突然の
甘い?
「手塚がいなくなって寂しいかい?」
ぼんやりとテニスコートを眺めていた不二に話しかけてきたのは幸村だった。
一日のメニューを終えた夕方は肌寒く、不二の半袖姿は目に余る。対照に、幸村はすでに着替えていて、カーディガンを肩に掛け、手にはブランケットを持っていた。
「そんな風に見えたかな?」
「少しね」
当たっている、のかな。
不二は幸村に顔を見せないよう、ずっとテニスコートを眺めたままでいた。すると、方に何か暖かいものが載る。チェック模様のそれを、落とさないように掴む。
「君にそれほど思われている手塚がうらやましいよ」
「え?」
不意に聞こえた言葉に戸惑い、思わず身体をひねる。幸村はちょうど真横、肩が触れそうなくらい近くに立っていた。
幸村もまた、テニスコートを眺めながら、口を開く。
「手塚には嫉妬するなぁ、って」
「でも、幸村くんだって入院してたときに真田や切原くんに心配されてたんだよね? 部員に慕われるという意味じゃ一緒だと思うけど……」
励ますつもりで並べた言葉に意味をもたれず、大きなため息を吐かれる。
幸村は不二のほうを向く。冷たい風が、髪の毛を揺らしていた。
「違うよ。君に想われているかいないか、全然違う」
まっすぐと、射抜くような幸村の瞳に不二は視線を逸らせなかった。
「不二くんは、俺が入院したときに、心配してくれた?」
「…………それは、出会ってなかったからよくわからない」
本心を口にする不二。そして、けど、と続けた。
「今起こったなら、心配するかな」
不二は、マメで硬くなった幸村の手を取り、握り締める。
「もちろん、病気になったときに支えてあげることができなかったというのは寂しいよ。けど、僕はそれ以上君と出会えたことがうれしいんだ。幸村くんが病気を克服してくれたこと、そこで支えた君の仲間に感謝してる」
不二は目を閉じて、握る手に力をこめる。
「過去のことも大切な君の一部でも、僕は現在と未来を大切にしたいと思ってる」
「……不二くん」
幸村は、もう自分を見ていない不二の頭に、自分の額をコツンとぶつける。
「手塚は、やっぱり僕たちにとって部長で、仲間だから、突然いなくなって戸惑うことはあるよ。それでも、仲間としてのことだから。」
「うん」
「特別に想ってるのは、幸村くんだけだから」
「うん」
幸村は不二の手を強く握り返した。
不二はふふ、と笑うと、楽しそうに言う。
「大丈夫、幸村くんがいなくなったらもっと動揺していると思うよ」
「それはそれは。消えるのはいやだけど、ちょっと見てみたいな」
二人でくすくすと笑い合うと、また一段と強く風が吹いた。
そろそろ戻ろうか、そう言い出したのは幸村で、不二も戻るため宿舎に足を向ける。一度だけテニスコートを振り返ると、数分前よりもほんの少し、景色が色が濃く、色づいて見えた。
幸村のキャラが安定しない。