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パパパンツ!

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銀時のスクーターが風を切って走っている。
その前方を神楽を乗せた定春が走っている。
爽やかな夏の日の下、法定速度に縛られない定春は、ぐんぐんと速度を上げて駆け抜けていた。
隣を走る車の方が慌てて避ける有様だが、定春の無謀走行を、神楽は止めることもなく、 むしろ楽しんで傘を振り回していた。
見兼ねた銀時が、後方から声を掛ける。
「神楽、定春止めろ!危ないってそれ!」
「大丈夫ネ!定春ちゃんと避けて走ってるアル!誰にもぶつかったりしないアル!」
「大丈夫じゃねって。危ないって言ってんだろ。定春急には止まれないって――」
交差点は青信号だった。
だから定春は止まることなく走り抜けようとした。
しかし、駆け抜ける定春の側面に、緊急走行中のパトカーが赤色灯を回しサイレンを鳴らしながら突っ込んできた。
どぉぉぉおおん、と衝突音が響き渡る。
ボンネットを歪ませスピンして止まるパトカー。
そのつぶれ具合が衝撃の強さを物語る。
弾き飛ばされる定春。
白い巨体がアスファルトを滑っていった。
そして

「神楽ァーーーーーーーーーーーーーーーー!」

吹き飛んだ小さな体が、地面に叩き付けられ何度も弾む。
倒れこんだその体はぴくりとも動かなかった。
「神楽ァ!」
銀時が駆け寄ると、神楽はうぅ、と呻いて答えた。
さすがに自動車の衝突くらいで即死にはならないらしい。
パトカーの方は、と見ると中から警官が一人、降りて来た。
「いってェ…。旦那ァ、ペットにはサイレン聞こえたら止まるように躾しといてくだせぇ」
「沖田くん…」
事故の筈なのに、沖田が神楽を跳ねたという事実だけ見ると、何故だかそこに明確な悪意を感じる。
いやそんなはずは無い、これは事故なのだから、と銀時は胸の内で考え直した。
「おい沖田、救急車呼んでくれ!早く!」
「救急車ァーーーーーーーーーー!!」
「そのネタは本編でやったろうが!何でお前までやってんだよ!同レベルか! お前らホントは同レベルか!もう良い、俺が呼ぶ。無線借りるぞ」
空に向って救急車を叫ぶ沖田を押しのけ、銀時はパトカーに付いた無線を手に取った。
真選組経由で呼んでもらうつもりだったが、今、その無線からは土方のやる気の無い声が聞こえている。
『総悟?おい、総悟どうした?何かあったのか?なんで掛け声が『死ね、チャイナ』なんだよ。 俺と話しながらチャイナは無ぇだろ。そこはいつも通り『死ね、土方』だよな。 あいや、別にそう言って欲しいとかいうわけじゃねぇぞ。言ったらぶっ殺すからな』
銀時は無線を指差し、沖田を見た。
「おい、沖田くん」
「なんですかぃ、旦那。俺ァたまたま気合入れ直そうと叫んだところでアクセルとブレーキ 踏み間違えただけですぜ。れっきとした事故でさァ」
沖田はぷぃ、と嘯いて斜め上に目を向けた。
『総悟!こら総悟ォ!てめぇシカトしてんじゃねぇぞ。応答くらいしろ!』
わめく無線機を手に取り、銀時は「もしもし」と応えた。
土方の声がぴたり、と止まる。
「救急車一台、お願いします。場所は大通りの交差点。被害者は大きな犬と小さな少女です」
『……誰だ、てめぇ』
訝しむ土方の声に、銀時は低く笑った。
「僕ですかァ?僕ァ少女と犬の保護者ですよ。おたくの隊長さんに撥ね飛ばされたチャイナガ〜ァルと白い犬のねェ!」
『総悟ォォォ!よりによって一番性質の悪ぃもん撥ね飛ばしやがってェ!』
「ちょっとちょっとお巡りさん、性質悪ぃは無いでしょう。こっちは被害者ですよ?」
『何が被害者だ、コラァっ!どうせそっちが信号無視で交差点突っ込んできたとか、 そんなこったろうよ!緊急走行中のパトカーの前に、しゃしゃり出て来る方が悪ぃんだ!』
「あぁ?何?何それ?こっちは穏便に事を収めようとしてんのに、そんな態度に出るんですか。 僕ァ出るとこ出たって良いんですよ?でもねぇ、いけませんよねぇ。 おまわりさんが『死ね、チャイナ!』とか叫んで本当にチャイナガールはねたりしたら。 マスコミ大好きですよねぇ、こういう話」
『てめぇ、警察脅迫するつもりか…』
「はは、脅迫なんてとんでもない。こっちもねぇ、警察相手に事を荒立てるつもりなんて無いんですよ。 穏便にすませましょうや。まぁおたくがね、誠意を見せてさえくれればね。 こっちもどうこう言うつもりはないんですよ。誠意。わかります?誠意ですよ」
ぎりり、と無線の向こうから歯軋りの音が聞こえてきた。
「まぁとりあえずは救急車だ。大至急お願いしまーっす」
がちゃん、と叩き付ける様に無線機を置いた。
無線の向こう側では、土方が怒り狂っていることだろう。
銀時は無気力に交通整理している沖田を見た。
「おい、沖田くん、交通整理も良いけど、足元の被害者、もちょっとどかしたりした方が良いんじゃねぇの?」
「頭とか打ってるかもしれねぇんで、素人が下手に触んねぇほうが良いんでさぁ。 救急車来るまで放置でお願いしやすぜ」
神楽がもそり、と動いた。
顔を銀時に向けて、苦しげに声を出す。
「銀、ちゃん…あ、悪意を感じるアル…。こいつの全身から、ま…黒な、あく、い…を…」
「あぁ、俺も感じる。つーかこいつからは悪意しか感じねぇ。だが心配すんな、神楽。 治療費は全額真選組が持ってくれるはずだ。良い病院のスッウィートな部屋で贅沢治療三昧だ」
「やったネ、銀ちゃん…」
「おう。よくやった、神楽」
当たり屋のような会話を交わしながら、二人は救急車を待っていた。



「銀ちゃん、私のパンツが無いアル」
入院用に、と持ってきてもらった荷物を漁り、神楽が言った。
「銀ちゃん、パンツ」
「ねぇよ」
パンツを繰り返す神楽に、銀時は視線をジャンプに落としたまま冷たく答えた。
「無いわけ無いアル。私毎日パンツ履いてるネ。ちゃんと見てくれたアルか?」
「見たよ」
「箪笥のちっさい引き出しの上から二番目に入ってるって言ったアル」
「聞いたよ」
「まったく、使えない男アル」
け、と神楽が吐き捨てる様に言うと、銀時はぱたん、とジャンプを閉じ、 「使えねーとか言うけどな…」と呟いた。
「わかんなかったんだよ!引き出し開けても!何かゴムに巻きついた布切れみたいなのはあったけど、 どれがパンツでどれが雑巾なのか、わかんなかったんだよ!!」
「それ全部パンツネ!失礼なこと言うなヨ、私のヴィンテージパンツに対して!!」
「パンツゥ!?あれ全部パンツゥ!?お前何枚パンツ持ってんだよ!だったらせめて一枚くらい、 見てわかるパンツ入れといてくれよ!そしたらそれ持ってきたからよ! ――てか、お前今何履いてんの?ノーパン?まさか」
「紙パンツアル。何かごわごわするから、早く普通のパンツが欲しいネ。何か買ってきてヨ」
ねだる神楽に銀時は「まぁ待て」と、手を上げた。
「いくら俺でも、お前にノーパンで過ごせと言うつもりは無い。想像すると何か気持ち悪ィし ――痛!殴るな!――で、だ。お前のパンツを調達すべく、ちゃんと手は打ってある」
「手ェ打って出て来るのは、くずくずのビスケットくらいネ。口ばっかり動かしてないで、 足動かして早く私のパンツを買って来るヨロシ」
「だからァ!それはもう手を打ってあるって言ってるだろ!」
作品名:パパパンツ! 作家名:Miro