座敷童子の静雄君 3(続いてます)
座敷童子の静雄君 afterのafter 後編5
【電子レンジを三回利用するだけ。絶対失敗しない、ホワイトソースの作り方♪】
一度目は小麦粉とバターの固まりを耐熱ボールに入れ、2分チンしてバターを完全に溶かし、小麦粉と混ぜ混ぜしましょう。
次に、牛乳を半分だけ投入。泡だて器を使い、混ぜ混ぜしてからまた2分チン。
最後に残った牛乳をもう一度足し、泡だて器で混ぜ混ぜしてから最後に2分チン。
とろみがついていれば、其処に塩や胡椒やコンソメスープの素を入れ、お好きな味に調えて終了です。
ダマは全くできません。
液状のままならもう一回、レンジで2分程度温めて下さい♪
★☆★☆★
(うん、これにしよう♪)
簡単だし、分量も適当でいいし、何より焦がす心配がない。
帝人はもう一度、パソコン画面に出したレシピを一読して頭に叩き込むと、静雄にばれないうちにこそこそっと電源を落とした。
ホワイトソースさえ完璧に作れさえすれば、シチューは楽勝である。
小ぶりの玉ねぎとジャガイモを丸ごと、大きく乱切りした人参、そして塩麹で軽く二日漬けた鳥のもも肉を厚くぶつ切りにし、時短の為、中型圧力なべでぐつぐつと煮る。
野菜がほくほくと崩れそうなぐらい柔らかくなれば、ホワイトソースを投入し、一煮立ちさせればシチューは完成だ♪
冷蔵庫の野菜室を覗き、もう一品、体が温まりそうなメニューを考える。
静雄の差し入れのお陰で、今なら何だって作れそうだ。
豊富な品揃えから厳選した結果、ソーセージとブロッコリーとカボチャとトマトのチーズグラタンに決めた。
余ったホワイトソースも使えるし、温野菜のサラダ代わりに丁度良い。
細長いグラタン皿を二つに、オーブンレンジに突っ込み終わっても、……まだシチューの具財が煮込まれるまで時間があった。
(んー、牛乳がまだ残ってるし、卵あるし、フライパンで蒸しプリン作ろうかな♪ 静雄くんも大好きだし、冷やしておいてあげたら、今晩喜んでくれるかしら?)
可愛くて頼もしい小さな守り神が、目を細めてはくはく食べてくれる光景が脳裏に横切ると、帝人自身の口元もむふむふ緩み、心もほっこり温かくなる。
早速、プリンの金属型の内側に、スプーンでバターを塗り塗りしていると、静雄が突然「見ていいか?」と聞いてきた。
「はい、いいですよ♪」
てっきり、帝人がプリンをどう作るかを見学したいのかと思ったのに、静雄はカウンターにポツンと置いてあったノートパソコンを抱え持ち、のっしのっしと居間に戻っていってしまった。
「……へ?……」
あの人、今度は一体何をする気だろう?
未だ、彼のストーカー疑惑が抜けてない故に、帝人の背筋がぞくりと寒くなる。
まさか、……こっそり帝人の交友関係を調べる為、メールチェックとかするつもりだったら?
(ああああああ、どうしよう!?)
じんわり涙ぐみたくなったが、慌てて手の甲でぐしっと目元を拭った。
勝手な想像で命の恩人を変態にするなんて、恩知らずで恥ずべき行為である。
それにうっかりな自分は、お客様な静雄に、まだお茶の一つも出していないではないか!!
(あわわわわわ!! あわわわわわわわわぁぁぁぁぁ!!)
大慌てでインスタントのコーヒーを沸かし、手作りのプレーンクッキーをありったけ盛った皿を準備した。
素朴な焼き菓子は、朝食時でも食べられる用にと甘さをやや控えめに作ってある。
静雄くんは甘党なので、成長した彼だって、これではきっと物足りない。
一応、クッキーにつけるディップ代わりにブルーベリージャムとカスタードクリームの小瓶、それから蜂蜜を二匙加えたヨーグルトをミニカップに少量盛ったが、茶請けが一種類なのはちょっと寂しい。
なのでバナナ一本を簡単にぶつ切りカットして幅広い大きなグラスに詰め、マシュマロも敷き、上からチョコレートとバニラアイスを大量に盛り付け、最後にカットオレンジを飾り、パフェ風にしたものを追加した。
短時間で作ったにしては、まぁまぁの出来栄えだろう。
(よし!!)
「……静雄さん、インスタントで申し訳ないんですが、コーヒーをお持ちしました。後20分程シチューを煮込みたいので、良かったらクッキーを軽くつまんでてください……」
「おう、ありがとよ♪」
彼はTVを消し、床に胡座をかいたまま、ノートパソコンをソファーにちょこんと台代わりに使って、マウスを走らせている。
どうやら面白い番組が無かったので、ネットで無料動画サイト巡りをしたかったようだ。
勝手なメールチェックじゃなかったので、心の中で『疑ってごめんなさい』と謝り、彼女もほっと胸を撫で下ろす。
居間にはテーブルも何も無いから、フロアにトレイを直置きするしかなかったけれど、静雄は気にせず、早速アイスの乗ったバナナカップに手を伸ばしてくれた。
目をにこにこ細め、大きな口で豪快に冷菓を食べる姿が気持ちいい。
小さな静雄くんと同じ表情を見つけ、帝人も少し嬉しくなった。
そして、予告通り20分後。
「静雄さん、お食事の準備ができましたので、こっちにいらしてください♪」
「おう」
と言いながらも、今、パソコン画面はとってもいい所らしく、返事を返した癖に立ち上がれない彼がとても微笑ましい。
そんなにキラキラとした目で、何を熱中して見ているのかと思いきや、K-1グランプリだった。
(あはっ、昨夜の静雄くんとまたまた同じだ)
もう一つ共通点を見つけ、ほっこり心が綻んだが、同時に違和感も覚えた。
(あれ? 変だ??)
何かが心に引っかかる。
腕を組み、眉間に皺を寄せ、うんうん考えていると、突然喉に刺さっていた小骨が取れたように、歪な歪みの正体に気がついた。
『…これ、俺見損ねたの…!!』と、昨日の夜、彼は言っていたけれど、静雄くんにつけてあげたK-1の動画は、確か昨年の12月31日にTV放映された物。
17年も前の時代から飛んでくる子供が、リアルタイムで見られる筈がないではないか。
(……あれれ? やっぱり時間軸って変だよね?……)
子供の勘違いかな? とも思ったけれど、大晦日にTVで格闘技を放送するようになったのだって、10年以上も大昔じゃ無かった気がするし。
「どうした? 難しい顔をして?」
考え込んでいたら、目の前にのっそりと立つ静雄がいてビックリだった。
彼は当の昔にパソコンを切り終え、不思議そうな顔でこくりと小首を傾げている。
「……い、いいえ、何でもないです!?……」
裏返ってしまった声。
何かあったとバレバレではないか!!
「……そっか、ならいい……」
「はい!!」
静雄は怪訝そうな面持ちだったが、深くは追求してこなかった。
のっしのっしとキッチンに向かう彼の後に、帝人は一歩遅れて追いかけながら、大きく嘆息する。
(……はぁ、助かった……)
問い詰められたって、静雄さんは静雄くんじゃないんだから、意味無いし。
静雄くんだってちっちゃいから、きっと今のこのもやもやを晴らせるぐらいの完璧な説明を、子供に求めるのは酷な筈だ。
「お、プリンじゃねーか♪」
テーブルについた静雄が、早速メインディッシュそっちのけで嬉しそうにデザートの皿とスプーンを取り上げた。
こういう所まで、チビ静雄の面影を残さなくっていいのに。
作品名:座敷童子の静雄君 3(続いてます) 作家名:みかる