ああ無常
あれは四年の頃の話になる。俺たちの学年で初めて、真の意味での脱落者が出た。それまでも家の事情だったりで学園を去る者はいたけれど、今回はそうした理由じゃない。
四年ともなれば本番さながらの厳しい実習も増えてくる。そうした内の、悲しい事故だった。学園を去った少年は火薬の事故で片手を失った。毎年毎年とは言わないまでも、このような事は初めてではないらしい。彼が退学した旨を俺たちに伝えた先生は、悲痛な面持ちで、このように忍びとは危険と隣り合わせで、けして遊び半分で授業に挑んではならない、と生徒たちを戒めた。
脱落した少年は談笑しながら火薬の調合をしていたとかで、それは確かに自業自得とも言えた。だがそれでも、その代償が生涯片腕であるというのは酷い話に思える。
四年の同室暮らしですっかり親しくなった俺は、当然部屋に戻るなりその話を伊作に振った。優しい彼は同じように心を痛めているだろうと思っていた。
しかし伊作は俺の話をうん、うん、と頷いて最後まで聞くと、あの何とも表現し難い、悲しんでいるようにも憐れんでいるようにも見える顔をして、静かに「留三郎」と俺の名を呼んだ。
「留三郎、それは、しょうがないよ」
緩やかに伊作は首を振る。しょうがない、と繰り返し、肩を落とした俺を慰めているのか、背を撫でるようにぽんぽんと叩く。
俺は一方的に、納得のいかない思いを伊作にぶつけた事を恥じた。彼も悲しんでいるだろうに、俺が昂ぶっているものだから、慰めにまわってくれている。伊作の優しさに甘えた事を俺は恥じた。それと同じだけ、伊作の優しい心根に感謝した。
「お前が友達で良かった」
俺は素直に思った事を吐露した。優しい伊作の前では俺も同じだけ優しくなれたし、素直にもなれた。そう言うと、伊作はまた困ったように、照れたように曖昧に笑ってごまかした。
俺は心から、同室であったのが、そして誰よりも親しい間柄になれたのが伊作であった事を、天に感謝したい思いだった。