二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

真夜中の攻防

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 



「……」
 背中に視線が突き刺さる。
 バサバサ……と飛んできたシャルルがベッドの柵にとまり、頭にも視線を感じる。
「……ウォルター、おまえ……」
 背後から限りなく低められた声がぼそっと吐き出される。
 空気がものすごく悪い。どんよりだ。
 参ったな、と今さら自分のしたことの大胆さに気付き、ウォルターはごっくんと唾をのむ。
 でも本当に今さらだ。
 まあ、アンディが怒るのも無理はない。せめて声をかけるべきだったか。でも絶対拒否するだろうし。なんとしてもベッドで寝かせたかった。いや、自分だけベッドで寝られるかとか、そういう問題ではなく。
 振り向かず、背中を向けたままで、やけのように壁をにらみ、背後に向けて怒ったように言う。
「アンディ、寝ろよ。体のばして寝ないと疲れが取れねぇぞ。俺はあんまし寝ないから、心配すんなって」
 強く言い切る。だからしっかり寝ろ、と。
「……」
 戸惑ったような沈黙の後、はーあ……というものすごく大きなため息が背後から聞こえ、ビクリとする。
 いや自分でもどうかとは思ったけど。
「気持ち悪い……」
 ぼそっと、しかしはっきりと出された言葉を聞いては。
「ええっ!?」
 ぎょっとして跳ね起きてアンディのほうを見る。
 ウォルターがベッドに寝かせた時の横向きの状態のまま、首だけ動かしてアンディがウォルターを見上げる。むすっとして。
「ウォルター、気持ち悪い」
「なんで!? 気持ち悪いって何? っていうか、俺の思いやりだぞ、アンディ!!」
「だから気持ち悪い」
「はっきり言いやがった!!」
 涙目でわめく。本当にコイツどうしてくれようかと思う。人の思いやりを『気持ち悪い』とか。それをこうもはっきり言うとか。っていうか、俺に対してヒドくない?
 不満げな顔で動かずにジトッとウォルターをにらんでいたアンディは、やがてゆっくりと首を戻すと、枕に頭を押し付け、目を閉じ、ギュッと眉根を寄せた苦しげな表情で言った。
「人の体温が気持ち悪いんだよ。一緒に寝るとかムリ」
 ウォルターはきょとんとして、『ああ』と納得する。
 そういえば、こんなに密着して寝ることはなかったか、と。
 背中にくっついて眠るわけだから。慣れていないとキツイだろう。違和感を覚えるのも無理はない。
 こどもの頃からベタベタと人とくっつく……人と接触する……経験をしてきたウォルターと違い、アンディにはそれは辛いのかもしれない。かといって、それならとすんなり他人と接触することを諦めてしまうのも、アンディにとっていいことではないだろう。というか、寂しいことだ。だから、ウォルターは『はい、そうですか』とすんなりベッドから降りる気にはならなかった。アンディがとりあえずベッドで寝ることに抵抗はないようだから、と。
 アンディの頭に手を置き、ニッと笑って言う。
「まあまあ、寝ちまえばわかんなくなるって。アンディ、眠いんじゃねぇの? そのまま寝ちまえば?」
 ウォルターの手を振り払い、アンディが不機嫌そうに言う。
「寝られないよ。ふたりで寝るならボクは降りる」
 ベッドから降りようと起き上がるアンディの手をウォルターは慌ててつかんで止めた。
「まぁ待てって。俺ひとりベッドってのもアレだろ?」
「別にいいよ。それより一緒に寝るほうが嫌だ」
 つかまれた手をまた振り払い、本当に嫌そうに目を細めて言う。
 ウォルターは少しムッとして、わざと意地悪く返した。脅すような低い声で。
「体のばして寝ねぇと大きくなれねぇぞ」
「……。どうしてもって言うんなら、ウォルター降りれば?」
「え?」
 むすっとして吐き出された言葉に、ウォルターは目を見開いて、笑みを凍りつかせる。
 アンディは眠いのをこらえている様子でうつむいて、でも目だけはしっかりと上げてウォルターを見据え、当然のことというようにあっさりと言う。
「ウォルターが降りればいいじゃん。ボクが駄目なら」
「え? 何それ? それ、俺はどこで寝れば?」
 衝撃が過ぎて顔の強張りはとけたが、あまりのことに笑みが引きつる。
 おいおい、どうしてそうなるんだ。ってか、なんて自己中発言。
 アンディは平然と言った。
「どこでもいいよ。……そうだ、棺の上とかどう?」
「おい……」
「いっそ中身全部出して、その中で眠ればいいじゃん。静かになるし」
「ひどいぞ、アンディ!!」
 がっしと両肩をつかんで顔を近付けて怒鳴る。
 いくらなんでもひどすぎる。ってか、『静かになる』ってのは間違いなくアンディにとって。つまり、今まで『うるさい』って思われてたってことか……と、またショックを受ける。大ダメージだ。ここまでくるともう泣けてくる。
 ……っていうか、棺の中で寝るなんて……。
「俺は吸血鬼じゃねぇ! ってか永眠じゃん、それ!! おまえ、俺に死んでほしいの?」
「うるさい」
 アンディはむすっとしてぼそっと吐く。
 ウォルターの脳内でプチッと何かが切れる音がした。
 この野郎……。
 ウォルターはわざと声を低く小さくして、怒りをこらえて静かに言った。
「……悪かったな、うるさくてよ……。でも、もう退けねぇよ。こうなったら、意地でもおまえと寝てやるからな」
「え? なに、その嫌がらせ。っていうか、ウォルター、性格悪い……」
 急に陰気になったウォルターに、アンディが呆気にとられて後ろに下がろうとした。それを、肩をつかんでいた手をぐいっと引き寄せる。そしてそのままベッドに倒れこむ動きを利用して、投げ込むようにアンディも倒れさせた。
 どさっ。
 がばっと起き上がろうとする体にがっしと両腕を回し、ベッドに押さえつける。


作品名:真夜中の攻防 作家名:野村弥広