ねえ、どうして
地獄とは死神すらも滅多に足を踏み入れない場所。
ルキアにも尋ねたのだが、彼女も地獄については余り知らないと言っていた。
そもそも尸魂界に足を踏み入れることになろうとも思わなかったのに。いつかこうして地獄にまで足を伸ばすことになろうとは、もっと考えては居なかった。
ルキアや恋次に会えたことには感謝している。だが今この出会いに感謝すべきかどうか、自分自身でも分からないままだ。
「おい、一護。そんなにぼんやりしてどうした?」
前からかけられた声に一護は顔を上げる。そこには黒い布で顔の半分を隠した細身の男が立っている。両手首にもだが、体から鎖が伸びている。それこそがこの地獄の住人、咎人であることの証。
「…まさかここまで来て疲れたとか言うんじゃねえだろうな? まだまだ目的地は先だぜ」
目の前でそう言って笑ったのは、コクトー。
まさか死神である自分が。
まさか咎人を好きになってしまっただなんて。
どうしてそんなことが言えるだろう。目の前に居る男の、いつもどこか悲しそう表情が一護には酷く切ない。その顔を見る度に胸が熱くなる。
「大丈夫だ、心配すんなよ」
コクトーの言葉に適当に笑って、一護は差し出された手を取った。その手は一護よりもずっとずっと冷たかった。それが彼が生者ではない証。
(…一体どうして)
そもそも一護が死神になったのは、守りたい者を守るためだ。ルキアの言葉に応えたのはその為。
そこにどうしてこの男が居てはいけないのだろう。罪を犯して地獄に堕ちたのだから仕方が無い。守る対象にはならない。それが分かっていても尚、何度も自答してしまう。
もう一体何日ここに居るのだろう。
雨竜や恋次、そしてルキアによって先に送り出され、一護はコクトーと共に地獄の深淵に居る。ここにあるのは淀み切った空気と、いつ襲ってくるかも分からない虚にも似た地獄の番人のみ。
「もう少しだから我慢しろよ」
「…別に、疲れてねえよ」
崩れかかった瓦礫の上、岩に座り込んでいる一護の頭に降り注ぐ声。
「お前、いつも渋い顔してるから、疲れてんのか怒ってんのか分かんねーんだよ」
だからもうちょっと笑えと言うと、コクトーは上から下りてきて、一護の頬を引っ張った。
「痛ぇっ、痛えってばっ!」
その手を振り払うと、コクトーは笑っていた。いつもの切ない笑みとは違って、心の底から。
「ははっ、やっぱりいつもお前って怒ってんだな」
現世でもそうなのかよと言われて、違うとは否定出来なかった。確かに一護はいつも怒ってばかりだ。だから笑えなんて言われても困る。一体どうすれば良いのか分からない。
「じゃあお前が俺を笑わせてくれよ」
「あん?」
コクトーの腕を掴むと、今まで笑っていた顔が盛大に歪んだ。だが一護はそれにも構わなかった。
「お前が俺を、笑わせてくれって、そう言ったんだ」
これが長く続かない恋だとは分かっている。
けれどこの想いをどうしても捨てられない。コクトーと共に居る時間が長くなればなるほどに、愛はどんどんと深くなる。胸の内を渦巻くそれが、黒くなっていく。
コクトーは咎人だと告げたが、そうすればこの想いは罪だとでも言うのか。咎人を好きになったらそれ自体が罪になるのだろうか。
「お前が、好きなんだ」
声が出ない。
それでも何とか喉の奥から絞り出された声は、掠れてまともに形にはならなかった。だがそれを聞きコクトーの目を見開かれる。一護の言葉は、彼に届いたのだろうか。
「お前、自分で何言ってるか分かってんのか?」
そう返されて、一護は自分の言葉がコクトーに聞こえていた事実を知った。
「…分かってる、つもりだ」
コクトーが返してきた言葉には、色んな意味が詰まっている。
一護は男で、コクトーも男。そしてそれ以上に、一護は死神でコクトーは咎人。二つを隔てるものは、余りに大き過ぎる。
だがそれを分かっていても、どうしても欲しいのだ。
「一緒に堕ちる覚悟はしてる」
顎を捉えて、何度も口付ける。
手のひらもそうだったが、口の中すら冷たい。人の形を成しているのに、どうしてこうも違うのか。
「…ん、ふっ」
コクトーから上がる声によって、一護が彼の体を掴む力に一層強くなる。コクトーはそれに眉を歪めたものの何も言わなかった。
「こく、と」
名前を呼ぶと、コクトーが一護の死覇装を掴む手に力が込められた。そこから歪む皺がどんどんと深くなっていく。それがまるで一護の心のようだと、そんなことをぼんやりと思った。
「んっ、あ」
キスしている間にも岩の上にコクトーの体を押し倒すと、彼が着ていた布の薄い着物をはぎ取った。
唇を離すと、露わになった肌に舌を這わせる。
「一護…っ」
肌は冷たい。だがコクトーの声だけが熱い。
これが最初で最後かも知れない。
だがきっと現世で寒くなる度に彼のことを思い出すのだろう。それが予想出来るから辛い。共に生きられない運命を知りつつも、こうして一夜を過ごすのだ。きっと一番愚かしいのは自分。
勃ち上がりかかっているコクトーのものを何度か擦り上げると、それを躊躇いも無く口に含んだ。筋に舌を這わせて、何度も何度も舐める。
「ひっ…あ」
コクトーは奥歯を強く噛みしめて、声を上げないように我慢している。それはそうだろう。ここは地獄で、いつ何に襲われるか分からない場所なのだ。それなのにこんなところ至る自分も自分だと思ったが、もう止められやしなかった。
「んー…っ!」
そして遂にコクトーが精を吐き出すと、一護がそれを手の中で受け止めた。粘着性のある、濁った白。
「…ちょっと我慢してくれよ」
それを一護が両手に馴染ませると、コクトーの後ろへと挿し入れた。ゆっくりと指を彼の中に滑り込ませるとコクトーがびくりと体を震わせる。
「う、…うっ、あ」
本来ならばここは男を受け入れるように出来ていないのだ。無理なことをしようというのは、十分に分かっている。だからこうして馴染ませようとしている。そうでなければ、コクトーは一護を受け入れられない。
中に挿し込んだ指で、何度も何度も奥まで行き来する。そうしている間にも、コクトーが吐き出した精でくちゅと水音が聞こえてきた。
「ん、…ん、んぅ」
喉が押しつぶされそうな声。
あと少しだから我慢してくれと、一護はそれを聞きながら何度も思う。
「すまん、もう無理だ」
三本まで増やした指をゆっくりと引き抜くと、一護は今度こそコクトーの後ろに己のものを当てた。我慢してゆっくりと思ったのだが、先が入り込んでしまうと後はもう一気に貫いた。
「あーっ…」
今まで何とか我慢してきたのに、その瞬間だけはコクトーの声が痛みに歪んだ。
「いち、ご…っ」
「悪い、痛かったんじゃねえのか?」
一護がすまないと謝ると、コクトーはぶんぶんと首を横に振る。
「もういい、もういいからっ」
一護の腕を掴む、コクトーの力が痛い。
「早くしてくれ…っ」
まるで懇願のような言葉。
その声がコクトーも一護と同じ想いだと、一護にそう伝えた。
コクトーに言われるがままに一護がゆっくりと腰を動かし始めると、コクトーもそれに合わせて動き始めた。二人を繋ぐ箇所の水音が、より一層強くなる。
ルキアにも尋ねたのだが、彼女も地獄については余り知らないと言っていた。
そもそも尸魂界に足を踏み入れることになろうとも思わなかったのに。いつかこうして地獄にまで足を伸ばすことになろうとは、もっと考えては居なかった。
ルキアや恋次に会えたことには感謝している。だが今この出会いに感謝すべきかどうか、自分自身でも分からないままだ。
「おい、一護。そんなにぼんやりしてどうした?」
前からかけられた声に一護は顔を上げる。そこには黒い布で顔の半分を隠した細身の男が立っている。両手首にもだが、体から鎖が伸びている。それこそがこの地獄の住人、咎人であることの証。
「…まさかここまで来て疲れたとか言うんじゃねえだろうな? まだまだ目的地は先だぜ」
目の前でそう言って笑ったのは、コクトー。
まさか死神である自分が。
まさか咎人を好きになってしまっただなんて。
どうしてそんなことが言えるだろう。目の前に居る男の、いつもどこか悲しそう表情が一護には酷く切ない。その顔を見る度に胸が熱くなる。
「大丈夫だ、心配すんなよ」
コクトーの言葉に適当に笑って、一護は差し出された手を取った。その手は一護よりもずっとずっと冷たかった。それが彼が生者ではない証。
(…一体どうして)
そもそも一護が死神になったのは、守りたい者を守るためだ。ルキアの言葉に応えたのはその為。
そこにどうしてこの男が居てはいけないのだろう。罪を犯して地獄に堕ちたのだから仕方が無い。守る対象にはならない。それが分かっていても尚、何度も自答してしまう。
もう一体何日ここに居るのだろう。
雨竜や恋次、そしてルキアによって先に送り出され、一護はコクトーと共に地獄の深淵に居る。ここにあるのは淀み切った空気と、いつ襲ってくるかも分からない虚にも似た地獄の番人のみ。
「もう少しだから我慢しろよ」
「…別に、疲れてねえよ」
崩れかかった瓦礫の上、岩に座り込んでいる一護の頭に降り注ぐ声。
「お前、いつも渋い顔してるから、疲れてんのか怒ってんのか分かんねーんだよ」
だからもうちょっと笑えと言うと、コクトーは上から下りてきて、一護の頬を引っ張った。
「痛ぇっ、痛えってばっ!」
その手を振り払うと、コクトーは笑っていた。いつもの切ない笑みとは違って、心の底から。
「ははっ、やっぱりいつもお前って怒ってんだな」
現世でもそうなのかよと言われて、違うとは否定出来なかった。確かに一護はいつも怒ってばかりだ。だから笑えなんて言われても困る。一体どうすれば良いのか分からない。
「じゃあお前が俺を笑わせてくれよ」
「あん?」
コクトーの腕を掴むと、今まで笑っていた顔が盛大に歪んだ。だが一護はそれにも構わなかった。
「お前が俺を、笑わせてくれって、そう言ったんだ」
これが長く続かない恋だとは分かっている。
けれどこの想いをどうしても捨てられない。コクトーと共に居る時間が長くなればなるほどに、愛はどんどんと深くなる。胸の内を渦巻くそれが、黒くなっていく。
コクトーは咎人だと告げたが、そうすればこの想いは罪だとでも言うのか。咎人を好きになったらそれ自体が罪になるのだろうか。
「お前が、好きなんだ」
声が出ない。
それでも何とか喉の奥から絞り出された声は、掠れてまともに形にはならなかった。だがそれを聞きコクトーの目を見開かれる。一護の言葉は、彼に届いたのだろうか。
「お前、自分で何言ってるか分かってんのか?」
そう返されて、一護は自分の言葉がコクトーに聞こえていた事実を知った。
「…分かってる、つもりだ」
コクトーが返してきた言葉には、色んな意味が詰まっている。
一護は男で、コクトーも男。そしてそれ以上に、一護は死神でコクトーは咎人。二つを隔てるものは、余りに大き過ぎる。
だがそれを分かっていても、どうしても欲しいのだ。
「一緒に堕ちる覚悟はしてる」
顎を捉えて、何度も口付ける。
手のひらもそうだったが、口の中すら冷たい。人の形を成しているのに、どうしてこうも違うのか。
「…ん、ふっ」
コクトーから上がる声によって、一護が彼の体を掴む力に一層強くなる。コクトーはそれに眉を歪めたものの何も言わなかった。
「こく、と」
名前を呼ぶと、コクトーが一護の死覇装を掴む手に力が込められた。そこから歪む皺がどんどんと深くなっていく。それがまるで一護の心のようだと、そんなことをぼんやりと思った。
「んっ、あ」
キスしている間にも岩の上にコクトーの体を押し倒すと、彼が着ていた布の薄い着物をはぎ取った。
唇を離すと、露わになった肌に舌を這わせる。
「一護…っ」
肌は冷たい。だがコクトーの声だけが熱い。
これが最初で最後かも知れない。
だがきっと現世で寒くなる度に彼のことを思い出すのだろう。それが予想出来るから辛い。共に生きられない運命を知りつつも、こうして一夜を過ごすのだ。きっと一番愚かしいのは自分。
勃ち上がりかかっているコクトーのものを何度か擦り上げると、それを躊躇いも無く口に含んだ。筋に舌を這わせて、何度も何度も舐める。
「ひっ…あ」
コクトーは奥歯を強く噛みしめて、声を上げないように我慢している。それはそうだろう。ここは地獄で、いつ何に襲われるか分からない場所なのだ。それなのにこんなところ至る自分も自分だと思ったが、もう止められやしなかった。
「んー…っ!」
そして遂にコクトーが精を吐き出すと、一護がそれを手の中で受け止めた。粘着性のある、濁った白。
「…ちょっと我慢してくれよ」
それを一護が両手に馴染ませると、コクトーの後ろへと挿し入れた。ゆっくりと指を彼の中に滑り込ませるとコクトーがびくりと体を震わせる。
「う、…うっ、あ」
本来ならばここは男を受け入れるように出来ていないのだ。無理なことをしようというのは、十分に分かっている。だからこうして馴染ませようとしている。そうでなければ、コクトーは一護を受け入れられない。
中に挿し込んだ指で、何度も何度も奥まで行き来する。そうしている間にも、コクトーが吐き出した精でくちゅと水音が聞こえてきた。
「ん、…ん、んぅ」
喉が押しつぶされそうな声。
あと少しだから我慢してくれと、一護はそれを聞きながら何度も思う。
「すまん、もう無理だ」
三本まで増やした指をゆっくりと引き抜くと、一護は今度こそコクトーの後ろに己のものを当てた。我慢してゆっくりと思ったのだが、先が入り込んでしまうと後はもう一気に貫いた。
「あーっ…」
今まで何とか我慢してきたのに、その瞬間だけはコクトーの声が痛みに歪んだ。
「いち、ご…っ」
「悪い、痛かったんじゃねえのか?」
一護がすまないと謝ると、コクトーはぶんぶんと首を横に振る。
「もういい、もういいからっ」
一護の腕を掴む、コクトーの力が痛い。
「早くしてくれ…っ」
まるで懇願のような言葉。
その声がコクトーも一護と同じ想いだと、一護にそう伝えた。
コクトーに言われるがままに一護がゆっくりと腰を動かし始めると、コクトーもそれに合わせて動き始めた。二人を繋ぐ箇所の水音が、より一層強くなる。