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メフィスト・ワルツ

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「本田菊ってのは、お前か」
「はい、そうですが……?」

 その男が現れたのは菊がいつものようにホテルの雑務をこなしている時だった。
 最近ではフロントも任されるようになり、ただの掃除係ではなくなっていった。それほどオーナーのアントーニョの信頼を得てるという事なのだが、滅多に客がこず、2、3日に新しい客が来ればいい方だった。だが、泊まっていく客はなぜかホテルに居ついてしまうので、相変わらず菊の主な仕事はもっぱら部屋の掃除やベッドメイキングだった。

「あの、何か……?」
その客は愛想もさっぱりなければ、遠慮というものも皆無だった。菊の事を上から下まで(下はフロントで隠れてるが)しげしげと眺めてふん、と鼻を鳴らした。
背は高すぎるというわけではないが、何しろ菊自体の身長が低い為若干見下ろしている、否、見下されている感がある。無造作な金髪に碧眼で、その目許はどことなく見覚えがあった。
「おめーか。フェリシアーノをたぶらかした日本人ってのは」
「は?」
菊は何も包み隠さずぼやいた。

「フェリちゃんだけじゃねー。俺の弟まで丸め込んでくれたみたいだなっ!」

が、今の発言で合点がいった。

「ルートヴィッヒさん………お兄さんがいらしたんですね」

「…………あ、あ、あのやろー! 俺の事何も言ってねーのかよ!!」


男が唖然としていると、買出しに出ていたアントーニョが帰ってきた。
「ギルベルトやん。…………何で呆けてんのん?」
「ええっと………私にも何が何だか」




「っちゅーわけで、弟にも話題にされないこのボンクラはギルベルト・バイルシュミットっちゅう、まぁ俺の腐れ縁みたいな奴や」
「おめー一言どころか三つ以上多いんだよ!!」
「せやって、ほんまの事やし。で、こっちは本田菊ちゃん」
「知ってる」
「そのようで……」
「知ってるって、何で? お前菊ちゃんのストーカーか何かか? きっしょいわー」
「何でおめーは昔っから俺には毒が強いんだよっ! ルートヴィッヒから聞いてたんだ」
「アーサーのハゲに比べたら優しい方やで」
「ルートヴィッヒさんから?」
「当然だろ。あいつは俺の弟だ」
「お兄さんですか?でも、苗字が……あ……すみません」
「……別にそんな事気にしちゃいねーよ。親が離婚したせいで苗字が違うだけだ。その親ももういねーしな」
「……すみません………」
「〜〜〜……だから謝んなっつーの! あーもう何にしにきたかわかんなくなってきたじゃねぇか!」
「そういや、ギルベルト何しに来たん?」
「………いや、これと言って用はない」
「用無いのに来たん? おっかしな子やわー。大体今、何しに来たかわからんくなったって言ってたやん」
「時間が出来たから、フェリちゃんとルームシェアしてるって奴の顔見に来ただけだっつの」
「………………」
「何だよ」
「………菊ちゃん、堪忍したってなぁ。こいつ、友達おらんのや」

「余計なお世話だっ!!」




 結局、ギルベルトはそのまま怒りながらも、アントーニョに昼食を作らせ、ビールまで飲んで帰っていった。
アントーニョが最初に言った通り、このホテルは食事だけは旨いのだ。ギルベルトやアーサーだけでなく、食堂だけを目的にホテルを訪れる客は多少居る。食堂でもやった方がいいのでは、とも思うがそれなりに歴史のあるホテルなのでアントーニョは死ぬまでここを守るつもりだと言う。
帰る時にツケを払っていけとギルベルトに言い寄るアントーニョを横目に見ながら、菊は帰り支度をした。今日は午前だけの業務だった。
「あ、菊ちゃん今日半ドンやったね。ほんまごめんなぁ。今日シフト入ってないのに来てもらって」
「いいえ。家に居ても暇なだけですから。フェリシアーノ君も居ませんし」
「今日は弟がお前んとこ泊まるつってたぞ」
「フェリシアーノ君のところにですよ。夕食はご一緒させていただきますが」
「ったく学生の分際で……」
「おんどれはええからとっととツケ払えや」
「うお、ちょ、すみません。月末まで待ってください」
「締め殺すだけで勘弁してやるわ。あ、菊ちゃんお疲れなー」
「あ、お疲れ様です。お先に」
「気ぃつけてやー」



 帰りすがら、菊はなんともいえない思考が募った。
ルートヴィッヒというのは、フェリシアーノの友人だ。もっとも親しい友人というものだろう。彼は菊には無いものを何だって持っていた。
ルートヴィッヒと、その兄というギルベルト。ギルベルトを見た時何となく既視感を感じたが、兄弟だからルートヴィッヒに似ているのだろう、と思う。だがそれ以上に誰かに似ていると思った。ギルベルトだけではなく、ルートヴィッヒを見た時にもそう思った。

(やはり、あの絵はルートヴィッヒさんの親類の方を……?)

あの絵。
菊がイタリアに移り住む事を決意した要員とも言える、ホテルのバーに飾ってある絵。
あの絵のモデルはフェリシアーノの初恋の人だという。ルートヴィッヒに初めて会った時、容貌があまりに似ていた為彼がモデルだと思ったのだが、ルートヴィッヒに出会ったのはここ2、3年の間だと言う。なのでその思案は外れる。
直接フェリシアーノに聞けばいいだけの事だが、それはためらった。いつも口数が多く逆に少ない菊と釣り合うほど騒がしい彼だが、その絵の事に関してはいつも必要以上の事を言わない。本人が自分から申し出ないものをあえて聞き出すのが菊は苦手だった。
他人の事を知りすぎるのも、自分の事を知られすぎるのも、菊は嫌う性分だった。
そう考えるとフェリシアーノは菊にとってとても良いルームメイトなのだ。フェリシアーノはかしましい割りに、菊にああだこうだと干渉してこないし、菊の生い立ちや身の回りの事を必要以上に聞きだそうとしない。いつももっぱら喋っているのは今日はこんな事を習ったとか、美味しいメニューを出すカフェを発見したとか、ルートヴィッヒや他の友人や兄がこんなことを言っただとか、日常の細々とした事を嬉しそうに菊に報告する。
だが、自分の生い立ちなどは滅多に話そうとしない。菊の事も聞こうとはしない。菊も同じように自分の事を話さなければ、フェリシアーノの事を聞き出そうとはしなかった。
だからこそ、ルームシェアの生活を潤滑に過ごせているのだが、こういった疑問はいつまでも解消される事なく消化不良にも似た気持ちだけが心中に取り残される。
あの絵のモデルは誰か。たったそれだけの事だが、菊にはどうしても聞き出せない。だから推測するしかないのだ。






「あんま考えない方がいいと思うがな」
「なぜですか?」
「俺の知ってる限り、子どもの頃の良い思い出なんて必要以上に美化されてるもんだ」
「…………?」
「例えば、の話だぞ」
相変わらず菊と寝所を共にする男はピロートークとしては雰囲気もへったくれもないような語り口調で話し始めた。
作品名:メフィスト・ワルツ 作家名:アンクウ