怪物づかいの話
伸びた歯をちらりと覗かせヒバリンは微笑を浮かべた。
「君が食べたい。君の全てがほしい。君の肌に牙を立ててその血を吸い取って全部僕のものにしてしまいたい」
ヒバリンの言葉に慄くツナの顔を覗き込む。
ツナが息を詰める。暖炉の炎をうけても、ツナの表情はなお青ざめて見えた。
彼のすべてを食べてしまいたいと思う。全部食べてしまえたらいいのに。
「でも、――それじゃ、君がいなくなってしまうからね」
けれど、それはできない。
怯えられても、泣かれてもいい、彼の姿を見ることが出来なくなるのは耐えられない。会えなくなるのは嫌だ。わがままといわれても、今このツナの存在全てが欲しいのだ。
ヒバリンは黙り込み、悲しげな表情を浮かべると、少しだけ痛々しげに顔を歪めた。
「ヒバリン……?」
「――好きなんだ」
この感情を言葉にするとすれば、きっとその言葉が一番ふさわしい。
体の奥からあふれる感情を言葉にのせると、ヒバリンはやわらかく微笑み、零れそうに瞳をひらくツナを見つめた。
「全部僕のものにしたい」
種族で、天敵で、それだけでも拒絶されることもわかっているのに、それでもツナが欲しい。
(――もう、嫌われてるかもしれないけど)
「ツナ……」
囁くように名前を呼びながら、ヒバリンは返事を恐れるようにもう一度ツナの唇を塞いだ。