しーど まぐのりあ4
キラの看病に、なぜだか、鷹まで加わって、ものすごい騒がしいことになっていたが、それでも発熱は収まったのは、ひとえに医者のクスリのお陰である。全員、「水分補給」という名目で、口移しで飲み物やスープを与え、付き添いと称して順番に、キラの横に眠るなんてことを繰り返していた。困っているのは、キラのほうで、誰だかわからないものが、三人もいて、それぞれに、どう考えても看病じゃないと思うことを、いろいろとされている。
「キラ、これは、俺の自慢の『からくりくん六十五号』だ。ほら、鍵なんて、簡単に開けられるんだよ。」
「・・・それか、不法侵入のアイテムは。」
かちゃりと、キラの足首にかかっていた南京錠が開いて、鎖が解かれる。最初に、キラの部屋に侵入した時にも使用されていたものだ。離れには鍵をしてあったのだから、そういうもので侵入するしかなかったらしい。変人と呼ばれるアスランらしいアイテムだと、三人の暴走を止めてに来たディアッカは思う。他にも、ラクスにプレゼントしたという謳うからくり人形だとか、歩いてお茶を運ぶからくりくんだとか、よくもまあ、こんなくだらないものに時間かけてるなあ、というものが、キラの寝台の床にある。ディアッカは、それらを目にして、「こいつ、ほんとに変人だ。」 と溜め息をついた。当人は、ご自慢のからくりくんを、目をキラキラさせて説明している。それをキラのほうは愛想笑いを浮かべて拝聴しているのが、ディアッカの同情をひく。ちゃんと寝かせてやれよ、と他のふたりに視線で訴えるが、聞いちゃいねぇーのだ、そのふたりも。鷹は、キラの隣りに陣取って、赤いワインなんぞを飲んで、アスランの説明にチャチャをいれているし、ラクスはラクスで暢気そうに、「キラには白薔薇が似合いますわ。」 と、ベッドに花びらを散らして歩いている。もちろん、その際、アスランは思いっきり踏みつけ、鷹の顔に向かって花びらを投げつけているのが、さすが魔女だ。こめかみを引くつかせて、イザークは冷静であろうと努力はする。ここで怒鳴るのは、いかにも癇癪持ちと呼ばれている自分らしい行動ではあろうが、病人のいる場所であるからだ。
「ラクス、虎が戻ってきたので、ちょっと話したいことがある。執務室まで来てくれ。」
「わかりました。キラ、ひとりで寂しいでしょうけど、少しだけ我慢してくださいね。鷹さん、アスラン、まいりますよ。」
「いや、俺はいいでしょう、ラクス。なあ? イザーク。俺は関係ないよな? 」
そんな努力を嘲笑うようなアスランの言葉に、ぴきりとイザークのこめかみが動いた。切れたな、と、慣れているディアッカは、ドキドキしているキラの耳を塞ぐ。
「バカかっっ、おまえはっっ。おまえも加わらなければ、街のことは話し合えないだろうがっっ。」
怒声は半減しているものの、キラの耳にも聞こえてピクリと飛び上がるほどに驚いている。それを見て、鷹のほうは、「大丈夫だ。」と、キラの髪の毛をくしゃくしゃと撫で回して立ち上がった。
「はいはい、行こうぜ、アスラン。子猫ちゃん、しばらくは俺のことでも思い出して横になってるといい。」
「キラ、この似非紳士のことは忘れたほうがいい。思い浮かべるなら、俺にしてくれ、マイスウィートハニー。」
「なんでもいいからっっ、おまえら、全員、来いっっ。キラ、おまえは寝てるんだっっ。主人の命令だからなっっ。床で倒れてたら、今度は両手も拘束させるぞっっ。」
全員が、言いたい放題の状態で、キラのほうは、「もう治りました」 という言葉すら発言する暇もなかった。いつの間にか、自分が眠っていた寝台の周りには、色とりどりの花や、ぬいぐるみ、からくり人形、お菓子などが配置され、どこをどうとっても病気の召使の部屋ではなくなっている。一体、あの人たちは何者なんだろう? と、ようやく静かになった部屋で首を傾げた。意識が戻って、最初に目にしたのが、ピンクの髪のラクスの唇だ。水分補給ということで、口移しで水を飲ませてくれたということだが、「キラ、少しは舌を絡めてくださいな。愉しくありませんわ。」 という指示に、熱で朦朧としていた自分は、「すいません。」 と謝ったが、どう考えても、それはおかしい。
「売られるのかな。」
あの三人に売られるから、値踏みでもされているのだろうか。それにしたって、アスランは、「マイスウィートハニー」連発だったし、鷹は、「かわいいねぇー子猫ちゃん」だった。別に転売されるのはいいのだが、何か違うような気がする。なんなんだろう、と首を傾げていると、ふと視界を何かが横切った。窓の外に誰か動いている。ゆっくりと、窓のほうへ起き上がると、自分の姪ぐらいの女の子が庭を横切っているところだった。
「・・え?・・あれは・・うそっっ・・」
キラは、それが事実だと思いたくない相手に見えた。確認するために、窓に近寄ったら、相手も気付いたのか近寄ってきた。嬉しそうに、ばたばたと走り寄るのは、自分の目がおかしくなければ、姪のかがりだ。
「キラっっ、無事かっっ。」
バンバンと窓を叩く乱暴さは、間違いようもない自分の姪だ。なぜ? もう、とっくの昔に、自国に辿り着いたはずなのに、なぜ、ここにいるのだ? ちゃんと汽車に乗せて見送ったのに、なぜ戻っているのだ? 混乱するキラを窓越しにして、カガリのほうは、ニコニコと笑っている。
「キラっっ、やっぱり一緒に帰ろう。私も働いて稼ぐから、今度はすぐに切符ぐらい買えるからな。」
「カガリ、国に戻ったんじゃないの? 」
「いや、途中で引き返してきた。あの切符は払い戻して、二等車で戻ったから、お金は残ってる。頼りないキラだけ残して帰るのは、私はやっぱり心配だ。」
なんで、そんな酷いことをするのだろうと、キラは思った。もう自分は身体も生命も売り払ったのだ。働いたところで、稼ぐことは出来ない。
「お願い、カガリ。お金が残っているなら、それで国に帰って。僕は大丈夫だから。」
「駄目だ。だいたい、おまえ、その格好から察するに、風邪でもこじらせて寝ていたんだろう? そんなことだから、私がついていないと駄目なんだ。」
すっかり、これが制服か? というぐらいに着ている寝間着姿にキラは、言葉を詰まらせる。十歳の女の子に言い負けてしまう自分が悔しいし、事実を的確に把握している姪はすごいと思う。
「これは・・・ちょっと風邪で。でも、もう治ったから。」
「だから、私も働くと言ってるんだ。ここの主人に直談判してくるから、おまえは寝ていろ。」
窓から離れて、カガリは本宅のほうへと走り出した。とんでもない。こんなことは自分だけでたくさんだ。慌ててキラも離れから本宅へと走ろうと扉に手をかけた。脱走したら、手と足に鎖だと命じられたから、歩くのはよくても、抱かれる時は辛いなあとか、暢気なことを頭で考えて走り出していた。
情報収集から戻った虎を囲み、この街を取り仕切るメンバーが一堂に会した。後は、実務をしているだろうパトリックぐらいのことだが、こちらはアスランがいるので問題はない。
「鷹さんや、きみの好みだったろ? 第三皇子の少年は。」
「いやいや、虎さんだって好みだろ? あんた、顔知ってるのか? 」
「キラ、これは、俺の自慢の『からくりくん六十五号』だ。ほら、鍵なんて、簡単に開けられるんだよ。」
「・・・それか、不法侵入のアイテムは。」
かちゃりと、キラの足首にかかっていた南京錠が開いて、鎖が解かれる。最初に、キラの部屋に侵入した時にも使用されていたものだ。離れには鍵をしてあったのだから、そういうもので侵入するしかなかったらしい。変人と呼ばれるアスランらしいアイテムだと、三人の暴走を止めてに来たディアッカは思う。他にも、ラクスにプレゼントしたという謳うからくり人形だとか、歩いてお茶を運ぶからくりくんだとか、よくもまあ、こんなくだらないものに時間かけてるなあ、というものが、キラの寝台の床にある。ディアッカは、それらを目にして、「こいつ、ほんとに変人だ。」 と溜め息をついた。当人は、ご自慢のからくりくんを、目をキラキラさせて説明している。それをキラのほうは愛想笑いを浮かべて拝聴しているのが、ディアッカの同情をひく。ちゃんと寝かせてやれよ、と他のふたりに視線で訴えるが、聞いちゃいねぇーのだ、そのふたりも。鷹は、キラの隣りに陣取って、赤いワインなんぞを飲んで、アスランの説明にチャチャをいれているし、ラクスはラクスで暢気そうに、「キラには白薔薇が似合いますわ。」 と、ベッドに花びらを散らして歩いている。もちろん、その際、アスランは思いっきり踏みつけ、鷹の顔に向かって花びらを投げつけているのが、さすが魔女だ。こめかみを引くつかせて、イザークは冷静であろうと努力はする。ここで怒鳴るのは、いかにも癇癪持ちと呼ばれている自分らしい行動ではあろうが、病人のいる場所であるからだ。
「ラクス、虎が戻ってきたので、ちょっと話したいことがある。執務室まで来てくれ。」
「わかりました。キラ、ひとりで寂しいでしょうけど、少しだけ我慢してくださいね。鷹さん、アスラン、まいりますよ。」
「いや、俺はいいでしょう、ラクス。なあ? イザーク。俺は関係ないよな? 」
そんな努力を嘲笑うようなアスランの言葉に、ぴきりとイザークのこめかみが動いた。切れたな、と、慣れているディアッカは、ドキドキしているキラの耳を塞ぐ。
「バカかっっ、おまえはっっ。おまえも加わらなければ、街のことは話し合えないだろうがっっ。」
怒声は半減しているものの、キラの耳にも聞こえてピクリと飛び上がるほどに驚いている。それを見て、鷹のほうは、「大丈夫だ。」と、キラの髪の毛をくしゃくしゃと撫で回して立ち上がった。
「はいはい、行こうぜ、アスラン。子猫ちゃん、しばらくは俺のことでも思い出して横になってるといい。」
「キラ、この似非紳士のことは忘れたほうがいい。思い浮かべるなら、俺にしてくれ、マイスウィートハニー。」
「なんでもいいからっっ、おまえら、全員、来いっっ。キラ、おまえは寝てるんだっっ。主人の命令だからなっっ。床で倒れてたら、今度は両手も拘束させるぞっっ。」
全員が、言いたい放題の状態で、キラのほうは、「もう治りました」 という言葉すら発言する暇もなかった。いつの間にか、自分が眠っていた寝台の周りには、色とりどりの花や、ぬいぐるみ、からくり人形、お菓子などが配置され、どこをどうとっても病気の召使の部屋ではなくなっている。一体、あの人たちは何者なんだろう? と、ようやく静かになった部屋で首を傾げた。意識が戻って、最初に目にしたのが、ピンクの髪のラクスの唇だ。水分補給ということで、口移しで水を飲ませてくれたということだが、「キラ、少しは舌を絡めてくださいな。愉しくありませんわ。」 という指示に、熱で朦朧としていた自分は、「すいません。」 と謝ったが、どう考えても、それはおかしい。
「売られるのかな。」
あの三人に売られるから、値踏みでもされているのだろうか。それにしたって、アスランは、「マイスウィートハニー」連発だったし、鷹は、「かわいいねぇー子猫ちゃん」だった。別に転売されるのはいいのだが、何か違うような気がする。なんなんだろう、と首を傾げていると、ふと視界を何かが横切った。窓の外に誰か動いている。ゆっくりと、窓のほうへ起き上がると、自分の姪ぐらいの女の子が庭を横切っているところだった。
「・・え?・・あれは・・うそっっ・・」
キラは、それが事実だと思いたくない相手に見えた。確認するために、窓に近寄ったら、相手も気付いたのか近寄ってきた。嬉しそうに、ばたばたと走り寄るのは、自分の目がおかしくなければ、姪のかがりだ。
「キラっっ、無事かっっ。」
バンバンと窓を叩く乱暴さは、間違いようもない自分の姪だ。なぜ? もう、とっくの昔に、自国に辿り着いたはずなのに、なぜ、ここにいるのだ? ちゃんと汽車に乗せて見送ったのに、なぜ戻っているのだ? 混乱するキラを窓越しにして、カガリのほうは、ニコニコと笑っている。
「キラっっ、やっぱり一緒に帰ろう。私も働いて稼ぐから、今度はすぐに切符ぐらい買えるからな。」
「カガリ、国に戻ったんじゃないの? 」
「いや、途中で引き返してきた。あの切符は払い戻して、二等車で戻ったから、お金は残ってる。頼りないキラだけ残して帰るのは、私はやっぱり心配だ。」
なんで、そんな酷いことをするのだろうと、キラは思った。もう自分は身体も生命も売り払ったのだ。働いたところで、稼ぐことは出来ない。
「お願い、カガリ。お金が残っているなら、それで国に帰って。僕は大丈夫だから。」
「駄目だ。だいたい、おまえ、その格好から察するに、風邪でもこじらせて寝ていたんだろう? そんなことだから、私がついていないと駄目なんだ。」
すっかり、これが制服か? というぐらいに着ている寝間着姿にキラは、言葉を詰まらせる。十歳の女の子に言い負けてしまう自分が悔しいし、事実を的確に把握している姪はすごいと思う。
「これは・・・ちょっと風邪で。でも、もう治ったから。」
「だから、私も働くと言ってるんだ。ここの主人に直談判してくるから、おまえは寝ていろ。」
窓から離れて、カガリは本宅のほうへと走り出した。とんでもない。こんなことは自分だけでたくさんだ。慌ててキラも離れから本宅へと走ろうと扉に手をかけた。脱走したら、手と足に鎖だと命じられたから、歩くのはよくても、抱かれる時は辛いなあとか、暢気なことを頭で考えて走り出していた。
情報収集から戻った虎を囲み、この街を取り仕切るメンバーが一堂に会した。後は、実務をしているだろうパトリックぐらいのことだが、こちらはアスランがいるので問題はない。
「鷹さんや、きみの好みだったろ? 第三皇子の少年は。」
「いやいや、虎さんだって好みだろ? あんた、顔知ってるのか? 」
作品名:しーど まぐのりあ4 作家名:篠義