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ヨチ

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 結果は言うまでもなく俺の勝ちだったのだが、あまりにも時間がかかったために途中で待つのに飽きたハルヒたちは先に帰り、残された俺たちは部室の鍵を長門から預かったので職員室へ返却するという手続きを経てからようやく校外へと出ることができた。
 すっかり暗くなった坂道を古泉と二人きりで肩を並べて歩くのは珍しい。今まで活動があった日にはたいてい全員でぞろぞろと帰宅していたし、そうでない日は顔も合わせずに一日が終わることは珍しくなかった。
「それにしても困りましたね」
 おまえの勝率の話ならもうどんなに思い悩んでも無駄だと思うぞ。理数クラスのくせに確率というものをしらんのかお前は。
「いえいえ、勝負のことではありません。もちろん何時だって勝つためにあれこれ考えているのにいっこうに勝てないことも悩みの種ではありますが、そのことは今の問題ではありません」
 一応悩んでたのか。まあそうじゃないと新しいゲームを次々と持ち込んだりはしないだろうな。
 じゃなくて、それなら何が理由だ? その溜息は。
「明日から何日か都合で学校およびSOS団を欠席することを涼宮さんに伝え損ねてしまったんですよ」
 へえ、それは珍しい。
「『機関』がらみか?」
「ええ。いわゆる出張というやつです」
「出張?」
 『機関』の目的と言うべき涼宮ハルヒがここにいて、いろいろな意味で対ハルヒ最前線にいる古泉をひかせる理由はどこにもない。
「その辺は企業秘密です――といってもあなた相手に隠すようなことでもないので正直に言いましょう。実は精密検査です」
「嘘だな」
「おや、なぜですか」
「そんなものが必要なら先週末にでもやっておけばよかったはずだ。ハルヒも珍しくおとなしくしていたことだし閉鎖空間が生まれたとも聞いてない」
 もっとも俺は閉鎖空間が発生したのかどうか詳細に聞いているわけではない。ただ機嫌取りに駆り出される身としてSOS団の活動がなかった週末などのときに長門に確認する癖が付いているだけだ。あの宇宙人製アンドロイドはなかったといつものような無愛想で一言答えてくれただけだがな。
「明日からの口実は忌引きなのですがね」
「古泉」
 だったら今日からハルヒに断ろうとすることはないし、あらかじめ忌引きを適応しそうに近い親戚がいたらそれとなく伏線を張っておくだろうお前たちなら、とは俺は言わなかった。だいたい支離滅裂なことのように見えて一貫性のあることを要求してくるのは朝比奈さんたちの専売特許じゃなかったのか。
「何ですか」
 古泉は相変わらず目を細めたままで、それでいて俺が話しかけているにも関わらず俺の方を振り向かない。
「俺に何をさせたいんだ」
「――いいえ、なにもありません」
 やれやれ。まったく今日は一体何だって言うんだ。

 古泉と別れてから俺は改めて溜息をついた。
 ――僕はもうすぐ死ぬのです。
 数時間前には単なる夢だったはずの古泉の言葉が不意によみがえる。
 死とかそういうものは普段はまるで姿を見せないくせに、現れた瞬間周りの心を切り裂くだけ切り裂いてしれっとした顔でまた去ってゆく。幸いにも俺は生まれてから今まで身近な人の死というものに遭遇した事はほとんど無い。朝倉涼子の消滅もまた死のひとつではあったけれども、意外な再会のせいでいまいち実感がわかないのが正直なところだ。
 たしかに人は誰だっていつかは死ぬ。だがそれは今現在のこの国の俺らの年代ではもっと遙か遠いところにあるべきものだったはずだ。
「やりきれないなまったく」
 そしてたどりついたマンションの下にあらかじめ俺が来ることを予想していたのであろう長門の小さな姿があった。
「またせたか?」
「すこしだけ。でも気にしなくていい。今日の古泉一樹は変だった」
 そうだな。勝負に勝つことが、じゃない。もっと根元的なところで変だった。
「涼宮ハルヒも朝比奈みくるも気づいていたからあなたに託して先に帰った」
 長門のその言葉に俺はただ小さく肩をすくめた。それを買いかぶりすぎだとは言わない。古泉がハルヒに何かを打ち明けるなんてことは明日から地球が逆回転を始めてもないだろうし、朝比奈さんに対してだって何をかいわんや。長門に関しては言わなくても知っているだろうと思っているはずだ。これは俺も人の事をいえない。
 だが、あえて断言しようか。古泉が何か言うとしたら俺以外はありえないね。
 誰よりも当事者でありながら誰よりも第三者である俺は古泉にとっての例外だ。すべて知っているから些少な説明を必要とはせず、もし何かを洩らしても俺のところで確実に情報は止まる。なぜなら流すような先がないからだ。相談するとしてもそれは長門相手だしな。
「それで二人は何か言っていたか?」
「言ったといえばいえるし言っていないといえばいえる」
 つまり?
「明日、古泉一樹が変なままだったらあなたのせいだと」
「……古泉は明日は休みだぜ」
「そう。休みも“変”にはいる。だから、これ」
 そういって長門は手にしていた紙片を俺へと差し出した。
 やれやれ。

 翌日、俺は長門からもらった紙片を手にさっぱりなじみのない辺鄙な駅へと降り立っていた。
 平日の昼間にこんなところにいると言うところで学校のことは察してくれ。
 まったく何で俺がこんなことをしなきゃらなないんだ。ちなみにさすがに制服姿のままではない。駅でさっさと着替えてコインロッカーへと入れてきた。持ち歩くことも考えたのだが、荷物が多い男子高生が学校にもいかずふらふらしているという光景は怪しいことこの上ないのでやめた。
 さて、到着した駅の一つしかない改札口をくぐり抜け、バスの時間を確認するために駅前にある申し訳程度のロータリーへと出ると黒塗りの高級車を背後に従えた見知った顔がそこにいた。
「森さん」
 意外な――しかしある意味では納得の采配に俺は自然と顔をほころばせる。森さんも先日とは違い、険のない微笑みを浮かべていた。初対面のときのようなメイド服ではなく先日会ったときと同じようなスーツを隙なく着こなしている。
「こんにちは。先日は大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ助かりました」
 如才のないやりとりをしばらく交わした後で森さんの笑顔が唐突に深くなった。以前、お見かけしたときのような非常に圧力を感じるあの笑顔である。
「ところでここの情報はどなたから?」
「少なくとも古泉本人ではないことは確かです」
 と、俺は表面上は怖さなど感じていないように肩を竦めた。
 昨日、古泉は結局最後まで本当のことは言わなかったしな。それでもわかることはある。言わないってことも充分大きな手がかりになるんだ、ミステリの中ではな。それさえわかっていれば自ら力を封じてしまっている長門にだって調べてもらうことも難しくはない。
「どちらにせよこれは私のミスね」
 おや、意外な反応。
「さっさとあなたを昨日のうちに迎えに行くんだったわ。それともこんな状況でもこちらの情報を伏せておこうと考えるのはTFEI相手にはやはり無駄なことかしら」
 森さんは溜息を一つつくと今度はかわいらしく微笑んだ。
作品名:ヨチ 作家名:結城音海