僕の可愛い人ですから
三人は突然やってきた雪男を見て戸惑っている。
「なっ、なんだオマエ!?」
一方、雪男は落ち着いている。
「僕はこの人の知り合いです」
ほんの一瞬だけ、雪男はシュラを見た。
知り合い。
正確には上司だろ。
そうシュラは思ったが、黙っていた。
なんだがおもしろい展開になってきたで、のんきに座ったまま眺めることにする。
「知り合いィ!?」
男が声を張りあげた。
三人とも人相が悪くなっている。
「だとしても、テメーには関係ねェだろ」
「そーだ、その女は俺たちと遊ぶって言ってんだ、邪魔すんじゃねぇ」
「俺たちの邪魔したらどーなるか、わかってねーのか?」
彼らは威嚇するように言い、雪男をにらみつける。
しかし、雪男は退かない。ゆるがない。
「わかってないのは、あなたがたのほうだ」
冷静な声で雪男は言った。
その声に剣呑なものを感じて、シュラはますますおもしろがる。
なぜだかは知らないが今の雪男は不機嫌であるらしく、そして、いつもならその不機嫌さを爽やかな笑顔で隠しきったりするのに、今は少し外に出てしまっている。
「この人に手を出したら」
次の瞬間、雪男は武器を手にしていた。
拳銃だ。
「どうなるか、わかりますね?」
その銃口は三人の男たちのほうに向けられている。
三人は顔に驚愕の表情を浮かべ、凍りついた。
だが、少しして、ハッと我に返った様子になった。
「こっ、コイツ、マジでやべェぞ!」
「あ、ああ!」
目配せし合い、さらに、シュラと雪男に背を向けた。
逃げていく。
「……あーあ」
シュラは彼らの背中を見送りながら、声をあげた。
「もうちょっと根性見せろよなー。つまんねーの」
「シュラさん」
雪男が話しかけてくる。
「帰りますよ」
そして、その手を差しだしてきた。
別に、だれかの手を借りなければ立てないわけではない。
「あー、ハイハイ」
しかし、雪男の力を借りたほうが楽だという軽い気持ちで、その手をつかむことにした。
けれども。
「!?」
シュラが雪男のほうに手を伸ばしかけたとき、雪男はその上半身をさらに低くした。
雪男はシュラを立ちあがらせるために手を差しだしたのではなかったようだ。
手を差しだしたのはフェイクだったらしい。
シュラの身体をつかまえ、抱きあげる。
その肩に、シュラは担ぎあげられた。
作品名:僕の可愛い人ですから 作家名:hujio