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座敷童子の静雄君 3(続いてます)

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只でさえ、彼はバナナパフェとクッキー全部を胃袋に納めてしまっていた。お菓子の食べすぎで、夕飯を残す羽目になったら本末転倒ではないか。
だから帝人もにこにこしながらも容赦なく、更に彼からそのお皿を掻っ攫った。

「何すんだ!!」
「駄目です静雄さん、デザートは食後に食べるものです♪」
「ここに並べられてんだから、俺が何から食おうと勝手だろ!!」
「駄目です。お菓子は最後です」
「みぃかぁどぉぉぉ?」
「恨めしそうな声出しても、駄目なものは駄目です」

食に関しては、頑として譲れない。
腰に手を当て、しっかりくっきりと静雄に『めっ』と軽く睨んだ。

「もし、静雄さんが食後まで我慢できましたら、蒸しプリンをもう一個、このお皿に盛りつけますよ?」
「うぐぐぐ」
「ちょっとの我慢で二個に増えるんですよ。二倍ですよ♪」
「うぐぐぐぐぐぐぐ」
懐柔策に、判りやすい男の顔に、早速迷いが生まれた。
「もう一声」
「では、蜂蜜シャーベットもお付けしましょう。どうしますか? 静雄さん?」
「よし。乗った!!」

二人、いつの間にかそれぞれ悪戯っぽい顔をしていた。
お互い顔を見合わせたら、最初に静雄が噴出して、つられた帝人も破顔する。

(ああ……こういう所は静雄くんだなぁ……)

まるで雪解けを迎えたように、【静雄さん】に抱いていた苦手意識が、みるみる内に崩壊した。
「……良かった……」
「ああ? 何がだよ?」
「難攻不落の『てめぇ、これ以上こっちくんじゃねー!!』の壁が、やっと無くなりましたから」
「はぁ?」

思えば、彼はいつも帝人から視線を逸らし、まともに目も合わせる事もほぼ無かった。
かといって嫌われている訳ではなく、ぶっきらぼうだけど、不動産屋を撃退した時のように、いつも細やかに気も配ってくれるから。

「静雄さんが優しい人だって知ってますし、きっと静雄くんが照れ屋に成長しちゃったんだろうなって思っていましたけれど、やっぱり目も合わせて貰えないのって、ちょっと寂しかったですから。今、もの凄く安心できました♪ 静雄さんは静雄くんで、全然変わっていないって。うふふ、静雄さん、大好きです♪」
(今日本気でストーカーかしらって疑ったけど、本当に本当にごめんなさい)

そんな心からの謝罪も含まれた『大好き』だったけど。
言われ慣れていない彼は、みるみる内に耳まで顔を赤く染めてしまった。
次第にわたわたと挙動不振に手足をぱたつかせたりもしたが、帝人がにこにこと見下ろしてる内に俯き、ブルーサファイアサングラスを装着すると、むすっとスプーンを手に取った。

「……静雄さん、サングラス外してください♪……」
「うるせぇ、てめぇもとっとと食え。メシ冷めるぞ」
「はい♪ シチューもご飯もお代わりありますから、沢山食べてくださいね」
「おう……、このグラタンうめぇな………っ、あちっ!?」
「舌、火傷しないでくださいね。そうだ、私、ふーふーしましょうか?」
「帝人ちゃんよぉ……、俺の事、いくつだと思ってんだ? あああ?」
「すいません♪ 静雄くんが大きくなった姿だと思ったら、つい?」
「ニヤニヤ笑ってんじゃねー!!」

からかい過ぎて、静雄にがしがしに頭を撫でられた。
正直、頭皮ごと髪の毛をごっそり持っていかれそうな位痛かったが、そんなスキンシップまで貰え、彼と一気に距離感が縮まったのを感じ、益々嬉しくなった。

その後、言葉数はやっぱり少ないけれど、ほのぼのと安心できる穏やかな時間が流れていき、デザートも食べ終わり、温かい紅茶を飲む頃には、やや饒舌になった静雄から来神高校時代の想い出話を聞くことができた。
……たった一人の天敵に出会ってしまったが故に、散々な目に合って、何と言って慰めれば良いか判らないぐらい、悲惨な話が目白押しだったが。

「いいか、ノミ蟲野郎には絶対近寄るんじゃねーぞ。あいつはいつも俺から大事なモンを掻っ攫っていく。お前が傷つけられたらと思うと……、俺は……俺は、何するかわかんねぇ……!!」

ヘビーなお話を聞いていたら、いつの間にか時計の針が九時を回っていて。
帝人は、己の目が飛び出るぐらいビックリして立ち上がった。

「大変!! 静雄くんに夕御飯食べさせないと!!」
「ぶっ!! げほっ!! ごほっ!!」
紅茶を嚥下しそびれた静雄が、盛大に噴出して咽こんでいたが、構っていられなかった。
なんせ小さな可愛いあの子は今頃、ひもじい空きっ腹を抱えて、帝人に呼ばれるのを、健気に延々待っている筈。

「御免ね御免ね静雄くん、今直ぐここに呼ぶから!!」

帝人自身、涙目になって、慌てて祖母がくれた魔力が織り込まれた手鏡を棚から出し、水道の蛇口タブを降ろす。

「ま……、待て帝人!! やめろぉぉぉぉ!!」

自分の零した紅茶にまみれ、息絶え絶えになった静雄が顔を上げた瞬間、目も眩むような閃光が彼を包み込んだ。
そして、ばったりとテーブルの上に倒れた静雄の真ん前で、小さないつもの静雄がぺたりと座り込み、涙目になって帝人を見上げていて。

「……え?……」
「……う……、わぁぁぁぁぁぁん!!………」

今目の前で一体何が起こったのか?
目が点になって固まった帝人が声をかける間もなく、彼はぼろぼろと泣きじゃくりながら、裸足で家から飛び出していってしまった。