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メフィスト・ワルツ

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「ガキの時分、夏の休暇をある避暑地として人気の土地で過ごすとする。そういう場所は大体、自然が売る程あるだけで子どもにとって興味をそそられるものはありゃしねぇ。いくら自然があっても遊び友達が一人も居ないようなとこでは長ったらしく時間が過ぎていくだけだ。で、まぁ大体そういう時はあるんだよな。一時の出会いっつうのがさ。同じように避暑目的で訪れてたふわっとした金髪の可愛い子だ。真夏の紫外線にも負けない白い肌で青い目がやたらとでかい。天使を描いた画家は大体そういう子をモデルにするらしいぜ……。んで、その天使みたいな子となんとなく遊んでなんとなく仲良くなるんだよ。でも休暇なんていつまでもあるわけじゃない。一緒に過ごすのは大体2,3日だ。その期間もまた微妙なんだよ。もっと長けりゃその子の嫌な面とか少しは見えてきただろうけど、たかだか3日過ごしただけだと綺麗な思い出しか残らねぇ。それで、まぁ、いつかまた会って遊ぼうねとかなんとか約束して分かれるんだよ。ガキってのは無責任な約束を平気でするからな。もちろんそんな簡単に再会するはずがない。その内成長してって「幼い頃の楽しかった思い出」になるわけだ。それだけならいいけどよ、っていうかそれで終わってりゃよかったんだ。心の中には天使みたいな子のちょっと悪戯っぽい笑顔だけが残される。けど、現実ってのは全くもってその綺麗な思い出をぶち壊してくれるもんだ。全く予期してない、ひょんなきっかけでその子と再会する。約10年ぶりにな。するとどうだ、あんな天使みたいな子だったのが、男モノの香水を周囲に撒き散らしてるチャラいバカになってんだぜ。それだけじゃ足りねーのか成人すりゃヒゲも生やしてやがる。綺麗な思い出なんか音も立てないうちに粉々になって崩れてんだよ。ほんと、現実程破壊力の強いもんはねーよ。
だからな、そういう幼馴染みとか、小さい頃の思い出なんつうもんは必要以上に美化されてるもんなんだ。後でよくよく考えればこうなる事が予測される出来事もある。でも大体そういうのは忘れてるもんだぜ。無意識にな」


「………………………………そう…………ですか…………」
「…………なんだよ」
「……もしかしなくても、体験談ですね?」
「……お前の判断に任せる」
「………………はぁ、あの、…………いえ」
「だから何なんだよっ」
「……いや、……まぁ、あれだけ綺麗な顔をしてれば小さい頃はそれはそれは可愛らしかったんでしょうね、フランシスさん」
「…………それもお前の判断に任せる」
「……あ、はははははは」



 その日のアーサーはえらく沈みこんだまま、菊の胸を独占しながら寝た。眠りにつくまで「小さい時は俺も純粋だったんだ」「そういうのあるだろ?」と菊にぼやいていたが菊ははいはい、とか、そうですね、とか生返事しかしなかった。抱きかかえたまま背中をゆっくりさすってやると心地よいような表情で眠りについた。
時折、こうやって開き直ってさえいるように見えるほど甘えてくる時がある。菊がアーサーより大分年上だという事を知ってからだった。普段の毅然とした、というよりは高飛車な態度と180度違うので落差についていけない時があるが、こんな彼を菊は嫌っていない。
弟が二人居るらしいが菊は会った事がない。というよりアーサーの身辺も菊はあまり知らない。フェリシアーノと同じだ。アーサーも自分の事を話したがらないし菊の事を聞いてこない。
もしかしたら菊は無意識のうちにそういう性質の人間を呼び寄せているのかもしれない。類は友を呼ぶという言葉がある。そういえば養父も必要以上に菊にあれこれ口出ししない人だった。
干渉しない、干渉されない、それでも肌のぬくもりは欲しい。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、真逆の二人は抱き抱かれながら夜を過ごした。
菊だけは少し、あの絵の事をやはり考えながら眠りについただのだった。
作品名:メフィスト・ワルツ 作家名:アンクウ