僕の可愛い人ですから
それぐらい計算できますよ
霧隠シュラは弾むような足取りで道を歩いていた。
正十字学園町の南十字通りにいる。
つまり、正十字学園の外だ。
学園は全寮制で一度入ったら許可のない外出は禁止されているが、正十字騎士團の上一級祓魔師にして祓魔塾講師のシュラには関係のない話である。
今は夜で、しかし南十字通りの街灯や店の灯りなどで辺りは明るい。
人通りも結構あり、にぎやかだ。
そんな中で、シュラは目立っていた。
くっきりとした二重まぶたの大きな眼に長くカールした睫毛、鼻筋も通っていて、美人である。
しかも、プロポーションが抜群にいい。
そのうえ、そのスタイルの良さを見せつけるような格好をしているのだ。
すらりと伸びた長い脚、豊かな胸、きゅっと引き締まったウエスト。男性だけではく、女性でも、ついシュラに眼を引きつけられている者がいる。
そんなシュラの進む先をふさぐように、若い男が三人、立った。
「ねー、おねーさん、美人だね」
「俺らと遊ばない?」
三人とも、顔も体格もそこそこ良い。
だが、漂わせている雰囲気は良くない。
ロクデナシのにおいがする。
しかし。
「いーよ、ヒマだし。遊んだげるよ〜」
シュラは笑い、軽い調子で返事をした。
男三人はニヤリとした。バカな女が簡単に釣れたと思っているのだろうか。
それから、三人はシュラに近づいてきた。
シュラは三人と一緒に歩きだす。
横並びで歩いているのだが、三人は自然な様子でシュラをどこかにつれていこうとする。
どこに行くつもりなのか、シュラは聞かない。三人からいろいろと話しかけられるのに対し、シュラは適当に答えながら歩いた。
案の定、人通りのない場所へと進んだ。
そろそろかな、とシュラは思った。
シュラはすっと後退し、三人から離れた。
そのことに三人は少ししてから気づく。
「あれっ?」
三人とも足を止めてシュラを振り返る。
「あれー、どうしたの?」
「早くこっちにおいでよ」
そう呼びかけられたが、シュラは黙っている。
すると、三人の顔色が少し凶悪なものに変わった。
「まさか逃げる気じゃないよな?」
三人の身体についさっきまでより力が入った。
襲いかかる準備をするように。
それを見て、シュラはふっくらとした魅惑的な唇を開く。
「まさか」
にんまりと笑う。
「逃げたりしないよ。これから遊ぶんだからネ」
シュラは三人に向かってウインクした。
さてさて、どこまで遊べるだろうか?
三人とも体格はいいし、ケンカの経験が複数ありそうだ。
それでも、シュラが本気で戦う相手ではない。シュラの実力に彼らは遠く及ばない。
シュラにとっては遊び感覚でも、彼らは痛いめに合わされることになる。
まあ、どうせコイツらロクなことしてきてないだろーし。
そう思いながら、シュラは戦う体勢をとろうとした。
直後、うしろに近づいてくる気配を感じた。
「!」
シュラは眉根を寄せ、振り返ろうとする。
だが、間に合わなかった。
背中に、だれかが体当たりしてきた。
しまった……!
シュラは身体のバランスを崩し、踏みとどまれなくて、しかし、無防備に倒れるのは避けて、尻もちをついた。
すぐに立ちあがる、つもりだった。
けれども、やめた。
ぶつかってきたのが、だれか、わかったからだ。
シュラのすぐそばに立っている。
祓魔師の格好をした長身の男。いや、年齢からすれば、少年と言ったほうがいいかもしれない。
奥村雪男だ。
そのメガネをかけた顔を、三人の男たちに向けている。
作品名:僕の可愛い人ですから 作家名:hujio