霊感青年☆バスターズ
そのままぽてぽてと歩いている内に件の横断歩道に辿り着いた。信号はまた赤だ。二人で顔を見合わせ、どちらともなく足元の缶に生けられた一輪の花の方を向いて目をつぶった。二人がしばらく閉じていた目を開いてもまだ信号は赤のままだった。
「……俺も、持ってたんだよ」
「え?」
またロマーノがぽつりと呟く。俺はともすれば道行くトラックの轟音にかき消されてしまいそうなその声に必死に耳を傾けた。
「てめえのやつほど強いやつじゃねえけど、そういうのを寄り付かなくするやつ。お守り」
「うん」
「それを持ってから、見えるだけで寄って来ないようになったんだ。でも少し前……二・三週間ぐらい前に急に効かなくなって。聞いたらお守り作った奴が……死んじまったんだって」
ロマーノがそこで言葉を切ったので俺に口を差し挟む余地ができた。
「お守り効かんくなってから今まではどうしてたん?」
「……逃げてたんだよ、悪ぃか!」
あんなにでけえのがいるなんて聞いてねえケ・パッレ、と八つ当たり気味に言ってロマーノは排気ガスになぶられた前髪を苛立たしげに掻き上げた。俺は乱れる髪をものともせずにしみじみと呟いた。
「俺のお守りってお祓いまでできたんやねえ。新しいの貰わんようになってから段々効果も薄れてきとったのに」
ロマーノが何ともいえない表情で俺の方を向いた。俺もロマーノの方を見た。明るい日の下に来てゆっくりと眺めて、俺は初めてロマーノの眼を見た気がした。何の他意も無くただ綺麗だと思った。
「……お守りにはそんな効果無えぞ」
「……へ?」
俺はさっと胸ポケットに手をやった。
「俺のやつはそんな風にできてねえ。持ってる奴に近付けないようにする、持ってる奴の近くででかい悪さをしねえようにする、その二つだった。他のお守りもそんなもんだ」
「お守り持っとる間もちっちゃい怪奇現象はずーっとあったんやけど……」
「お前の磁力が強すぎたんだろ」
「うーん……」
それには心当たりがあったので俺は不承不承頷いた。ロマーノがふい、と遠くを見て言った。
「さっきも言ったけどさ、多分お前、本当に『見えない』だけなんじゃねえのか? 聞こえる触れる引き寄せる、それで」
ざあっと風が吹いた。不思議とガス臭くない風だった。
「祓える」
風が収まった後も俺は納得できないままだった。
「でもやっぱりお守りのおかげが大きいと思うで。これからずっとって訳にはいかへんのやろうけど」
「だからそれを媒介にお前が……あー分かんねえならもういい。そんな顔するな。真面目に考えてるこっちが傷付く」
ロマーノは手をひらひらと振った。
「どっちにしろ新しいお守りは見つけなあかんよなあ」
「……」
俺もロマーノも黙り込んだ。それはまさに急務に他ならない事項だからだ。かと言って俺達に伝手は無い。さてどうするか。
その時俺は唐突にひらめいた。ロマーノの肩を掴んで自分の方に向けた。
「なあロマ、ちょっと提案があるんやけど」
実のところこの「提案」は解決策ではなく妥協案なのだが、この際四の五の言っていられないだろう。
「な、何だよ!?」
「ロマは俺がいない時に今日みたいなのが来たらどうするん?」
我ながら卑怯な言い方だと思った。案の定ロマーノはしどろもどろになる。お前も俺もさっきのからは逃げられへんかったやんなあ。視界の隅で道路の信号が青から黄、黄から赤に変わった。右折用の矢印が灯る。
「ロマが俺に祓う力があるって言うなら、俺はそう言うロマを信じたい。でもな、俺見えへんねん。それは俺が分かるたった一つの『本当』や。だからな、ロマ」
矢印が消えて信号機は再び黄と赤をなぞった。ロマーノは固唾を飲んで俺の言葉を待っていた。
「もっかい俺らにちゃんとしたお守りが見つかるまで。それかあんまり考えられへんけど、俺とロマのこういうのが無くなるまで、俺がお前を守るから」
車と歩行者と風、それら全ての動きが止まる。
「俺の目になってくれませんか」
信号が青に変わった。
END.
この後お守りを処分するために聞く見る触る祓うの四拍子そろった着物幽霊憑きの英に会いに行ったり二人で看板オカルト中身お祓いサークルを作ってゴーストバスターズしたり最終的に最強のお守りを作るためにその土地のドン的な悪霊を四人で倒しに行ったりするはず
作品名:霊感青年☆バスターズ 作家名:あかり