二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

非喫煙者のスモークホリック

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
来神時代
臨也と門田が煙草吸ってます


煙草で気分が落ち着くなんてのはただのデマだ。静雄はそう信じている。ならば何故20歳早々に吸い始めたこれが今ではもう手放せない存在になってしまっているのかと問われれば、そうなるに至った経緯がもう胸糞悪いことこの上ないので、静雄はそれを問われないために煙草って気分が落ち着きますよねなんて嘘を吐く羽目になっている。子供の頃から飴玉が手放せなかった、その時点で口寂しいことに耐えられない性分なのだろうということも理解している。だがそれだけとは言い切れない胸糞悪い経緯を、静雄は何故かときどき、誰に問われるわけでもなく思いだして、その度泣きたくなるくらいに苛つくのだ。


「ねーねードタチン、あれ持ってるんでしょ、あ、れ。いいから早く出してよ。ね? 俺もう耐えられなーい」
昼休みになるや否や屋上に呼び出され、まるでどこかのトイレで密かに行われるべきであろう怪しげな誘い文句を繰り出す悪友に、門田はいい加減にしろと叫んでしまいたかった。それができないのが、こうやってこの男にまとわりつかれることになった所以なのだが。
「残念だけどな、ほんとにないんだって。そもそも俺は吸わないんだから」
「そんなこと言って、どっかに隠してるんでしょ? 俺はなんでも知ってるよ、それだけが取り柄なんだからね」
「あ、こら!」
本当にどこから嗅ぎつけてくるのか、自称情報屋の男は門田の制服の内ポケットを器用に漁り、目当てのものをひょいと取り出した。
「ほーら、やっぱあるんじゃん。ドタチンのいけずー」
「ったく、頼むから出所だけはバラすんじゃねえぞ、臨也」
わかってますって。まったく信用のならない声色で言って、臨也は奪い取った煙草にポケットから取り出したライターで火をつけた。残りはもちろん、元の場所ではなく、臨也のポケットへ。そもそもその煙草は門田の所有物ではないので、臨也が持っていてくれた方が助かると言えば、助かるのだが。
「まードタチンも難儀だよねー。いくらつるんでる奴らだからって、高校生の喫煙くらい見逃してやればいいのにさ」
「まったくだ。でもこれが俺の流儀ってやつでな、本当ならお前にだって吸わせたくは」
門田の友達を思う心は、あっけなく無視される。新たに取り出して火をつけた煙草を無理やり口に押し込められれば、何も言うことなどできなくなってしまう。
「そんなこと言っちゃって、俺にこの味を教えたの、ドタチンじゃない」
「好んで教えたわけじゃねえし、教えようと思ったこともない」
「いくら言ってもダメダメ。なんてったって共犯だし」
好むと好まざるとに拘わらず、確かに共犯であることだけは間違いない。門田はもうそれ以上本当に何も言うことが出来ず、仕方なく手にした煙草をもう一度口に運んだ。流されるのが敗因だとわかってはいても、結局これが門田の性格なのだ。

他校がどうなっているのかは知らないが、少なくともここ来神学園では、屋上に出入り禁止の札はなく、生徒であれば誰でも自由に立ち入ることができる。昼休みともなれば弁当を持ち寄った生徒の姿をけっこうな割合で見ることができるのだが、冷たい風が容赦なく吹き付けること真冬においては、こんな場所で休み時間を過ごそうという物好きの数は限られるらしい。こうやって、教師に隠れてちょっとした悪事をやらかそうと目論む者以外には。広々とした屋上には、今のところ数えてたった2人の人間しか存在しない。

「あー、やっぱりここにいた。いてほしくはなかったけど」
するとそこへ、更なる物好きが現れた。来神学園で最も敵に回していけない人間ベスト3の、おそらく3位。
「新羅じゃないかー。どう、一本?」
「なんだ、また渡しちゃったのかい。医者の視点で言わせてもらえば、煙草はよくないよ。身体に悪い」
とは言いつつも、新羅は別段優等生というわけでもない。本来の意味での医者でもなく、門田のような性格をしているわけでもないので、その言葉にはなんの説得力も強制力も存在しなかった。
「この季節にお前がこんなところに来るなんて珍しいな。どうかしたのか、新羅?」
「うん? うん……そうだね、まあどうかしたから来たんだし言いたいことはたくさんあるんだけれどあえて一言でいうなら」
はたと、門田は新羅が屋上へ上がってきてから一度もその鉄扉の傍を離れていないことに気付く。それもドアの開くのとは反対側の、言ってしまえば“いつでも逃げられる位置”に。
「死中求活。とりあえず逃げろ! って感じ?」 
新羅がお得意の四字熟語で今の状況を言い終わらすか終わらせないうちに、その姿は見えなくなる。いや、隠れる。今まさに新羅が出てきた屋上の重い鉄扉によって。それは開かれるのではなく、ド真ん中に穴を開けて吹き飛んだ。
「……あは、相変わらず馬鹿力」
この屋上に人気のない理由は、その寒さ以外にもいくつか理由がある。ひとつは、前述敵に回してはいけない人間ベスト3の第1位、折原臨也がここを人間観察の場として好み常駐していることであり、もうひとつは、そこから現れた人間、平和島静雄。来神学園内だけにとどまらず、池袋中に名を轟かすその男が、天敵折原臨也を狙ってここに出没すること、だ。
「よぉ臨也。テメェここで何してやがる」
臨也は、初めて会ったあの日以来臨也と見るや否や襲いかかってくる猛獣を目を細めて見つめてから、ああ機嫌はすこぶるよさそうだなと肺にためた煙を吐き出す。始めこそその性格のギャップに多少戸惑いはしたものの、最近になってようやく扱いがわかってきたと自負する臨也の見立ては、一応未だ外れたことはない。

「シズちゃんもどう、一本?」
「煙草は20歳かって習わなかったのかノミ蟲が」
「知ってたけどさ、シズちゃんって優等生だよね」
「皆勤賞狙ってるんじゃって噂もあるよね」
「おい構うな新羅」
「はぁい。じゃあまあ、がんばってー」
門田に連れられてそそくさと退場した2人組を見届けて、静雄は息を吐く。空気の流れが変わっていったん落ち着いてみると、先ほど破壊した屋上のドアに申し訳なくて気が滅入った。新羅の言っていた言葉があながち間違っていないだけに、それだけじゃ意味がないこともわかっているので余計にだ。
「で、なんか用かな? 静雄くん」
「名前で呼ぶんじゃねえ気色悪ぃんだよ」
「じゃあなんて呼べばいいのさ。シズちゃんって呼んだら怒るくせに」
口を尖らせても、可愛くないしむかつくものはむかつくのだからどうしようもない。同じ空気を吸っているだけで吐き気がする。ならばそもそもこんなところまで足を運ばなければいいだろうと心の声が囁くのがまた苛つく。それでもこいつを殺さなければ俺は自由になれないだから早く消してしまわなければならない害だ害悪だ死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺
「ま、まあまあ落ち着いてって。ね?」
「……あぁ!?」
「ほら、吸いなよ」
落ち着くよ。そう言っていつの間にか目と鼻の先にまで近寄っていた臨也が、静雄の顔面めがけてため込んだ煙をふう、と吐いた。静雄の記憶があるのは、いつもだいたいそこまでだった。