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霊感青年☆バスターズ

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 意外に思われるかもしれないが、霊感を持っていることすなわち霊が見えるという訳ではない。怪奇現象を引きつけるだけ引きつけ、しかし霊的なものに対する視力を全く持たないという人間だっている。インチキ霊媒師に会ったことはあっても同じ境遇の人間に会ったことはない、自分スペインはそんな風に生まれてしまった人間だった。
 祖先が坊さんだとか牧師だとかイタコだったとかそういう話はついぞ聞いたことがない。極々平凡な家庭に生まれた俺は、しかし見えないことを除けば類まれな霊感を持っていた。俺が生まれてから数々の怪奇現象に悩まされた両親が「本物」の祓い屋を探し当ててようやく俺の家族は安寧を見たという。ただその祓い屋、言わばその道のプロの力を持ってしても俺の体質を変えることは叶わなかったらしく、俺は物心ついた頃から霊そのものを見ることは無くても小さなポルターガイスト的なあれこれを間近に見ながら成長した。聡い両親にそれなりにしっかり育ててもらい、俺は子供ながら自分の体質を無闇に言いふらしたりすることもせず(少数派が弾かれる社会の方を糾弾する人もいるだろうが、それはとても労力のいることだ)、月に一度その祓い屋にお守りを貰いに行くこと以外は全く健やかに成長した。
 だから俺が自分の体質に悩むようになったのはここ数ヶ月のことだ。俺が生まれてこの方ずっと世話になっていたその祓い屋が亡くなった、俺が大学に入って二回目の春を迎えてしばらく経った日からだった。

 参った。俺は連日の怪奇現象にすっかり参っていた。朝目覚めて背後に妙な雰囲気を感じることも、通学路で俺以外に聞こえない動物の声にまとわりつかれることも、夜布団に入ってから夢枕に立たれたことも数知れず。夢の中ではしっかりと姿を現してくるそれらのおかげで俺は寝不足だった。初めの内は今までと同じぐらい、小さな物音が日に数回する程度だったのが、日に日にお守りの力が弱まっているのかだんだんとひどくなっていった。
 その日の朝も俺はあくびを噛み殺しながら横断歩道の信号が変わるのを待っていた。いつも使っている肩がけの鞄がいやに重く感じる。どうせろくに眠れないからと早めにアパートを出たおかげで人は少ないが、大きな国道を横切るため、この信号の待ち時間は長い。俺は授業中も俺を悩ませるであろう声を思って憂鬱な気持ちになった。二年生になって少し授業数が減った分、一つ一つの授業の内容はより専門的になっている。単位を落としたら後が面倒なのだ。涙で曇った視界の中に青信号を見つけて俺は何とか歩き出した。はずだった。
「危ねえっ!!」
 ぐいっと腕を後ろに引かれて俺はよろめいた。寝不足に加えてあまりに突然のことだったので俺はその力に逆らえずに歩道に引き戻されて尻餅をついた。
「何すんねん!」
 俺は俺の腕を引っ張った人間の姿をきっと睨みつけた。
 こっくりとした濃い茶色の髪。下から見上げているせいか瞳の色は緑なのか茶色なのかよく分からない。釣り上がった目尻は性格のきつさを思わせた。そして彼は俺の推量と違わぬきつい声音と口調で言った。
「てめえこそ何してんだ! 信号見ろ!!」
 俺はむっとした顔のまま顔を前に向けて、そして唖然とした。
 信号は未だに赤のままで、重そうなトラックが大きな音を立てて目の前を横切っていった。呆然としたままの俺の耳元でケタケタと笑い声が響いた。
 幻覚を見せられたのかとどこかぼんやりと思ったが、ここまでひどいことは今まで無かった。
「……!!」
 未だに響く嘲笑がとても耳障りだった。俺は反射的に怒鳴っていた。
「うるさいっ!!!」
 男とも女ともつかない笑い声は霧散した。多分八つ当たりだ。はあと息を吐いて、そこでやっと俺は隣に人がいたことを思い出した。
「お前……」
「ちゃっちゃうねん! 今のは君に言うた訳やなくて!」
 俺は立ち上がって慌てて弁解した。電波だと思われるのも言いふらされるのも勘弁だ。俺の頭の中はどうやって彼を口止めしようかということでいっぱいだった。だがいい言葉が見つからない。もどかしくなって手を振りながら不審者ばりにどもっていたところで、相手のため息が俺の言葉を遮った。
「いい。分かってる」
 俺は身振り手振りをぴたりと止めた。今彼は何と言ったのか。分かってると言った。何がだ?
 黙った俺を気まずそうに一瞥して、彼は早口で言った。
「お祓いでも何でもとっとと行っとけ」
 おら、今度こそ信号が変わってる。次は間違えるんじゃねえ。そう言って彼はすたすたと横断歩道を渡り始めてしまった。なるほど確かに青信号だ。ではなく。
「ちょ、ちょお待って!」
 今度は俺が彼の腕を掴んで引き戻した。妙な声を上げて彼はあっけなく引き戻される。さっきと全く立場が逆だった。
「君見えるん!?」
 スペインは彼の肩に腕を置いて必死に尋ねた。青年は俺に気圧されたように頷いた。
「話聞きたいねん! 俺そういうのの本物の人に会うこと少なくて! ああこんな騒がしいとこやと落ち着かんな、ちょっと戻ろ!」
 俺は青年が抵抗しないのをいいことにその腕をぐいぐいと引っ張って通学路を戻っていった。青年は抵抗しなかった訳ではなくむしろ彼にできる精一杯で抵抗していたのだが、悲しいかな彼は非力で俺は全く気付かなかった。青年の「待てよ!」という声も、残念ながら俺の耳には全く入らなかった。
 走るのとほとんど変わらない速さで俺は通学路から少し外れた住宅街の路地裏に青年を引っ張り込んだ。そこでようやく掴んでいた腕を離した。彼は腕をかばうようにぱっと胸元に持っていった。俺は少し息を切らしながら喋った。
「俺スペイン言うねん。そこの大学の二年生」
 青年は黙ったままだ。俺は構わず話し続けた。
「突然ごめんな、でも俺ほんまもんに会えたの久々で……君霊媒師だったりするん? それともその家系とか? そういうの紹介してくれると助かるんやけど……ああまだ名前聞いとらんかったな。なあ、君、何て言うん?」
 青年はびくついた様子で俺の話を黙って聞いていたが、掴まれた方の手首をさすりながらおずおずと答えた。
「……ロマーノ。同じ大学の一年」
「そっか、ロマーノって言うんやね」
 俺はにこっと笑ってみせた。どうやら自分が意気込みすぎてロマーノを尻込みさせていたようだとようやく気付いたからだ。ロマーノはそれでいくらか落ち着いたようだった。
「なあロマーノ、それでさっきのことやけど」
「俺は何でもねえよ。見えるだけだ。祓うとかそういうのはできねえ」
 ロマーノはぶっきらぼうに答えた。どうやら俺が彼の顔から感じた第一印象というものはあながち間違っていなかったらしい。こちらの強がりと尖った口調がロマーノの素のようだった。
「そこを何とか!」
「無茶言うな! それにお前、」
作品名:霊感青年☆バスターズ 作家名:あかり