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ああ無常

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あれは一年の頃の話になる。授業が終わって委員会もない日だったので、俺は何のあてもなく学園内をぶらぶら散歩していた。まだ入学して間もない頃だったので、敷地のどこに何がある、なんて事もろくに知らず、だからこそ探検だと称しては小さな冒険を楽しんでいた。
ぐるりと校舎をまわって裏の方に出ると、そこで自分と同じ色合いの制服がうずくまっているのを目にする。屈んだ背中は小さく丸まっていて表情は見えない。頭巾から飛び出した真っ黒な髪の毛先がくるくるとあちらこちらに跳ねている。柔らかそうな、というよりはむしろごわついていそうな、そんな癖っ毛には覚えがあった。
「伊作?」
声をかけると驚かせてしまったのかぱっと勢い良く振り向いた顔がこちらを見ると、途端に表情を緩ませた。
「なんだ、留三郎か。どうしたの?」
「どうしたの、はこっちの台詞だ。何してんだ?」
その場を動かない伊作の隣まで歩み寄る。と、伊作の足元には小さな土の山があった。目をそちらに向けると、視線で気付いたのか、伊作もそちらに顔を向けてうつむいた。
「さっき鳥が死んでるのを見つけてね、埋めてたんだ」
伊作の言葉で、土の山が墓である事を知る。伊作の表情は何とも言えないもので、悲しんでいるようにも、憐れんでいるようにも見えた。俺はごく自然に自分も屈んで手をあわせる。と、伊作が驚いたように大きな目をぱちぱちと瞬かせた。
「留三郎は優しいね」
生きた姿を見たわけでもない、ましてや俺に何の関わりもない小さな命だったけど、死した命は弔うべきものだと思っていた。しかし自分はわざわざ見も知らぬ鳥のために墓を作ってやりはしないだろう。可哀想に、と眉をひそめる事はあっても、己の手を汚し土を掘って永遠の寝床を用意してやりはしない。
伊作は微笑んでいた。その指先は爪の間まで真っ黒だった。
俺は、彼の方こそ優しい、と思った。
「しょうがないよ」
ぽつりと伊作は呟く。俺を慰めるような言葉だった。墓まで作ってやった鳥の、その死に心を痛めているのはむしろ伊作だろうに。
俺はこの日初めて、自分の同室者が心優しい少年であると知った。
作品名:ああ無常 作家名:385