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催眠術師の心臓

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 どうしたもんかなぁ、と頭を掻きつつ、思案に暮れる。
 つーかやっぱこーゆートムもかーいいなぁ、なんて思ってしまう辺り、本気でめろめろだ。
 と、静かになった八木沼に不安になったのか、トムがそろりと僅かに顔を上げ、ちらりと八木沼の方を見た。
 八木沼と目が合った途端、慌ててまた顔を伏せたが。
 …萌える事この上無かった。
(………落ち着け、八木沼純!!ここで暴走したらここまで耐えた意味ねーから!!………だいじょーぶ、ここまで耐えたんだからもーすこしくらいっ!!)
 なんかもう何故そこまでってくらい必死に、そう自分へと言い聞かせる八木沼。
 …ここまできたらもう意地だった。
(とっ、とにかく状況打開っ!!)
 ベッドに手を置き、そのまま身体をゆっくりとトムに近付ける。
 ぎしり、とベッドが軋んで、トムの肩が微かに揺れた。
 思わず動きを止めた八木沼に、やはり不安になったのか。枕を抱えたまま、目だけを八木沼に向けて。
 八木沼の耳に微かに届いたのは、
「………やぎぬまぁ…」
 涙声。
(…………………………うん、おれ、がんばったよな?うん、がんばったさ!!…………………………おれは も う だ め だ)
 …八木沼さんの理性は崩壊しました。



 その後。
「このままじゃヤり尽くしそーでコエーんだよ平田ァァァ!!ヤり殺しそーでも間違ってるとは言い切れねー程にやっぶゎい!!トム元に戻してくれよぉ~~~!!」
「…八木沼…おまえってやつは………」
 八木沼、平田に泣きついた。…散々ヤった後らしいが。
 平田のこめかみに血管が浮いているのも仕方無いと言えば仕方無いかもしれない。
 しかし、騒動というものは、そう簡単に収まってなどくれない訳で。
「やっぱ平田がいーんだー!!八木沼のぶゎかーーー!!」
「トムーーーっ!?」
 その現場を目撃したトム、そんな事を叫びつつ、ダッシュで逃走。
「今物凄い誤解と侮辱を受けた!!待てトム!!八木沼が迂闊で馬鹿でエロなのはともかく、俺を巻き込むなーーー!!!」
「ぶじょくっ!?っていうか色々とひでぇっ!?」
 …平田さんは容赦がありませんでした。


 結局何とか元には戻ったものの。
 平田さんはますます、八木沼さんには特に、手厳しい事になりましたとさ。



おまけ2

 アストロズ寮食堂。
 相も変わらずの仏頂面で。
「………ん~と、たいじ~?」
「…何だ、兄貴」
「………えっと、そろそろ降ろし」
「却下だ」
「………あうぅ………」
 太一を膝に乗せて抱え込む泰二の姿があった。

「………おい、どーすんだアレ………」
「どーするって………タイミング計って催眠術とかねーと………」
「でも全然太一離さねーぞ………」
 ざわざわしつつ、泰二の様子を窺いつつ。
 催眠術がどう進化したのか、人前でもこんな感じになってしまっている現在。
 流石に兄貴にべったりなのは色々と支障が出るという事で、どうにか催眠術の解除をしようと試みてはいるのだが。
「たーいちーっ!!れんしゅーいこーっ」
「あ、石田…」
「駄目だ。兄貴は俺と投球練習だから」
「えーっ、昨日もそうだったのにーっ?」
「た、たいじ~………」
「駄 目 だ」
 取り付く島も無い。
 そこにとことこ近付く一つの影。
「………太一、目を閉じて、耳を塞いでおけ」
「えっ、あ、矢島さん?」
「………何の用ですか」
「いや、大した事じゃあない」
 訳も解らないまま、それでも言う通りに太一が目を閉じ耳を塞いだのを確認して。
 やおら、パンッ、と。
 泰二の前で、思いっきり手を叩いた。

 その後。
 放心状態となった泰二の腕から太一を奪取し、その場を後にする矢島はともかくとして。
 そんな展開に動けないでいた食堂にいた面々は。
 我に返って今までの己の行動やら何やらを反芻した泰二にロックオンされ。
 記憶を失えぇぇ!!などと叫びながらバットを振り回す必死の泰二さんに襲い掛かられる事になる。


作品名:催眠術師の心臓 作家名:柳野 雫