催眠術師の心臓
「少しは素直になれってー」
「……くだらん」
そんな感じで催眠術を面白半分でかけられた泰二さん。
見た目に変化は無かったのだが。
部屋に帰ってきて、兄の姿を目にし、勝手に身体が反応していた。
「………………」
「た、たいじ~?」
ベッドの上、太一を抱え込み暫し。
顔を赤くしながらも、困惑の極みだった太一の呼び掛けにも無言で通す。
「たいじってば~たいじ~」
しかし何度と呼ばれ、溜息を吐きながら、ぽつりと呟く。
「……子供体温であったかいからだ」
「お、おれ、子供じゃないぞーっ!!」
催眠術にかかってても一応の建て前は用意している泰二さんでした。
「うおっ!?」
泰二が部屋に帰ってしまい、あーあ、とか言いつつ気を抜いていた所に、突然のタックル。
別に押し倒されはしなかったが、唐突にタックルをかましてきたそいつはその体勢のまま、動く様子が無い。
その内にごろごろとか猫がする様に頭を押し付け、甘えてきた。
「……え、えーと、どーした?トム?」
「んん~♪」
八木沼の動揺の入った問いに答を返すでも無く、頭を擦り付けてくる。
物凄く上機嫌なのは何故だろう。
八木沼があまりの事態に現実逃避気味にそんな事を思っていると、横手に居た平田が呟いた。
「……どーやら催眠にかかっちまったらしーな」
「見てただけなのにか!?」
「そういう事もあるだろう。……じゃあ、俺は席外すから。ごゆっくり」
「おいぃ!?」
「……えーと、で?俺の好きにしていーってかー?」
「……ん」
いつも通りの軽い口調で、いつもよりちょっとばかり強めにおちゃらけて。
そんな八木沼に、目の前のトムは顔を赤らめはにかみながら、こくん、と小さく頷いた。
「……は、はは、ははは~………」
言葉が続かない八木沼さん。
いつもなら直ぐ様文句が飛んで、喚き立てるのに、随分と素直というかなんというか。
反応が違えば、こうまで勝手が違うものなのか、と今の己の状態を考える。
多分今、顔は赤いし変に緊張もしているよーな。
これはあれか、照れか、照れなのかっ!!と自分に突っ込みを入れつつ、改めてトムを見る。
顔が赤いのは先程からだが、瞳が潤んできているのは結構クる。
……主に下半身に。
(これはあれか、据え膳か?)
ならば男としてヤル事は一つだ。
「……んじゃ、部屋行くか?」
「ん♪」
ふにゃ、と幸せそうに、笑顔。
嬉しそうだ。とことんまでに、嬉しそーで幸せそーだ。
今からこれを、この笑顔を、多分自分は泣き顔にさせ……
「……………」
「八木沼?」
首を傾げて自分の名を呼ぶトムの仕草やら表情やらに、
「平田ーーー!!ヘールプゥゥゥ!!!」
八木沼さんは耐え切れませんでしたとさ。
力の限りに助けを呼んだ八木沼さん。
その助けはそう時間も掛からず現れてくれたのだが。
「……で、どーしたんだ?というか、何したんだ?」
「なんもしてねーよ!!」
「……じゃあ何でトムはあんなにこっちを睨んでくるんだ?」
「………知らねーってば………」
深い溜息を吐きながら、八木沼は困り果てた様に呟いた。
先程の笑顔を泣き顔にする事は回避出来たものの。今現在のトムは、隅の方でこそこそと話している八木沼と平田を、とっても不機嫌そうに睨んでいる。
……と、いうか。
唇尖らせながらのその表情は、明らかに拗ねていた。
あの顔はヤバイ。理性が飛ぶ。
本気でそんな危機感を抱きつつ、八木沼は必死で言い募る。
「と、とにかく元に戻そう!!あのままはやばい!!すっごくやっぶゎい!!」
「あーもー落ち着けよ……あ」
「え?」
ごすっ
八木沼、悶絶。
いつの間に手にしていたのか、トムの投げたボールが八木沼の頭にクリーンヒット。
「うわぁ……」
平田もこれにはちょっと引いた。
「……ってーな!!流石にこれはないっ……」
目の端に涙を滲ませながら抗議しようとした八木沼だが、トムの顔を見てその勢いを止めた。
口はへの字に結ばれて、頬は赤くて涙目で。
(えぇ!?結局泣き顔にっ!?)
慌て、混乱する八木沼を置いて、やはりトムは素直だった。
「なんで平田を呼ぶんだよぉ!!しかもなんかこそこそしてくっついて!!ばかぁ!!」
「いやっ、ちょっ、まっ……えええっ!?」
八木沼がわたわたしてる内に、トムはそう叫んでその場からダッシュで逃げた。
何も出来ずにそれを見送り、あわあわしていた八木沼に、平田の声が突き刺さる。
「……あーあ。泣かせた挙句、逃げられたな」
「ちょっ、お、おれっ!?おれが悪いのかっ!?」
「他に誰がいるんだ?」
「い、いや、だって……」
言葉が続かない八木沼に、ふぅ、と溜息一つ。
「……で?ほっといていーのか?」
「……っうあぁぁぁ!?」
平田から向けられる呆れた様な視線と言葉にやっと状況を思い出したのか、八木沼は悲鳴に近い叫びを上げて、トムを追う為走り出した。
平田一人が残され、静寂満ちるその場には。
「……アホだなぁ……」
疲れを滲ませた、平田の心情そのままの声が静かに落ちた。
その後、なんやかやあって、元に戻ったトムだったが。
「……なんだよー、あの時はすっげーかーいかったのによー」
「うっさい!!お前なんか嫌いだー!!」
「うわー、ひっでぇー」
八木沼の笑いながらの軽口に、ぎゃんぎゃん喚き立てるその合間。
「……今の俺を見てないお前なんか、嫌いだ」
「………………へ?」
「なんでもない!!練習行くぞっ!!」
硬直している八木沼を置いて、トムはその場から逃げる様に離脱。
「……あー……えー……………え?」
まさか、とは思いつつ。
もしかしてその時の自分に嫉妬?俺が最近それで揶揄ってばかりいるから?
「……ははは、まさかな~…………」
口ではそう言いつつも、一度考えてしまった可能性は頭から消える事無く。
「平田ぁぁぁ!!どーしよう俺!!トムがすっげーかわいくてやっぶゎい!!!」
「うん解った。おれを巻き込む前に速やかに帰れ」
……取り敢えずこの先、助けは期待出来そうにない。
おまけ・経緯の一部
「悪かったって!!いやもうホント!!…だっておめー、なんつーかこう…!!」
「………もういい」
あわあわしながら弁明(出来ていないが)中の八木沼に背を向けて、枕抱えて涙目のトムの口からはそんな言葉が放たれる。
(…どこが『もういい』なんだかなーもー…)
八木沼は困りながらも、内心で幸せな苦笑をする。
ベッドの上。こちらに背を向け、目線さえ寄越さないけれど、そこから逃げないのはどうしてか。
他に逃げ込める場所が無い訳ではないだろうに。
声も態度も拗ね拗ねモード。それと共にどうしようもなく構って欲しいって心情が出まくっていて、もうかわいいったらありゃしない。
(………これで我慢しなきゃなんねーってどんなゴーモンだよ………)
いやでもこれって誘われてるのか?なんて苦悩を再開しつつ。
「なーなートム~」
「…うっさい」
こちらの呼び掛けから逃れる様に、ぽふん、と抱えていた枕に顔を埋め、黙ってしまった。
(あちゃ~…)
「……くだらん」
そんな感じで催眠術を面白半分でかけられた泰二さん。
見た目に変化は無かったのだが。
部屋に帰ってきて、兄の姿を目にし、勝手に身体が反応していた。
「………………」
「た、たいじ~?」
ベッドの上、太一を抱え込み暫し。
顔を赤くしながらも、困惑の極みだった太一の呼び掛けにも無言で通す。
「たいじってば~たいじ~」
しかし何度と呼ばれ、溜息を吐きながら、ぽつりと呟く。
「……子供体温であったかいからだ」
「お、おれ、子供じゃないぞーっ!!」
催眠術にかかってても一応の建て前は用意している泰二さんでした。
「うおっ!?」
泰二が部屋に帰ってしまい、あーあ、とか言いつつ気を抜いていた所に、突然のタックル。
別に押し倒されはしなかったが、唐突にタックルをかましてきたそいつはその体勢のまま、動く様子が無い。
その内にごろごろとか猫がする様に頭を押し付け、甘えてきた。
「……え、えーと、どーした?トム?」
「んん~♪」
八木沼の動揺の入った問いに答を返すでも無く、頭を擦り付けてくる。
物凄く上機嫌なのは何故だろう。
八木沼があまりの事態に現実逃避気味にそんな事を思っていると、横手に居た平田が呟いた。
「……どーやら催眠にかかっちまったらしーな」
「見てただけなのにか!?」
「そういう事もあるだろう。……じゃあ、俺は席外すから。ごゆっくり」
「おいぃ!?」
「……えーと、で?俺の好きにしていーってかー?」
「……ん」
いつも通りの軽い口調で、いつもよりちょっとばかり強めにおちゃらけて。
そんな八木沼に、目の前のトムは顔を赤らめはにかみながら、こくん、と小さく頷いた。
「……は、はは、ははは~………」
言葉が続かない八木沼さん。
いつもなら直ぐ様文句が飛んで、喚き立てるのに、随分と素直というかなんというか。
反応が違えば、こうまで勝手が違うものなのか、と今の己の状態を考える。
多分今、顔は赤いし変に緊張もしているよーな。
これはあれか、照れか、照れなのかっ!!と自分に突っ込みを入れつつ、改めてトムを見る。
顔が赤いのは先程からだが、瞳が潤んできているのは結構クる。
……主に下半身に。
(これはあれか、据え膳か?)
ならば男としてヤル事は一つだ。
「……んじゃ、部屋行くか?」
「ん♪」
ふにゃ、と幸せそうに、笑顔。
嬉しそうだ。とことんまでに、嬉しそーで幸せそーだ。
今からこれを、この笑顔を、多分自分は泣き顔にさせ……
「……………」
「八木沼?」
首を傾げて自分の名を呼ぶトムの仕草やら表情やらに、
「平田ーーー!!ヘールプゥゥゥ!!!」
八木沼さんは耐え切れませんでしたとさ。
力の限りに助けを呼んだ八木沼さん。
その助けはそう時間も掛からず現れてくれたのだが。
「……で、どーしたんだ?というか、何したんだ?」
「なんもしてねーよ!!」
「……じゃあ何でトムはあんなにこっちを睨んでくるんだ?」
「………知らねーってば………」
深い溜息を吐きながら、八木沼は困り果てた様に呟いた。
先程の笑顔を泣き顔にする事は回避出来たものの。今現在のトムは、隅の方でこそこそと話している八木沼と平田を、とっても不機嫌そうに睨んでいる。
……と、いうか。
唇尖らせながらのその表情は、明らかに拗ねていた。
あの顔はヤバイ。理性が飛ぶ。
本気でそんな危機感を抱きつつ、八木沼は必死で言い募る。
「と、とにかく元に戻そう!!あのままはやばい!!すっごくやっぶゎい!!」
「あーもー落ち着けよ……あ」
「え?」
ごすっ
八木沼、悶絶。
いつの間に手にしていたのか、トムの投げたボールが八木沼の頭にクリーンヒット。
「うわぁ……」
平田もこれにはちょっと引いた。
「……ってーな!!流石にこれはないっ……」
目の端に涙を滲ませながら抗議しようとした八木沼だが、トムの顔を見てその勢いを止めた。
口はへの字に結ばれて、頬は赤くて涙目で。
(えぇ!?結局泣き顔にっ!?)
慌て、混乱する八木沼を置いて、やはりトムは素直だった。
「なんで平田を呼ぶんだよぉ!!しかもなんかこそこそしてくっついて!!ばかぁ!!」
「いやっ、ちょっ、まっ……えええっ!?」
八木沼がわたわたしてる内に、トムはそう叫んでその場からダッシュで逃げた。
何も出来ずにそれを見送り、あわあわしていた八木沼に、平田の声が突き刺さる。
「……あーあ。泣かせた挙句、逃げられたな」
「ちょっ、お、おれっ!?おれが悪いのかっ!?」
「他に誰がいるんだ?」
「い、いや、だって……」
言葉が続かない八木沼に、ふぅ、と溜息一つ。
「……で?ほっといていーのか?」
「……っうあぁぁぁ!?」
平田から向けられる呆れた様な視線と言葉にやっと状況を思い出したのか、八木沼は悲鳴に近い叫びを上げて、トムを追う為走り出した。
平田一人が残され、静寂満ちるその場には。
「……アホだなぁ……」
疲れを滲ませた、平田の心情そのままの声が静かに落ちた。
その後、なんやかやあって、元に戻ったトムだったが。
「……なんだよー、あの時はすっげーかーいかったのによー」
「うっさい!!お前なんか嫌いだー!!」
「うわー、ひっでぇー」
八木沼の笑いながらの軽口に、ぎゃんぎゃん喚き立てるその合間。
「……今の俺を見てないお前なんか、嫌いだ」
「………………へ?」
「なんでもない!!練習行くぞっ!!」
硬直している八木沼を置いて、トムはその場から逃げる様に離脱。
「……あー……えー……………え?」
まさか、とは思いつつ。
もしかしてその時の自分に嫉妬?俺が最近それで揶揄ってばかりいるから?
「……ははは、まさかな~…………」
口ではそう言いつつも、一度考えてしまった可能性は頭から消える事無く。
「平田ぁぁぁ!!どーしよう俺!!トムがすっげーかわいくてやっぶゎい!!!」
「うん解った。おれを巻き込む前に速やかに帰れ」
……取り敢えずこの先、助けは期待出来そうにない。
おまけ・経緯の一部
「悪かったって!!いやもうホント!!…だっておめー、なんつーかこう…!!」
「………もういい」
あわあわしながら弁明(出来ていないが)中の八木沼に背を向けて、枕抱えて涙目のトムの口からはそんな言葉が放たれる。
(…どこが『もういい』なんだかなーもー…)
八木沼は困りながらも、内心で幸せな苦笑をする。
ベッドの上。こちらに背を向け、目線さえ寄越さないけれど、そこから逃げないのはどうしてか。
他に逃げ込める場所が無い訳ではないだろうに。
声も態度も拗ね拗ねモード。それと共にどうしようもなく構って欲しいって心情が出まくっていて、もうかわいいったらありゃしない。
(………これで我慢しなきゃなんねーってどんなゴーモンだよ………)
いやでもこれって誘われてるのか?なんて苦悩を再開しつつ。
「なーなートム~」
「…うっさい」
こちらの呼び掛けから逃れる様に、ぽふん、と抱えていた枕に顔を埋め、黙ってしまった。
(あちゃ~…)