王子様、大激怒
テーブルの上には、白地に上品な花が描かれた陶製のティーカップ、ティーポット、それに、銀のナイフとフォーク、スコーンや小さなケーキが鎮座している二段のティースタンドが置かれている。
ベルゼブブ優一はアフターヌーン・ティーを楽しんでいた。
魔界のベルゼブブ家の城にいる。
優雅な午後のひとときだ。
しかし。
ベルゼブブはイラだたしげな眼で、テーブルの隅のほうに置いてある携帯電話を見た。
鳴った形跡はない。
佐隈りん子からのメールは来ていない。
今日も召喚されないようだ。
その理由は、単にベルゼブブの力を借りるような仕事がないからではないだろう。
五日まえに佐隈と大ゲンカをしたのだ。
六日まえの夜、佐隈の酒につき合わされた。
佐隈の酒癖は非常に悪い。
それで、さんざんな目に遭わされた挙げ句に佐隈の家で一泊することになったベルゼブブは、翌朝、佐隈に苦情を言った。
ベルゼブブとしては当然のことをしたまでである。
だが、佐隈は自分のしたことを覚えてなかった。
その後、言った言わない、したしない、言い争いはエスカレートして、完全にケンカ別れ状態でベルゼブブは魔界に帰ったのである。
そして、それから、ベルゼブブは佐隈から召喚されていない。
そのため当然のことながら、しばらく、佐隈のカレーを食べていない。
佐隈のカレー。
それが頭に浮かんだ。
意識がそちらのほうに行く。
しかし、すぐにハッと我に返った。
「食べたいわけじゃないですからね!」
ベルゼブブは大声でひとりごとを言った。
だれが食べたいものか、あんな、わからず屋の、ビチクソ女の作ったものなんか……!
手を伸ばし、ティースタンドにあるスコーンを取った。
そのスコーンを食べる。
口が別のものを求めているのを無視するように食べる。本日のスコーンはいつもよりも堅めで、ガリガリ食べる。
スコーンを食べ終わったころには喉が渇いていたので、ティーポットから紅茶をティーカップに注ぐ。
紅茶はアールグレーだ。ベルガモットの良い香りが、ふんわりとあたりに広がる。
ベルゼブブはティーカップを手に取った。
芳香にうっとりしながら紅茶を飲む。
心が落ち着いてきた。
そんなベルゼブブの頭上に魔法陣があらわれた。
「!」
引き寄せられる。