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境界のワルツ

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時々、異様に身体が渇いて仕方ない。
そんな時僕らは決まって、互いに手を伸ばすんだ。

甘く酔わす口付が始まりの合図、狂い咲く月と太陽。



かんば、かんば、かんば。

呪文の様に唱える三文字に、託す想いは絶望。
しょうま、って切羽詰まった音で名を呼ばれ、ずくりと熱が蠢いた。
失われた潤いを取り戻す様に、全身に施される愛撫に淫らに啼く。


かちり、と潤む瞳を重ねる。
頼りなく伸ばした腕を首に絡め、強請るようにキスをした。
身体を合わせる時、大抵僕らは言葉を交わす事はしない。
そんな事をせずとも、思いは手に取る様に理解できた。

互いの唾液が行き交い、厭らしい水音が耳を侵す。
余韻が糸を引いて僕らを掻き乱す。



ひくり、と触れられた箇所が物欲しげに兄を誘う。
欲に塗れた兄の瞳が、煽情的に揺れる。
僕は震える手でその身体を手繰り寄せた。


「ぁ、」

今までの比ではない質量に、内臓が悲鳴を上げる。
だけどそれ以上に悦を覚えるのは、僕が淫乱だからだろうか。
少し意識を飛ばしている間にも、滅茶苦茶に引っ掻き回されて、目の前を星が飛び交う。
静寂にこだまする下卑た嬌声に羞恥が働き、手の甲を唇に押し付けた。
途端にくぐもった悲鳴に塗り替えられる世界。

同時に、耳元に兄の存在を確認して、全神経がそこに集中する。
緩い吐息が掛かり、擽ったくてしょうがない。


もっと啼けよ、晶馬。


低く囁く熱声に、ぶるりと身体が震える。
堰を切った様に溢れる淫らな声に、兄が僕の手をぎゅっと握り締めた。
絡め合う指と指。
きゅっと握り返せば、応えるように額に想いを載せられる。
激しくなる律動に、涙を滲ませた。
それは、悦びの証。
そうだよ、もっと感じてよ、僕はここにいるよ。


いつも一人で突っ走ってるの、知らないわけじゃないんだ。
だけど、僕の腕じゃ頼りなくて、足手纏いにしかならなくて。

でもね。
一人じゃないよ、冠葉。
僕らは二人で一つじゃないか。
僕にも少しだけ、荷物を預けてほしいんだ。
背負わないで、僕を呼んで、抱き締めて、そうすれば僕はいつだって応えるよ。
二人なら、地獄だって笑って歩いて行けるんだ。
ねぇ、いい加減気付いてよ、冠葉、僕の愛しい片割れ。

そんな想いを抱きながらいつも身体を開くなんて、独り善がりの兄は知りもしないのだろう。


胎に熱が弾ける。
僕は歓喜に啼いた。

作品名:境界のワルツ 作家名:arit