日常の話
「てめェはいきなり何すんだよッ、なんで俺が殴られなきゃなんねェんだ!? てか、お前、居たのかよ!?」
彼女から突然襲撃されるようないわれは全くない。
壇はそう思いながら憤然と抗議をしたが、巴も負けじと咆哮を返した。
「しッつれいね、さっきからずっと居るわよ!アンケート回収してくつもりなんだから!」
アンケート、と言われて壇ははたとその存在に気がついた。
そういえばそもそも巴から配られたそれを二人で記入しているところだったのである、元々やる気はほとんどなかったが七代の『癖』の話が挟まった所為で壇の頭からはアンケートのことなど既にすっかりと抜け落ちていたのだ。
「…………忘れてた」
間抜けな壇の呟きに対し、たっぷりと怒りを含ませながら大きな溜息を吐き。巴はひどく適当な壇の分の回答を
さっさと浚って、丸めた紙の束へ混ぜた。
「………………………………何が『お前も結構、』なのよ、全く、これだから壇は……」
回収した枚数を手早く数える巴の呟きは、音量が計算されているのか壇の耳には届かない。
「早く書けって急かす為になんで俺が殴られるんだよ……ッたく、相変わらずとんだ暴力女だぜ……」
自身が殴られた原因についてどうやら誤解しているらしい壇の顔を茫然と見遣りながら七代は、振り上げられた己の掌へゆっくりと視線を移し、
「、……」
一瞬早く巴によって達成され、今はもう目的と行き場を失くしてしまったその掌を、とりあえず七代はそっと静かに机の上へ戻しておくことにした。
そうするくらいしか、他に選択肢はなかったので。