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霊感青年☆バスターズ

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 ロマーノが突然黙った。手を合わせてロマーノを拝むようにしていた俺は不審に思って顔を上げた。「え」の形に口を開いたままのロマーノの表情がみるみるうちに強張っていった。同時に俺は自分の背後にどうしようもなく嫌な空気を感じた。 俺は恐る恐る振り返った。普段友人から鈍い鈍いと言われている自分にもすぐに分かった。そこには一見何も無くただ住宅のブロック塀が広がるだけだったが、まるで温度という温度が辺り一帯から逃げ出してしまったようなどうしようもない冷たさを感じた。
「お前、何つーもん引き寄せたんだよ……っ!」
 ロマーノの怯え様は尋常ではなかった。彼は一体俺の向こうに何を見ているのだろう。
「何つーもんって言われても見えへんし……! ロマーノこそ何でいきなりそないビビっとるん……!」
 すぐにでもそこから逃げ出したかったが、俺はロマーノの横まで行くのが限界だった。足に根が生えたようとはまさにこんなことを言うのだろう。その冷気が俺達の全身に絡みついてしまったかのようだった。
 ロマーノが澱んだ空気を振り切るように叫んだ。
「さっきだってちゃんと見えた訳じゃねえ! 俺が分かったのは笑い声だけだ! 最初は本当にてめえがボーッとしてて飛び出したかと思ったんだよ! したら、お前にも声が聞こえたって言って、ああちっちゃいのがイタズラしてんだなって思っただけなのに……!」
「それが今急に出て来たってことか……」
 スペインは唇を噛み締めた。要は、自分は親切心で声を掛けてくれたロマーノを最悪な形で巻き込んだのだ。
「理由は、分かるぞ」
「……何でや?」
「こっちの方が人気が無い……それに餌は多い方がいいんだろ」
「……嫌なこと言わんといて」
 不意に、ひやり、と空気が動いた気がした。とっさに俺は自分の背後にロマーノをかばう。震える足を叱咤してずり、と後ずさったものの、路地の幅などたかが知れている。ロマーノが反対側のブロック塀に当たった振動が俺の腕に伝わってきた。ロマーノは俺より背が低かった。
「ロマーノ、逃げえ」
「……む、りだ、こんなやばいの」
 ケケケと笑う声がまた聞こえた気がした。逃げ場の無い俺とロマーノを明確に嘲笑う声。嗤う、声。さっきまで俺が背を向けていたブロック塀がひどく遠い。朝の日光が翳った気さえする。空気がこごってしまったかのようだった。
「……お前なら何とかできるだろ」
 ロマーノが震えながら言った。何とかと言われても、俺にできることなど何も無い。
「俺かてどうにかしたいけど、どうにもならへんねん……!」
「はあ!? お前そんなに強そうなのに自分で祓えないのかよ!」
「見た目で判断せんといてや!」
 俺は困惑と悲痛が半分ずつの声で言った。自分で言うのも何だが俺はそれなりにガタイがいい。だが肉体的な強さを霊的なものに対しても適用するというのはお門違いだ。だがロマーノはそれに反論した。
「違う、そうじゃねえ! お前は見えないだけだ!」
「はあ!?」
 ロマーノの言葉の意味が分からずすっとんきょうな声を上げる。その間にも「それ」はますます俺達に近付いてきているようで、ついに足首の辺りに通常なら感じ得ないであろう嫌な悪寒を感じた。
「分かるんだよ!! いいからお前何か持ってねえのかよ、きっかけさえあれば何とかできるはずだ!!」
「そんなん言われても、……!」
 言いつつ俺ははっと思い出した。嫌味なぐらいにゆっくり足を這い上がってくる冷気からかばうように、肩にかけていた鞄のベルトを手にぐるぐると巻いて胸の辺りまで引き上げた。
 意を決して俺は背後のロマーノに声を掛けた。
「ロマーノ、怖いかもしれへんけど俺に教えたって」
 背後のロマーノが体を強張らせた気がした。俺は正面を見据えたまま話を続ける。
「俺本当に見えへんねん。何も。何や空気が暗いなーってそれだけ。今ロマが見てるもんを教えたって。それで」
 止めを刺されそうになるぐらいの距離に、という言葉は飲み込んで。
「俺でもどうにかできそうな距離になったら合図したって」
 俺は自分の服がぎゅううと引っ張られるのを感じた。おそらくロマーノが握り込んだのだ。
「助けろよ……」
「助けるで」
 ロマーノがひとつ、息を吸って、吐いた。
「まだだ。三歩先」
 俺は心の中だけで礼を言った。もう冷たさは膝にまで忍び寄っていた。口を開く余裕は無い。
「まだ」
 ひたり。何かが動く。冷たさも動く。日はますます翳ってゆく。冷たさは膝を這い上がり腿を滑り腰の辺りに到達した。
 俺は冷たい体の下を見ない。きっとロマーノはもっと恐ろしいものを見ている。自分が目を逸らしてはいけない。
「まだ」
 冷たさが胸に巻き付き肺まで染み込んで行く心地がした。俺は深く深く息を吸って今一度手にしたものを握り締めた。
 ロマーノが短く息を吸う音が聞こえた。
「今だ!」
「!!!」
 俺は持っていた鞄を懇親の力で振りかぶり、そして横殴りに叩きつけた。俺が確かに何かの手応えを感じた次の瞬間、

 ぱんっ

 という音がして、俺の鞄の口が弾かれるように開いて中身が空中に放り出された。がしゃんとプラスチック製の筆箱が落ちる。同時に教科書。遅れて袋からも放り出されたルーズリーフがぱらりぱらりとゆっくり落ちてきた。
 俺が呆然として鞄のベルトを握り締めたままそれらを見ていると背後でどさりという音が聞こえた。振り返るとロマーノがへたり込んでいた。慌てて俺もしゃがんでロマーノの様子を見る。
 いつの間にか日光の暖かさが戻ってきた路地裏の真ん中、俺の背後、宙に投げ出されていたルーズリーフの最後の一枚が地面に滑り降りた。そして、本来ルーズリーフより重いはずの、しかし最後まで空中に浮いていたお守りがぽとりという小さな音を立ててルーズリーフの上に落ちた。

「ロマーノ大丈夫か!?」
 俺はロマーノに聞いた。ロマーノは相変わらず震えていたが、始めに「何か」を見つけた時よりずっと顔色がよくなっていた。
「……腰が抜けたんだ畜生」
 この短時間ですっかり把握してしまったロマーノの罵り言葉を聞いて俺はほっとした。
「ちょっと待ってな」
 俺は後ろを振り返って荷物をまとめた。一番初めに目についたお守りを拾ってぎゅっと握り締めたあと、そっと胸ポケットに滑り込ませた。広がった荷物を手早くまとめて鞄に放り込み、膝に手を当てて立ち上がった。
「ん」
 そして再び背後のロマーノの方を見て手を差し出す。ロマーノは渋々といった風に俺の手を取って立ち上がった。
 何となく会話が無いまま同じ方に歩き出した。俺が腕時計を見ると、針は一限目が始まって大分経った時間を指していた。俺が時刻について喋り出すより先にロマーノが口を開いた。
「多分交通事故で死んだ奴だ。横断歩道のとこに花があった」
 俺は相づちをうって視線を宙にやった。言われてみれば小さな缶に花が生けられていた気もする。
「どんな奴だったん?」
 俺は何の気なしに聞いたのだが、ロマーノはまた地面に逆戻りしそうな青い顔になって言った。
「……俺はスプラッタは嫌いだ」
 俺は首を傾げた。何故今映画の話が出てくるのか分からないが、まあ彼が言いたくないと言うならいいだろう。
作品名:霊感青年☆バスターズ 作家名:あかり