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鳥は囀り花実り、:前

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 日に日に寒さと夜の暗闇が増す季節。
「ぶぇっくっしょぇぇいっ!! はー…もう、誰だぁ俺様の才能を妬んで噂してる奴は!!」
 現宗主に面目上とりあえずと与えられた形ばかりの狭い一室で、ギルベルトは机上に置かれた燭台の火を揺らした。起こした風に煽られ煤混じりに溶けた蝋が台座へと流れ落ちる。目に見えて短くなった蝋燭が、太陽が傾き始めてからどれ程経ったかを如実に語る。
 ふと気付けば虫が鳴いていた。机から、開け放したままだった窓辺に項垂れる先を変え、一度に情報を詰めこんで鈍く痛む頭を外気にさらす。りりり…と耳に清涼な音色も相まって徐々に頭痛は落ち着いてきたが、気温の低下と共に知らず冷やしてしまった体からはさらに体温が奪われる。寒さに肩を震わせ再びくしゃみ。夜にもなるとよく響く。
 窓を閉じればいいだけの話だが、どうにもそうする気になれないのは読んでいたもののせいか。
 今度は窓辺を肘掛代わりにしてだらしなく寄りかかる。そうしてギルベルトは熱心に読んでしまっていた机の上の小さな本を苦々しく見つめ、盛大なため息をこぼした。

作品名:鳥は囀り花実り、:前 作家名:on