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僕の可愛い人ですから

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シュラは踵を返した。
塔から出ようとする。
しかし、うしろから雪男に捕らえられる。
「……あと一分だけ、シュラさんの時間、僕にください」
トーンを落とした声が頼んできた。
背後から回されている腕の力強さ、太さ、そして、その身体の大きさを感じる。
シュラは軽く笑った。
「ああ、いーよ」
許可を出し、さらに雪男の胸にもたれかかる。背中を預ける。
一分ぐらいならいいだろうと思った。
すると、雪男が抱きしめてきた。

夜。
シュラはヴァチカン本部が用意した部屋に入った。
さすがに本部のものだけあって、歴史を感じさせる重厚で豪華な広い部屋である。
「あー、疲れた!」
自分ひとりしかいないが、思わず声が出た。
シュラはベッドに身を投げ、寝ころんだ。
予想していたとおり、ヴァチカンがシュラを呼びつけた用件はロクでもなく、肉体的にも精神的にもくたくたになった。
しかも、まだ任務は終了していない。
今日はいったん引きあげたが、明日以降もある。
それを考えると気分が暗くなる。
酒でも飲まなきゃ、やってらんねーな。
そうシュラは思って、むくっと身体を起こした。
直後。
携帯電話が鳴った。
シュラはコートのポケットから携帯電話を取り出す。
雪男からだ。
すぐに、シュラは電話に出る。
「ハイ」
「今、時間、大丈夫ですか?」
「ああ、仕事から帰ってきて、部屋にひとりでいるから、全然問題なしだ」
そう返事したあと、声が固くならないように気をつけながら問いかける。
「なんかあったか?」
頭に雪男と燐の姿が浮かんでいた。双子の兄もしくは本人に、なにか困った事態が起きてしまったのかもしれない。
しかし。
「いいえ、そういうわけではありません」
電話の向こうで、雪男は否定した。
それから、続ける。
「ただ、シュラさんの声が聞きたくなっただけです」
一瞬、シュラはポカンとした。
けれども、言われたことを理解し、それがじわじわと胸にしみてくる。
シュラは時間を確認する。
今は午後十時すぎだ。
ということは、日本は午前六時すぎだろう。朝早いと言っていい時間だ。
「……そうか」
「はい」
「じゃあ、そっちは問題ないんだな?」
「はい、大丈夫です。だから、安心してください」
「ああ」
「……じゃあ、本当に特に用があるわけじゃないので、切りますね」
雪男は優しい声で言う。
「シュラさん、おやすみなさい」
「……うん」
シュラは素直にうなずいた。
そして、電話を切った。
だが、手のひらの上にある通話を終了した電話を眺める。
シュラが今いるヴァチカンと、雪男のいる日本は、遠く離れている。
時差は八時間もある。
その八時間を、雪男は越えてきた。
疲れ切っていたはずの心が、ゆるんでいる。
胸が、なんだか温かい。
シュラは携帯電話を手に持ったまま、ふたたびベッドに身体を倒した。
おやすみなさい。
雪男の声が耳によみがえってきた。


日本に帰ったら、いっぱいキスしてやろう。





作品名:僕の可愛い人ですから 作家名:hujio