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ヨチ

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 明日も学校に行きますと言っているのかと勘違いするぐらい、いつもと同じ口調で胡散臭い笑顔を浮かべたままの古泉に何故だか無性に腹が立って何か言ってやろうと口を開いた瞬間目が覚めた。
 机から体を起こしてあたりを見回すとどんどんカオスになっていっている本棚と、その傍らで本を読む長門がいた。どうやら俺は部室で寝こけていたらしい。よく寝たなと伸びをしてからようやく静寂に気づいた。
 いつでもやかましいハルヒも今日もきっとかわいらしい格好をしているだろう朝比奈さんもたった今まで夢に出てきていた古泉もいない。
 静かなわけだ。しかし腕にはめている時計を確認すればまだ下校時刻前で、古泉の定位置である俺の目の前の椅子には鞄が置いてある。ハルヒの団長席にももちろんだらしなく開けっ放しの鞄が放り出してあったし、朝比奈さんに関しては振り返ると衣装掛けに制服がかかったままだったので下校していないことは一目瞭然だ。
 激しく嫌な予感がしたが気づいてしまった以上知らない振りもできず仕方なく俺は口を開いた。
「――長門、ハルヒたちは?」
「外、撮影」
 本から視線を上げないまま長門が答える。
 やっぱりか。だからといって雑用のために起こされなかったことを喜んでいる場合でもない。というより、だからこそ起こされなかったんだろう。ハルヒも余計な知恵だけはつけてきたな。
「場所は分かるか?」
「不明。でも探さなくてもあと――」
 長門の言葉は騒音によってすぐにさえぎられた。
「たっだいまー! 今日もいい写真が撮れたわ! さすがみくるちゃんねっ。あら、起きたのキョン」
 ついさっきな。
 いっそけたたましいと言うほうが正しい気がするほど今日もハルヒは無駄に元気で煩いようだ。こいつはいつになっても部室の扉を静かにあけると言うことを覚えない。
「あの、おはようございますキョンくん」
 おはようございますと言うには日が傾きすぎているような気もしますが、一日のうち最初にあった人に対する言葉としては適切ですよね朝比奈さん。
「よく眠れましたか」
 両手にごっちゃりと荷物を抱えながらも苦渋を表に出さず笑顔を絶やさないその姿勢は無駄に立派だと思ってやるよ古泉。データの入っているカメラだけはハルヒが大切に抱えているがそのほかすべての撮影機材はこいつが持たされていたらしい。
 荷物持ちは大抵は俺の役目であるので、叩き起こされなくてよかったと思う反面、その分ハルヒがなにかやらかしてきたのだろうと思うと少しだけ気が重い。まさか校内撮影会ぐらいでは生徒会長までしゃしゃり出てこないだろうが、現状で来られても反論できる材料がさっぱり無いのでできれば来ないでいただきたい。
 次に関わり合いができるのは新学年にあがってからで十分だ。どうせ四月になったらハルヒが新入生の勧誘とかを言い出すだろうし、そうなれば非公認無認可なSOS団にたいして生徒会がつけることのできる言いがかりは大いに増える。とりあえず四月は暇を持て余さずにすみそうだ。俺ではなくハルヒがな。
 それにしても校内撮影会「ぐらい」とはずいぶん俺もハルヒに毒されてきたものである。このままの調子でハルヒのペースに巻き込まれていたら一年後ぐらいには文化祭の出し物で再びあの映画撮影を強要されたとしてもまったく気にしなくなっていそうだ。そんなことはないと信じたいのだが、あいにくとそれを冗談ですませてくれないのがハルヒという存在だ。
 頬杖を付いて深い溜息をもらしているといつの間にか両手の荷物をすっかり片づけた古泉がどこかフリスビーをくわえた犬を彷彿とさせるような表情で新しいゲームを俺に掲げていた。
 ところで古泉の持ってくるようなボードゲームのたぐいは実は手に入れにくい上に結構値が張る。いつだかやったゲームがおもしろくて家で妹と遊ぼうかと思って少し探したときにその辺の玩具屋では扱っていないと知り、ついでに値段も知って結局あきらめたことがあった。『機関』にその生活を保障されているという古泉の自由になる額は普通の学生よりも多いのかそれとも涼宮ハルヒのためだといって経費で落としているのかは知らないがそれでも家で封を切ることなく、学校へと持ってきて相手をねだるのは古泉なりのわがままなのだろう。
 だってそうだろう? テレビゲームや知恵の輪のようなパズルと違ってボードゲームというのは二人以上で遊ぶことが最低条件で、どうかすると二桁を超える人数を必要とするものもある。いちおうゲームとしての体裁を整える上でたいていのものには二人でのやり方が特記されているものがほとんどだったから困ったことはなかったが、それでも一人で遊ぶやり方が書いてあるものは滅多になかった。ただ、オールドゲームは結構な割合でソリティアができるようになっているので興味が無いときは見るだけにとどめている。
 まあ何にせよ、古泉がどうやってボードゲームに目覚めたのかは知らないが二人以上いないと成立しないものに執着するようになった経緯はたやすく想像が付く。
 そのことに気づいてからは俺はハルヒが何かよほどのことをしでかしていない限りは古泉のゲームにつきあうようにしていた。少なくとも初回ぐらいは。なんせ二人ルールは特記されているだけあって盛り上がりにたいそう欠けるのである。
 それはともかくもとから人ではない長門やエージェントとして派遣されている朝比奈さんと違って、否応なく三年前に突如として有無を言わさず世界の行く末を巡る攻防に巻き込まれてしまった古泉へのせめてもの手向けとして友情ごっこにつきあうことは、もはや何処が始まりだったのか判然としない現象に多少などとごまかせないほどにほどかかわっている俺なりの贖罪でもあった。
 もっともそのいいわけを是としないのも俺自身ではあったのだが、今のところ他の手段が見つからないので致し方ない。
「あの、聞いてました?」
「――悪い」
 本当に聞いていなかったのでばつが悪くてごまかすように視線を逸らした視界の端で古泉が困ったように笑う。それにしてもいつもと変わらないようでいてその実、少しだけ柔らかな表情が存在することに俺はどうして気づいてしまっているのだろう。
「では僕は読んでしまいましたのでどうぞ。その間に準備をしてしまいますね」
 そう言って差し出された取説を拒む理由は俺にはなく、楽しそうに盤面を広げる古泉を横目に今度こそルールを飲み込むために紙面に目を落とした。

「すっかり遅くなってしまいましたね」
「ああ」
 お前のせいだとは言わずに俺は素直に頷いた。
 俺らのゲームがキリのいいところでハルヒが帰宅を宣言して、長門が本を閉じ、朝比奈さんの帰り支度がすべて済んでも点数計算が終わらなかったのは意外な誤算だった。
 ワンゲームが短いかわりに何度もやってその総計で決着をつけるタイプのゲームだったうえに、勝った方が必ずしも点を配分されるわけではないと言う複雑なルールのもと細かい計算をすべて後回しにしていたのがあだになったのだ。最初の手札でおおむね勝負が決まっていたためにいつもは勝ち知らずの古泉がやっきになって計算したのもある。
作品名:ヨチ 作家名:結城音海