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しーど ほーむ

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何もかもから逃げ出したくなって、手元にあったお金を支払って輸送船に乗り込んだ。どこへ向かう便なのか、それすらも考えないままに一番早く離陸するものを選んだ。これから、たぶん、新しい秩序が形成されていくだろう。それが、どんな形になろうとも、僕は、その枠から外れてしまう。どちらでもない。ある意味、人間というものから一番かけ離れているかもしれない自分。・・・ごめんなさい・・・結局、最後まで自分のことは話せなかった。話して敬遠されたくなくて、自分という人間を過去も未来もひっくるめて大好きだと言ってくれる人たちに、そして、今ここにいる自分だけが真実だと言ってくれた歌姫に、それでも話せなかった事実。
 傍にいると辛くて、とにかく離れたくなった。そんな衝動で動いてしまった自分を、みな、探してくれるだろう。それさえもされたくなくて、輸送船のコンピュターを端末から操作して、自分のIDを抹消した。飛び乗った輸送船は、民間のものだったから、IDなどは厳しくチェックされていない。とりあえず支払った金額分だけは運んでもらって、そこで船は降りるつもりだった。どこかは知らないが、知らない星で暮らすぐらいはなんとかなるだろう。
「船の仕事を手伝ってくれるつもりなら、次の寄港地まで乗せてやってもいい。」
 一番最初の寄港地に到着した時に、船の人間から、そう勧められた。ここは、確かに文明はあるが、ここは特殊だから、と言葉を濁らせた。
「いえ、ここまででいいです。ありがとうございました。」
 ドックで礼を言って船は降りた。別に特殊だろうとなんだろうと構わなかった。荷物は本当にリュックに一纏しかない。もともと私物なんてなかったから、楽なものだった。港の外には市街地が広がっていた。あまり大きくはないが、それでも、ここはまずいだろう。輸送船が出入りするということは、軍も寄港する可能性がある。手持ちのお金が残っていたから、それで市街地から離れることにした。次の市街地に移動して、そこで野宿した。今度は小さな町で、働く場所さえ確保できたら、ここにしようと決めた。

 次の日に町を散策して手頃な働き場所はないものか、と考えていた。自分には何ができるだろう。少しばかりの技術と知識。それが役に立つような仕事があるとは思えない。それなのに、屈強な男が何人かで僕を取り囲んだ。
「どこからきた?」
「遠くから・・・」
「何をするつもりだ?」
「ここで働いて生活を」
「なら、まずは山父のもとへ行け」
 そう命じられて、ひっぱられて町から外れた場所に立っている石作りの家まで連れていかれた。
「これか、わかった。調べてみよう。」
 よくわからないうちに、その家の地下に押し篭められた。ガチャリと表からカギがかけられた。明かりとりの窓が上部にあるだけの埃っぽい部屋で、何もない。不審人物の取り調べにしては変だな、と思いながらも僕は別に落胆することもなかった。よくわからないが、とにかく、外とは隔絶されている。これなら誰にもみつけられない。
 何日か閉じこめられて、次に扉が開いて案内されたのは家の二階だった。それまで一応、食料と水は差し入れられていたけど、ほとんど手をつけていなかった僕は、ふらふらとしていた。
「とりあえず、身体が回復するまでは、ここで寝ていなさい。」
 クスリのようなものを飲まされて、寝台に横にされた。まだ、よくわからない。何がどうなっているのか皆目わからなかったが、心はとても落ち着いていた。今までの喧騒も真実も過去も、この状態になんの繋がりもなかったからだ。久しぶりに何も考えないで、ぐっすりと眠り、何日かぼんやりと過ごした。誰も何も言わない。誰も僕を知らない。差別されることも非難されることもない。
「名前は?」
「・・・ありません・・・」
「では、ソラと呼ぶから、これから、そう呼ばれたら返事をしなさい。」
「・・ソラ?・・・」
「きみは星の空からやってきたのだろう? だから、ソラだ。」
「あなたは?」
「私は山父マウントファーザー・・普段は、ゲートと呼ばれている。もう少し、ここでおとなしくしているように、きみは複雑で難しい。」
 何が? と尋ねる前に、その人は踵を返してしまった。ガチャリとカギのかけられる音がした。軟禁されているのだが、敵意は感じられない。ただ、淡々と事務処理されているような感覚だった。どこかに急ぐ用事もない僕には、逆に有り難いことだった。時間の経過がゆっくりとしていて、どこか天国にでも連れてこられたような感覚だった。ぼんやりと窓から景色を観察して明けて暮れてゆくのを眺めている。今まで、こんなに静かだったことはない。
 何日がたったのか、もう僕にはわからなくなっていたが、随分と時間が経ったのはわかった。前髪が伸びて、僕の瞳を隠しそうになっていたからだ。
「長いことかかったが、きみは、ここで暮らしたいのかね?」
「はい」
「なら、町に下宿先を紹介してあげよう。そこで働き先は紹介してもらえるはずだ。」
「あの」
「何も心配はいらない。山父が認めた人間は、みな、ここに住むことが許される。きみは少し複雑で時間はかかったが、きみも認められた。」
 そして、僕はこの町に住むことになった。仕事は、いろいろな場所の雑用で、大半は農家の手伝いだったが、食べさせてもらえれば、それで十分だった。町の人は、僕の過去について何も尋ねなかった。それに、あの山父のことについて尋ねても、あれが、ここいらの平和を司っている神みたいなものさ、という曖昧な説明しかしてもらえなかった。仕事は慣れなくて当初は手に豆ができたり筋肉痛で唸っていたけれど、それも何ヵ月かすると楽になった。こうやって、静かに埋没していたいと願っている。もう何も知りたくない。あの後、どうなったのか、どんな秩序が確立されたのか、それさえも僕には関係がないと思っていた。


 夏の盛りに牧草を刈っていたら、そこの農夫に呼び止められた。山父が僕を急ぎで呼んでいるというのだ。
「ソラ、もうすぐ、きみのもとへ迎えが来るだろう。どうするね? 」
 唐突に、そう告げられて僕は顔色を変えた。・・・まさか・・迎え?・・・
「そう、驚くことはないだろう。きみはきみがいた場所から逃げてきた。追われるのは当然のことだ。きみは、何も悪しきものがなかったから、この地はきみを受け入れた。きみが還るべき場所のない哀れな子供だったから、ここをホームとするがよし、と判断したのだ。」
「・・ホーム?・・でも、僕は・・」
「きみが還るべき母体のないものだということは、この地の神たちも知っている。それがきみを悲しませる原因であるなら、喜んで受け入れてやろうと定めた。そうではなかったのかい?」
「神って・・あなたは調べたんですか?」
作品名:しーど ほーむ 作家名:篠義