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水底にて君を想う 水底【0】

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水底【0】

 『友達でいたいんだ。お前とはずっと』
 突然、思い出して皆本は机に突っ伏した。
 人間、誰しも逃げ出したくなるような恥ずかしい思い出があるものだ。
 もっとも皆本のそれは、思い出にするには新しすぎるが。
(大の大人が何を言ってるんだろう。もう少し何かあっただろうに……)
 顔の横には資料が積まれている。
 バベルの研究室。
 皆本は頭を机につけたまま、五日ほど前のことを思い出す。
(何ていうか、ガキっぽいていうか……。やっぱり、まともに友人を作ったことがないせいかな?ケンカもろくにしてこなかったしなぁ)
 我ながら、幼稚なことをしたような気がする。
 遠くなった距離があのまま戻らない気がして、焦ってしまった。
 しかし、冷静になってみれば、賢木は時間を置いて自然に戻るつもりだったろう。
 皆本はため息をついた。
 おまけに謝りにいった本人に、慰められてしまった。
 賢木に抱き寄せられ、背中をポンポンと優しく叩かれたのを思い出す。
 少しばかり頬が熱くなる。
(……どうも、賢木相手だと子供っぽいことをしてる気がする)
 机に頬杖をつく。
 コメリカ時代のことが思い出され、皆本は目を閉じた。


「えっ?」
 聞かされた内容に、皆本は目を丸くした。
「あら、知らなかったの?」
 教えてくれたサマンサは意外そうに声を上げた。
 燃えるような赤毛が印象的な彼女は、賢木と皆本の共通の友人だ。
「……ここのとこ、忙しくて会えなかったから」
「そう。卒業間近でコーイチを巡って教授達の争奪戦が起きてるって聞いたわよ」
 皆本はちょっと笑ってみせる。
 事実、あちこちのラボから誘いが来ている。
 このままコメリカに残って研究を続けていくのも悪くないと、思っていた。
「賢木は日本に帰るのか」
「そ、バベルに就職するんですって。もう、荷物まとめてるって」
「ありがと、サマンサ」
 礼を言うとサマンサは笑って去って行った。
 皆本はその背中を見送る。
(賢木の奴、どうして僕には何も言わないんだ)
 妙に腹立たしい。
 足早に歩き出す。
 賢木を見つけて、文句の一つも言ってやる、そんな気持で。
 しかし、すぐにその勢いは消えていく。
 足は鈍くなり、やがて止まってしまう。
(よく、考えたら、言わないほうが当たり前なのかな……?)
 地面に視線を落とす。
 皆本と賢木は友人だ。
 彼女でもないのに、わざわざ報告する理由もないような気がしてくる。
 皆本には友人と呼べる存在がずっといなかった。
 だから、こんな時は困惑する。
(『キャリー』のことで随分迷惑をかけたし)
 つい二ヶ月ほど前のことを思い出す。
 胸が痛くなる。
 もう『キャリー』はいないのだ。
 皆本は頭を振る。
 思い出すと泣きたくなる。
 『キャリー』がいなくなってから、賢木は気が付くと傍にいてくれた。
 遠くにいても目が合うと、軽く笑って『大丈夫か?』と言葉にせずに気にかけていてくれた。
(甘えすぎたかな)
 賢木が無理をして時間を作ってくれていたのは気が付いていた。
 一つため息をついて、皆本は踵を返した。

 校舎の屋上。
 本当は立ち入り禁止だが、入れるルートを皆本は知っていた。
 いけないこととは思っていたが、人がこなくて静かなのでよくここで本を読んでいた。
 風に髪を遊ばせながら、皆本は目を細める。
 やはり、誰もいない。
(ここで賢木を見たのはいつだっけかな?)
 壁に背中を預ける。
 大学にスキップで進学してしばらくした頃、目立つ日本人が留学してきた。
 何時も沢山の友人に囲まれて、明るい笑顔の男だった。
 遊んでいるようなのに医学部でトップの成績だとも聞いた。
 名前を『賢木修二』だと知ったのは、喧嘩の話を聞くようになってからだ。
(あの頃の賢木は一日一回は喧嘩をしてて、近寄らない方がいいかなって思ってた)
 皆本は目を閉じる。
 印象的だったあの日のことを思い出す。
 何時ものように本を手に、この屋上の扉を開けた。
 すると、柵もない縁の所に人が立っていた。
 思わず飛び降り自殺か、と驚いたのを覚えている。
 その人物は皆本に気がつかずにジーンズのポケットに手をかけ、ただ、空を見ていた。
 それが賢木だと分かるのに皆本はしばらくかかった。
 随分と印象が違ったからだ。
 喧嘩をしている時の顔とも女性に囲まれている時の顔とも違っていた。
 無表情で、それでいて澄んでいて、寂しそうだった。
 見てはいけないものを見たような気がして、皆本は慌てて戻ろうとした。
 扉がガチャンと音を立てた。
「よー、誰かしんねえけど、ここお前の場所か?悪りいな、邪魔しちゃって」
 ちょうど、扉の影に隠れたのか、賢木は皆本だと分からない様子で声をかけてきた。
「か、構わないよ、別に僕の場所じゃないから」
 早口でそう言うと、皆本は急いでその場を離れた。
 あれが彼の本当の表情なのかも知れない。
 そう思うと何故だか胸が痛んだ。
 興味が出て、わざと賢木に殴られにいったのはその三日後だった。
 皆本はそっと目を開ける。
 あの時の賢木が、そこにいるような気がした。
(……)
 ふと空を見上げてみる。
 青い空だ。
 友人になってから、親しくなればなるほど、賢木が遠く感じられることが増えた。
(始めのうちは勘違いかとも思っていたけど)
 皆本は壁に背中を預けたまま、腰を下ろす。
 賢木にはラインがあるのだと気が付いた。
 大らかで誰でも受け入れているようで、その実、その先には絶対に進めないラインが。
 そこを越えようとすると、距離が離れる。
 あからさまに避けられる、ということは無かったけれど。
 思えば、『キャリー』の件以来、それを皆本が越える事を賢木は許してくれていた、ような気がする。
 皆本は顔を伏せる。
(教えてくれないのは、僕をラインの向こうへ戻そうとしているのかも……)
 日本とコメリカ、どう考えても疎遠になる。
 そのうち、友人とも呼べなくなるような気がする。
 しらずに皆本は唇を噛み締める。
(嫌だな、それは)
 想像すると、思った以上に辛い。
 皆本は一人、首を横に振る。
 ふと、思いつく。
(そうだ、僕も日本に帰ればいいじゃないか)
 どうして、そんな簡単な事に気が付かなかったのかと可笑しくなる。
 急いで立ち上がると皆本は、携帯を取り出す。
(バベルならちょうどいい。確か、採用試験はまだ間に合うはずだ)
 早速、問い合わせて書類を取り寄せよう。
 何だかワクワクしてくる。
 賢木に内緒にしておいたら驚くだろうか。
 そんなことを想像して、皆本は自然に笑みを零した。


 揺すられる感覚。
 近くで誰かに名前を呼ばれてる。
「……と、みなもと……」
 聞きなれた声に、皆本は慌てて体を起こす。
 うっかり寝入ってしまっていたようだ。
 目の前に賢木の顔がある。
「寝るなら、仮眠室に行けってーの」
 そう言いながら、賢木は皆本の首筋に手を当てる。
 体調を診ようとしているのだろう。
「あ、いや大丈夫だよ」
「よだれ、ついてんぞ」
「えっ!?」
 口元を拭えば、賢木が意地の悪い顔で笑ってる。
「賢木」