水底にて君を想う 水底【0】
皆本が睨めば、賢木は肩を竦める。
「確かに問題ねーな」
手が離れる。
「ちょっと、休憩してただけだよ。何しろ量が量で」
机につまれた資料をポンと叩く。
「お前も大変だね。フェザーのことやらパンドラのガキ共のことやらで」
「ん……」
皆本は真剣な顔になる。
今、フェザーは鳥の姿で皆本の家にいる。
「んな顔すんなって。多少なりともフォローすっから」
「頼りにしてるよ」
笑って賢木を見れば、驚いたような顔をされる。
「賢木?」
何に驚いたのか皆本が首を傾げると、賢木はなんでもない、と笑い返す。
「おっとそうだ」
賢木は懐から、箱を取り出す。
手の中に納まる、包装された平べったい箱だ。
「?」
疑問符を飛ばしている皆本の手にそれが渡される。
「誕生日だろ、今日」
「えっ……ええ!」
「そんなに驚くことじゃないだろ」
目を丸くしている皆本に賢木は口を尖らせる。
「いやだって、これ」
「誕生日プレゼント」
「貰えないよ。僕はお前の時に何もしてないし」
皆本は箱と賢木を交互に見る。
お互いの誕生日、気が向けば食事を一緒にするぐらいのことはしたが、プレゼントをあげたことも貰った事もない。
「ここのところ迷惑かけたから、そのお詫びも兼ねて」
「迷惑なんて……。いいのか、ほんとに?」
「ああ。つーか大したもんじゃないぜ」
ちょっと、躊躇いながら包装に手をかける。
箱の中には銀色の懐中時計が納まっていた。
「大したものじゃないって、高かったんだろ」
皆本はそう言いながらも嬉しそうに、それを取り出す。
「気にすんな。綺麗な販売員だったから」
「なるほど。案外、そっちが目当てだったんじゃないか?」
「ばれたか」
二人で笑う。
皆本はそれを胸の内ポケットにしまう。
賢木と目が合う。
その瞳が優しく笑ってる。
今は、きっとラインの内側にいる。
皆本は、慣れない重さに、心地よさを感じた。
作品名:水底にて君を想う 水底【0】 作家名:ウサウサ