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空色ランタン

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 2.

 遊馬と小鳥が立ち去った後の正門前。
「……行っちまったようだな」
 階段の陰、先ほど遊馬が現れた場所から声がした。
 暗がりからのそりと姿を現したのは、何と、今しがたエントランスに向けて驀進して行ったはずの遊馬だった。前の遊馬と違うのは、真っ赤なレザーベストを始めとするいつもの出で立ちだということ。胸元には、相変わらず皇の鍵が下げられている。
〈遊馬〉
 呼びかけと共に、青白い燐光が遊馬の頭上から降って来た。見上げてみれば、空色を全身にまとった友人の姿がそこにあった。
「いやー、小鳥に見つかった時は、一体どうなることかと思ったぜ」
〈だから君はうかつ過ぎると言うんだ〉
 遠い目をして力なく笑う遊馬に、アストラルは呆れて首を振った。腕を組んで早速説教モードに入っている。
〈相手が小鳥であっても大変なことなのに、もし「自分自身」に見つかりでもしたらどうする〉
「確実に……えーと、コッペパンだったっけ、だよな、オレ。ま、見つかんなかったからよしとしようぜ」
〈よくない〉
「何だよー。せっかくのお祭りなんだぜ、もっと気楽になれよ」
〈私がこうならざるを得ないのは、どう考えても君のせいだろう。あれから九百九十七年と六か月、更に詳しく言えば三十日と十八時間経ったのだぞ。少しは慎重になったらどうなんだ〉
「……お前の記憶力がよくて、本当にありがてえよ」
 なおも説教を続けようとするアストラルをどうにか宥め、遊馬はちらりとエントランスの方を見た。無邪気な相貌に、一瞬だけ大人びた表情が浮かんで消える。
 不思議なことに、正門まで届いていたエントランスの賑やかさは今はない。辺りは痛いほどにしいんと静まり返っていた。代わりに場を満たすのは、アストラルが発する青い光。ほろほろと零れ落ちる光は、正門やその先の道を青白く浮き上がらせている。この青い光こそが、遊馬に許された唯一の灯火だった。
 
 遊馬とアストラルがここにこうして存在する理由は、最終決戦まで遡る。
 アストラル世界、バリアン世界、そして人間の世界。この三つの世界は互いに近づき過ぎて衝突の危機に面していた。
 世界を救う方法は一つしかない。Dr.フェイカーの一派はそう結論付けた。三世界の内どれか一つを滅ぼせば、世界が崩壊するほどの衝撃から免れるのだと。
 人間の世界にとって、バリアン世界は有用な存在だった。バリアライトは貴重なエネルギー源になるからだ。結果、滅ぼすのはアストラル世界に決定し、ハルトの力を使っての攻撃が行われた。
 しかし、遊馬もアストラルも、その結論を断固として拒んだ。消されるのがどの世界であっても、二人の答えは同じだっただろう。二人にとって三つの世界は、大切な仲間たちのいる掛け替えのない場所だったのだから。
 二人はZEXALの力を使い、三世界をオーバーレイさせることで世界の衝突を防いだ。どの世界も消滅することなく、全ての世界が救われたのだ。たった二人の犠牲の元に。
 それは、強大な力をふるった代償か。滅びの運命を欺いた罰か。遊馬とアストラルは、あの瞬間、全ての時の流れから解き放たれてしまったのだ。
 ――以来、二人は様々な時空を彷徨い歩いている。
 時は二人に干渉することはない。なので、二人は時の流れに縛られずにあちらこちらの時代に転移することができる。まるで、どこか知らない土地を散歩するかのように。ただし、長期間一所に留まることは許されない。
 ある時は遠い過去に転移して、古代文明を興味深く観察した。またある時は、仲間たちの子孫らしき人物を見かけて、懐かしさに浸っていた。遥か彼方の未来で一つの惑星の最期を見届け、涙したこともある。
 あの日の行いに後悔はしていない。葛藤の段階はとうに通り越した。だが、この状態はいつまで続くのか。遊馬が倦み疲れるのが先か。それともアストラルが燃え尽きるのが先なのか。二人にはまだ分からない。分からないまま、永い旅を続けている。

 周囲の闇が、また一段と濃くなった。見る見る内に学校の建物や街並みが二人の前から姿を消して行く。エントランスの照明も、ジャック・オー・ランタンの炎も、幻のように遠くなっていく。時空転移が始まったのだ。もうこれ以上、この空間に留まることはできない。
「アストラル。次もまた皆に会えるといいな」
〈それはどうかな。時の流れに果てはない〉
「――会えるさ、きっと」
 遊馬は目の前に横たわる闇の向こうに手を伸ばした。アストラルの左手がそれに重なる。
 空色の灯火が遊馬を照らす。辺り一面の漆黒に飲まれることなく、行くべき道を確かに指し示している。
 暗い道に遊馬は一歩足を踏み入れた。アストラルはそんな彼にどこまでも付き従う。
 やがて、二人はこの時空から歩き去っていった。

 エントランスから、一際大きな歓声が上がった。
 祭りの夜は、これからだ。


(END)


2011/10/29
作品名:空色ランタン 作家名:うるら