二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

耳としっぽとハロウィーン

INDEX|11ページ/11ページ|

前のページ
 

6.戦争サンド

 
 
 
 
ハロウィンのイベントは、結果的には帝人の1人勝ちに終わった。厳正な審査とやらは、人数もさることながら貰った菓子の総額も含めて行われたらしく、その点で社会人4人から貰った帝人がダントツだった為だ。
ちなみになぜ菓子の金額も考慮に入れたかといえば、学生同士の交換もカウントとしてOKされたかららしい。グループ内で互いに菓子を買って交換し合う者が多かった為、純粋に貰った者のカウントが取りづらくなったがゆえ、とのことだ。
実際のところ、戦利品といってもコンビニ菓子1個の者が大半で、ビニール袋1つ分のコンビニ菓子を初め有名店のチョコレートの大箱やマカロン、プリン10種を抱えて戻ってきた帝人は満場一致で優勝者に決まったらしい。結果、参加者が多かった為に5万円近い金額となった食券まで貰ってしまって、帝人としては嬉しいよりむしろ申し訳ない気分でいっぱいだった。
授与式のあとはお決まりの撮影会になだれこんで、帝人はここでも女子生徒にひっぱりだこになってしまった。見も知らぬ女子から可愛い可愛いとさわられまくって正直かなりへこんだものだが、家に帰って耳としっぽを外し、いつもの服に着替えると、改めて貰った菓子の数々に感嘆の声を漏らした。
これだけあれば当分は食べるものに困らない。…いや、別にこれをご飯代わりにするわけじゃないけどねとここにはいない誰かに主張しつつ、ふと思い出して、帝人はポケットに入れたままだったキャンディを取り出した。
惚れ薬入りキャンディ。もちろん冗談だろうと思うけど、試してみたい気がないわけでもない。好きになって欲しい相手、と言われれば思い浮かぶのは1人の少女だが、彼女に対してこんなものを使いたいとは思わないのも正直な気持ちだ。
自分に害の及ばないところで実験できればいいんだけど…、などと新羅のようなことを考えていて、帝人はふとメールの着信に気づいた。差出人は、今日の昼に会ったばかりの人物。いったいなんの用事だろうとメールを開けば、今から会えないか、とだけ書かれていた。
承諾の返事をすれば、すぐさま待ち合わせ場所が送られてくる。携帯をポケットに放り込んで家を出ると、公園のベンチに待ち人が佇んでいた。
「…どうしたんですか、静雄さん」
「いや、もういっかい謝っとこうと思ってな」
謝るとは、臨也と間違えて自動販売機をぶつけようとしたことだろう。もう済んだ話なのに、本当に律儀な人だなぁと帝人は微笑んだ。
「おたがいさまだって、そう言ったじゃないですか」
「けどよ…」
「じゃあ今度からは、ちゃんと確認して投げてくださいね」
「投げるな、とは言わないんだ? 帝人くんてばひっどーい!」
「臨也さん!?」
驚いて振り向けば、公園の入口に昼間と同じコート姿の臨也が立っていた。と同時に静雄の気配が変わって、ちりちりと刺すような空気が辺りを取り巻く。
「シズちゃんてば、帝人くんに向かって自販機投げつけたんだって? 怖いよね、こんな野蛮人、死ねばいいのに」
「元はといえばテメェが余計な真似しやがるからだろうが! 池袋にくんなって、なんど言わせやがる!!」
「来なかったら、帝人くんに会えないだろ」
「竜ヶ峰に絡むんじゃねぇ!」
「絡んでんのはそっちだろ。食事に誘おうと思ってきてみれば…、なに帝人くん呼出してんのさ、シズちゃんの癖に」
「来たのはこいつの意思だろうが。テメェより俺を選んだってことだろ」
「勝手に決めんなよ! 俺が先に誘ってれば、俺を選んだに決まってるだろ!」
「いや、俺だ」
「俺だよ!」
突然眼前で始まった諍いに、帝人は逃げる間もなく呆気にとられていた。この2人が顔を合わせて喧嘩を始めるのはいつものことだが、なぜそこに、自分の名前が出てくるのだろうか。
「よし、飯食いに行くぞ、竜ヶ峰」
「ちょ、勝手に人の役割とんなよ! 昼間約束したよね、ご飯食べに行こうって」
「え…と、」
「そんなの反故に決まってんだろ。見逃してやるからとっとと帰れ」
「なに言ってんのさ。お前を殺して、帝人くんとご飯食べにいくんだよ」
「あの…」
なにがどうなっているのかさっぱり理解できない。なのに2人して帝人の手を取って、食事に行こうと言って別方向へ引っ張ろうとしている。このままではアレだ、比喩でなく真剣に身体が裂かれてしまう。
「3人でご飯っていう選択肢は、……………ない、みたいですね…」
「ないないない。絶対ない」
「蟲と一緒に飯食うなんざ、気色悪ぃだけだろうが」
それはもう、言われるでもなく2人の顔を見ただけでわかった。さりとて帝人の身体はひとつしかないので、2人とそれぞれ別々に、後先立てずに食事を取ることは不可能だ。
どうしようどうしようと、突然立たされた生命の危機に必死に頭を働かせる。と、なぜか飴を使ってみようと思い立った。
「取り敢えず手を離して貰えませんか…?」
腕が痛くて、と言えば、互いを牽制し合いつつそろって腕を放してくれた。それでも、この2人を相手に逃げ出すのはとうてい無謀だろうと、さっき携帯と一緒にポケットに入れた飴を取り出して手のひらに載せる。
「あの、…よかったらこれ、食べてみてください」
「なにこれ?」
「飴か」
「どちらと食事に行くか、これで決めます」
そう言って手のひらをかざすと、怪訝な顔をしつつも2人がそれを覗き込んだ。見た目には何の変哲もないキャンディだ。一切ロゴのない包み紙が、不自然と言えば不自然だが。
「なんの飴か聞いてもいい?」
「新羅さんが作った特製の飴だそうです。効能は内緒でどうぞ」
「……つまりなんかあるってことか」
「出来れば、互いに睨み合って食べてください。えっと、噛んだ方がいいそうです」
「ふうん?」
もし本当に効果があるのなら、これで池袋が平和になるかもしれない。万一臨也と静雄が恋に落ちたら―――、と考えて、あまりの気持ち悪さに帝人は顔をしかめた。ないないない。いや、あってもいいけど、出来れば遠くでやって欲しい。
「3つあるね」
「じゃあ、お前も食え」
「え?」
突然振られて、頭が真っ白になった。思考が空転する間に静雄が黄色を、臨也が赤を手にとって、帝人の手には青い色のキャンディがひとつ残される。自分のキャンディが惚れ薬なら、この際問題はないかもしれない。どちらかを好きになったところで、彼らがきっちりフッてくれれば帝人にはどうしようもないのだから。
フられない、という可能性に思い及ばない帝人にとって怖いのは、どちらかのキャンディが惚れ薬で、その後帝人を見てしまうことだ。出来ることなら2人で睨み合って貰いたい。…と思ったのだが。
「よし、じゃあ目をつぶって噛んで、いっせいの、で目を開けるってことでどう?」
「…テメェがズルしねぇならな」
「効能とやらに興味がないでもないからね。ここは乗ってやろうじゃない」
「よし。じゃあやるぞ」
こういう時だけぴったり息を合わせて、2人が帝人の腕を掴む。
怖い。だけど、実際どうなるのか見てみたいと興味を持ってしまったのは、臨也だけじゃない。
いつか好奇心に殺されてしまうのかもしれないなと、そんなことを思いながら、帝人は青いキャンディを口に入れた。
 
 
 
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。