あたし、やめないわ。
その神官姿の男はあきれた顔をして、目の前の席で足を組んでいる。
何人前かと思われるまでの豪華な料理が、ずらりと並べられているテーブルを挟んで、
柔らかな太陽と同じ色のある少女はものすごい勢いで、次から次へその小さな唇へと運んでいく。
エビやカニのボイル。
バターのたっぷり入ったソースがかかってある、いい色の肉の塊。
乳白色のまろやかなスープ。
青々と新鮮さのあるサラダ。
そして、いかにも健康的に食べる女性。
「う~ん!これもおいしいそ~~~~~う!」
一方対照的に黒髪の青年の前には、ミルクティーが一杯おかれてあるだけで・・・
「ねえ。
リナさん。」
「なぁによ!今しゃべりかけないでよ!
忙しいんだから!
おっちゃん!この肉おいし~~~~~~~!!
3人前追加ね!!!」
「はいよーーー!」
少女はその華奢な体に似つかわしくないぐらいの量を次から次へとぺろりとたいらげ、さらに追加注文をする。
店の奥からは店主が忙しそうに働きまわっている。
お店にとっては、こんなに頼んで、きっとよい客がきたと思われているに違いない。
まったく恥じらいがないく、大きな口をあけた少女がフォークでエビを突き刺して口へ運ぼうとしたときに、彼はじと目で言った。
「リナさん・・・
そろそろ、その大食いやめてはいかがですか?」
「なによ?
なんでそんなこというのよ?」
せっかく食べようとしていたのに・・・とぶつぶつ言いながら、リナはエビをお皿の上に置く。
青年も途中で中断させてしまった少女の機嫌に焦りつつ、話す。
少女と旅を同行する以上本来ならご機嫌を損ねてしまうなてもってのほかであるのに。
きっと、後でそれ相応の報復があるに違いない。
「ほら、だって、
リナさんの食べる食事の量って、普通じゃ考えられないぐらいじゃないですか?」
「だからなんだっていうのよ?」
やっぱり、機嫌が悪くなってしまった!
彼はちょっと冷や汗をかいたが、負けじと言った。
「そんなに毎日毎日食べてばっかりいますと、
太っちゃいますよ?
醜く。」
この青年は恐れを知らずだった。
「な・・・!」
「あんたーーー!!」
少女にとってはその言葉はNGワードだったのだろう。
いや女性にとっては当たり前のことかもしれないが、
この神官の服をきたどこかとぼけていそうな青年はさらりとその言葉をいってのけた。
言われたほうの少女は突然顔は赤くなり、
わなわなとこぶしを握り、
だんと、フォークをテーブルの上へと置く、それと同時に、がしゃんと料理が飛び跳ねる。
さっきおいたエビも生きているわけでもないのに、活きがよく飛び跳ねた。
「あのね~!人がせーーーーーっかく!
この町にきておいしく料理を食べているっていうのに、
あんたときたら~~~~~
そんな言葉を言って!乙女の気持ちを害して、あたしの食事を邪魔するつもりね!
なによ!あんたなんかあたしの旅に勝手についてきておいて!
そうね、やっぱりそうね!
あんたたち魔族はあたしの邪魔ばかりして!
あたしの私生活まで邪魔するつもりね!」
「いえ、そんな。
いつも邪魔をしているだなんて。それに、それは反対じゃ・・・」
と、言いかけて、彼は口をつぐんだ。
まずい!
彼女はもう呪文を唱え始めていた。
「黄昏より暗きもの、血のーーーむぐ!!
むぐむぐむぐーーー!(なにすんのよ!?」)」
(こんなところで魔法を使おうとしているんですか~!?)
青年は少女の口に手を当てる。
この少女ときたらまったく・・・
じたばたと手足を動かし、それから逃れようとする。
「違うんですよ!そんなつもりじゃ~!ほらだって!
今はリナさんも10代だからいいですよ。
でも、人間なんていうものは魔族と比べてほんの数十年しか生きないんですよ?
あと、10年でも月日が流れようものなら、その体は衰えていっちゃうんですから。
僕は 本当に リナさんの心配をしているんです~~~!」
彼はそっと手を離した。
彼女が魔法をこの狭い店で放つことはないようにと祈って。
だって、ここの食事のお代はきっとこの魔族の青年に決まっているんだから
。
もし、魔法を使って店でも壊しでもしたら・・・
そう思うと青年は身震いをした。
ついでに、やっぱり自分の言ってしまった言葉にも後悔した。
「なぁーーーーに!あんたはこのあたしが老けておばちゃんになるっていうことを言いたいの!?
喧嘩売ってんの!?」
少女は青年の胸ぐらをぐっとつかむ。
ああ!もっと誤解されている!
ただのものの例えであったのに。
「ち、違いますよ!
僕、本気でリナさんのこと心配してるんですよ!」
「どうだか!」
「確かに、このまま毎日毎日こんな量を食べ続けていたら、
女性の大敵のおデブになちゃうかもしれませんし、
最悪・・・何かしらの病気になってしまうかもしれないんですよ?
そうなったら手遅れじゃないですか?
この魔族の僕がリナさんのためだけに心配しているんですよ?」
彼は必殺の笑顔を向け、彼女の唇に人差し指を当てる。
「う・・・そんな顔で言わなくたって・・・わかってるわよ・・・。」
ここまできて、リナは言い返せないことに気がついた。
しかし、彼はもう一言付け加えるのは忘れない人だった。
「まぁ、リナさんにとって確かに口に入るものだけがコントロールするのは難しいと思いますが、
人間の第一欲求のひとつですもんね?」
にやり
「くうぅ~~~この~~~」
「リナさん!怒るとしわが増えますよ!」
でも、すぐに気を取り直すと、腕を組み、言った。
「はっは~ん。
あんた、もしかして妬いているんじゃない?人間に。」
「え?僕がですか?ご冗談を。」
「そうよ、
魔族は食べ物なんて食べなくても生きていけるんでしょう?
このあたしが、
こ~~~~んなすばらしい料理たちをあんまりにもおいしいそうに食べているのが、
自分にはできないもんだからうらやましいんでしょう?
「あ~おいしい!人生ってすばらし!」
「リナさん・・・」
「言っとくけどね、
あたし。
この世界の絶品といわれている料理たちをすべて堪能するまでやめないんだから!」
「まったく、あなたって人は・・・
本当に太ったって、
僕は知りませんからね。
忠告しましたから。」
「なに?
そんときはそんときよー。
そうね、そんときはガウリイにでも頼んで嫁として娶ってもらおうかしら?
「リナさん!!」
「あははー!
もう、ゼロスったら馬鹿ね~!
あたしが、本当に太るわけないじゃない!
おっちゃ~~~ん!料理まだ~~~~~?????」
「はいよーーーー!もう少しだよ~~~~~~!!」
作品名:あたし、やめないわ。 作家名:ワルス虎