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しーど まぐのりあ6

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母屋の台所で、召使たちの賄いを文句を言いつつ食べたカガリは、そこから離れではない場所に案内された。そこには銀髪と金髪の男が、ふたりして待っていた。
「どうだ? 仕事はみつかったのか? 」
「まだだ。だか、明日、キラと一緒に行って頼んで貰うつもりだ。」
「はあ? おまえ、何、勝手なことぬかしてんの? キラが外へ出られるわけがないだろう。」
「おまえらが許可をくれれば、キラは出られる。」
「許可したって、無理なものは無理だ。キラは、あそこから、ここへ走っただけで倒れるほどに衰弱している。そんな人間をお供にするつもりか? オーブの皇女。」
 確かに、そうだ。キラは、とても痩せているし、顔色も悪い。気付かないフリをしても、あそこまで弱っていては、カガリも無理だと内心ではわかっている。
「もうひとつ、伝えておく。キラは、おまえの汽車賃と入院費用を捻出するために、俺たちに身体と生命の両方を売り渡した。その借金と、おまえらふたりの汽車賃を稼ぎ出さなければ、キラは帰れない。」
「なんだとぉっっ。」
「これは公正な取引の上のことだ。勝手にキラを連れ出せると思うほうが間違っている。」
「あのな、オーブのお姫さん。おまえが働くとしても、一日の稼ぎなんて知れている。それを貯めたところで、キラを自由にするには何年もかかると思うんだがね。」
「子供が働いたところで、所詮はお駄賃程度のことだ。それを、せっせと貯めるつもりか? 」
「そんなことはない。それなら、おまえが貸してくれればいいだろう。」
「担保は? 」
「担保? 」
「そうだ。おまえに金を貸してやるのはいいとして、おまえがちゃんと戻って返済してくれるという保証はない。それなら、その貸し金に見合うだけのものを、俺が預かるのが担保というものだ。」
「私は卑怯なことはしないっっ。オーブの皇女を愚弄するなっっ。」
「だが、ここはオーブではない。おまえは、ただの子どもで、俺たちは、おまえをよく知らない。信頼関係を築くというのも無理だろう。もし、ここがオーブ国内で、おまえが正当なオーブ皇女であると証明できれば、簡単なんだろうがな。」
 よく考えてみろ、と、銀髪の冷たい男は言い置いて、カガリを外へ放り出す。金髪の男が、カガリを離れまで誘導してくれたが、別に話すこともない。戻ったら、また鍵がかかっていて、扉を叩いた。
「キラっっ、ただいま。」
「おかえり、カガリ。ここで一緒でいいかな? 僕、ここから出られないから。」
「ああ、かまわないぞ。」
 キラは、すぐに帰る姪と一緒に過ごさせて欲しいと、ラクスとアスランに頼んでいた。だから、ふたりも何も言わずに部屋を引き上げる。
「着替えがないから、僕の新しい寝間着で我慢してね。服は洗濯すれば、明日には乾くだろうから、きみがお風呂に入ってる間に、僕がやっておくよ。」
 そして、カガリを風呂に案内するべくキラが寝台から降りた。ジャラリと音がする。キラの右足には鎖がつけられていたのだ。さすがに革紐はお遊びだったらしく、すぐに外してもらったが、足のほうは、そのままだった。カガリに付き合って無理をしないように、という意図であるとラクスは事前に説明していたが、これは驚くだろうな、とキラは、びっくりして眼を瞠っているカガリに苦笑した。
「キラっっ、こんな酷いことをっっ。おまえは奴隷じゃないんだぞっっ。」
「僕は、もう第三皇子ではなくて、ここの召使だという証拠だよ。僕は、こちらの主人に僕の身体と生命を担保にして病院の治療費と汽車の特等室の切符を用立ててもらった。働くつもりだったけど、身体を少し壊したから、ここで大人しくしているように鎖をつけられたんだ。・・・・だからね、カガリ。もう、僕にはきみにしてあげられることは何もないんだ。担保を・・・僕を無駄にさせないで欲しいんだ。きみが、あの路銀で国に帰ってくれれば、僕は報われる。もし、ここで働くというのなら、僕は何のために、ここにいるのかわからなくなる。」
「キラ。」
「正直、僕はきみを送り届けたら、どこかきれいな風景の場所で、のんびりと目を閉じて眠りたいと願っていた。それを犠牲にしてまでしたことを、きみはなかったことにしようとしている。」
 別に、キラは責めているつもりはない。ただ、事実を伝えただけだ。それだけだったが、カガリは自分が間違ったことを理解した。とんでもなく酷い間違いをして、キラの気持ちを無視したのだ。そう考えたら、この館の主人たちの言葉も素直に頷けた。自分はキラが真剣に考えて、精一杯してくれたことを、なかったことにしようとしたのだ。鎖に繋がれたキラという現実は、どんな言葉よりも雄弁で残酷だった。
「私は・・・とんでもないことを。」
「カガリ、お願いだから明日、汽車で、国に帰って。そうしてくれたら、僕は安心して、ここで働ける。」
「でもっっ、キラは。」
「僕は、これでいいよ。とても大切にしてもらってるし、ここの空気は性に合ってるみたいだからね。帰ってくれるね? カガリ。」
 キラの自由と引き換えにされたものは、自分が国に帰ることだ。そうしなければ、誰も報われないのだと、カガリにもわかる。戻って、すぐにでも両親にお金を用立ててもらって、迎えに来ればいい。そんな単純なことがわからなかった。
「わかった。明日、帰る。」
「うん、ありがとう。じゃあ、お風呂に入って温まろう。こっちだよ。」
 ジャラジャラと歩くたびに鳴る鎖に、カガリは心を痛める。キラから自分が奪ったものを見せ付けられているのが辛かった。キラはいつものように丁寧にカガリを風呂にいれ、そして、自分は洗濯をしている。湯船に浸かって、その様子をカガリは見ていた。洗濯石鹸じゃないけど、いいよね? と、キラは笑いつつ、手を動かしている。よくよく考えたら、自分は、この街に滞在して、何一つ手伝いらしいこともしていないんだとも気付く。いつもキラが何かしら動いていて、自分は課題をやっていただけだ。
「私はバカだ。」
「えっ? 」
「キラは働いて、私の看病もしてくれたのに、私はキラに何もしてやれていない。」
「当たり前だろ? カガリは大国の皇女なんだから、こんなことはしなくてもいいんだ。覚える必要もないからさ。」
「でも、キラだって皇子なんだぞ。」
「僕は、皇子っていっても第三皇子だったし、それに、僕の乳母は、出来ることは自分でやれ、が信条の人だったからね。僕が、どこかへ養子に出されても苦労しなくていいように考えてくれてたんだ。」
 十分役に立ってるよねぇ~と、キラは苦笑する。カガリが頷いてくれたから、キラとしては安堵した所為で、軽口が出てくる。おかしなものだ。あんなに落ち込んでいたのが嘘のように気分がよかった。
 洗濯したものを乾して、カガリに自分の着替えを着せて、寝台に寝かせた。ふたりでもゆったりとした寝台だが、いくらなんでも姪とはいえ、皇女と一緒に眠るのは気が引けて、カガリが寝付いてからソファに座り込んだ。これで何もかも上手くいくだろう。もし、路銀が足りなかったら、どうしようとは思うが、たぶん足りるのではないかと予想している。切符とは別に渡した路銀は、それだけでも二等車なら帰れるぐらいの金額だったからだ。


作品名:しーど まぐのりあ6 作家名:篠義