幼なじみロマンス
礼を言わなければならない。
そう思い、蝮は口を開く。
しかし。
「ずるいわ」
口から出てきたのは別の言葉だった。
それでも、蝮は続ける。
「昔は背の高さも体つきも、私とあんまり変わらへんかったのに」
小さかった頃のことが頭によみがえっていた。
身体の大きさは、たいして違わなかった。
走る速さも、力だって、たいして差はなかったはずだ。
だが、今は違う。
さっき、蝮が取り出すのに苦労していた本を、柔造はあっさりと取りだした。
本が頭上から落ちてきたときは、蝮を引き倒して、かばった。
高い場所にある本へと伸ばされた腕、守るために覆いかぶさってきた身体、その力強さが、自分とは違う。
「今では、そんなに大きなって、ずるいわ」
そう言ったあと、はっと我に返った。
くだらないことを言ってしまった。
蝮は後悔し、発言を取り消そうとする。
けれども、そのまえに柔造が言う。
「せやなあ」
穏やかな声。
「たしかに、ずるいかもしれへんな」
こんな反応が柔造から返ってくるとは予想していなくて、蝮は眼を大きく開いて黙りこんだ。
柔造は続ける。
「せやけど、そのずるい分、助けられるようになったで」
蝮よりも大きく強くなった分ということだろうか。
「せやから、俺の助けがいるときは言うてくれ」
やわらかく笑う。
「助けるから、ひとりで全部背負うな」
その姿が、頼もしく見えた。
ドキリとした。
しかし、すぐに蝮は自分の中にある妙に高揚した気分を打ち消す。
なんで、こんな。
バカバカしい。
気を引き締める。
「なに、わけのわからへんこと言うてるんや」
蝮は素っ気なく言うと、歩きだした。
だが。
「なんで、ついてくるんや」
「俺も、ここでの用は済んだからや。それに、その本に興味あるしな」
隣を歩く柔造は蝮が持っている本をチラリと見た。
……そういうことなら仕方ない。
蝮はそれ以上は文句は言わず、柔造と一緒にカウンターのほうへ行った。