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真夜中の攻防

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「……寝ろって~っ!!」
「はなせ、ウォルター!!」
 身を離そうとウォルターの胸をぐいーっと押すアンディ。
「おとなしく寝ろって!!」
 バシッと頭を枕に押さえつけられて、アンディの目の鋭さが増す。片手分、体を押さえる力がなくなったことで、腕を突っ張って体を引き離そうとする。
「寝られるかっ……!!」
 その時、ふたりの頭上からバサバサッという音がした。
 かすかな光にキラめくくちばし。そう、シャルルの。
 ふたりともが同時にハッとして、バッと避ける。
 くちばしはふたりの間の枕に命中して突き刺さった。
 ズバシッ。
『…………』
 ふたりともが呆然としてシャルルを見守る。
 ゆっくりと、しかしズボッという大きな音を出してくちばしを枕から引き抜いたシャルルは、キランキランと目を輝かせて、ふたりを交互ににらみつけた。
「……おい。寝ないで遊んでいるなら宿を出てとっとと歩け。さっさと本部に戻れ」
 第二弾の来そうな険悪さに、ウォルターがしおしおと頭を下げる。
「……すいませんでした……」
 アンディは呆然としていたが、見開いた目をゆっくりとシャルルからくちばしの刺さった枕に移動させ、誰へともなく言う。
「枕に穴が……」
 『えっ、あっ、そういえば!!』とウォルターもハッとして青ざめて枕を見る。宿屋の枕を。
「シャルル……」
 くるりと背中を向けているカラス型ロボット。
 アンディはじっと見つめてぽそりと言う。
「……やっぱり、ヒッチハイクで帰ればよかったね」
「今それ言う!?」
 ウォルターがびっくりして声を上げる。
「男ふたりは怪しくて乗せねぇだろ。俺、棺持ってるし」
「ウォルターを置いて」
「まだ怒ってる!?」
 シャルルがくるりと振り向く。
「おい、ここでまたケンカを始めるなよ。早く帰るぞ」
 もう宿を出て歩くこと決定のようだ。
 ウォルターはアンディと顔を見合わせる。
 もう眠さのかけらも見られないぱっちりとした目でウォルターと視線を合わせたアンディは、無言で枕を見る。シャルルのくちばしによって穴の開いた枕を。
「……どうしようか、これ」
 アンディの口からぽつりと漏れた言葉に、ウォルターはなんでもないというように軽く答えた。
「大丈夫だ、任せろ」
 ズボッとベッド脇のテーブルに置かれたティッシュケースからティッシュを一枚抜き取り、ボスッと枕の穴に突っ込んでふさぐとひっくり返してぱんぱんとはたいた。
「うわ……」
 アンディが何か言いたげにじっと見つめる。
 シャルルは黙っていなかった。
「今までの悪事が露見する手際のよさだな」
 『アンディ、真似するなよ』と続けて言う。
 ウォルターがムッとしてシャルルをにらんだ。
「誰のせいだと思ってんの?」
 枕に穴を開けたのはシャルルだ。
 カラス型ロボットは平然として返した。
「おまえたちがいつまでも遊んでいるからだろ。おとなしく寝るか、ここを出て歩くか、どっちかにしろ」
「へぇへぇ」
 バサッと音を立ててアンディが無言でウォルターの横をすり抜けベッドから飛び降りる。
 もうこうなっては仕方がない。
 続いてウォルターも鎖を握ってベッドから降り、棺を担ぐ。
 夢中だったので気にしていなかったが、騒いでしまったのできっと周りに迷惑だったはずだ。おまけに枕に穴だし。こうなったらとっとと帰ろう。アンディはもうすっかり目が覚めている様子だし、自分も。これ以上は疲れるどころではない。
 カバンを手にスタスタと扉に向かって歩くアンディの背中を追いかける。
 バサバサと羽音を立てて頭上をシャルルが飛んでいく。そしてアンディの肩に止まった。
 ウォルターはそれを眺め、それから少しだけ後ろを振り返り、未練ありげな視線をベッドにおくり、『はあ』とため息を吐く。肩を落として。
 ますます距離が遠くなった。ってか、いっそ嫌われた?
「ウォルター」
 呼ばれて『ん?』と振り向くと、アンディが戸口で立ち止まって振り返って見ている。ウォルターを待っている。
 ウォルターはきょとんとして、ニッと笑った。




(おしまい)


作品名:真夜中の攻防 作家名:野村弥広