょう」
菊は言いながら新しい皿をアントーニョとギルベルトの前に差し出す。肉料理だ。
匂いからして、豚肉だろうか?

「あーハイハイハイハイハイ」

笑みを浮かべる菊に対し、もういいと手を振ってギルベルトは返す。
アントーニョもだが、普段優しげに振舞っている人間の方が、腹の中では何を考えているのかわからない。
あー怖い奴ら! 軽口を叩けば、腹黒達はケラケラと笑う。

1人楽しくジョッキを空けるギルベルトの横、黒髪の2人はもう違う話題で盛り上がっているようだった。
「しかし何か珍しい味やんなぁこれ。豚にしては臭みがないような…何の肉なん?」
「ああ、ヤギですよ。知り合いが分けてくれたんです」
「へぇ珍しいやん、店で出したりはせーへんの?」
「あいにくいつも出せる保障がありませんし、何しろ仕込みに手間がかかり過ぎるんです。今のところ予定はないですね」
業務用とか解体済みならともかく、一から捌かなくちゃいけないから色々大変でした。
菊は少し疲れた様な表情で呟く。最初から捌くとは、つまり丸ごとの山羊を渡されたのだろうか。
それは疲れるだろう、聞きながらギルベルトは思う。


「そういや、菊知っとる? なんやフランシスがぼやいとったけど、あいつアーサーとここ2、3日連絡取れへんー言うててな」
何や約束すっぽかされたんやって、フランシスが機嫌損ねただけかもしれへんけど、ちょっと気になってん。
肉を頬張りながら、アントーニョが言う。
それはちょっと気になりますね、今度様子を見に行ってみましょうかなどと、菊が気遣わしげに、話す。
「へぇ、約束事は守る奴かと思ってたけど案外そうでもねぇのな」

2人に交じって語らいつつ、ふとギルベルトは手元のプレートに目を落とす。

アントーニョの見た「夢」の内容。
ここ数日、連絡がとれないというアーサー。
皿の上の、「山羊の」肉―

そこまで考えを巡らせ、ギルベルトはおぞましい想像をしてしまう。
綺麗に盛りつけられた肉が、いやに恐ろしいものに思えてならなかった。
知らず知らずのうちに、フォークを動かす手が止まる。

なあ本田、これってほんとうに山羊の肉だよな?
アントーニョ、お前の夢は、ほんとに夢だよな。

疑念はギルベルトの背中を、冷たくつたって消えて行った。

<おわり>
作品名:皿の上 作家名:わん子