二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

しーど ほーむ

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「いいや、私はゲートだと教えたはずだ。山父とは、この地を護る神の総称だ。その言葉を代弁するのが私の役目だ。きみを調べていたのは、山父のほうだ。なにせ、存在自体が機械から発生する人間などというのものは初めてのことでね。それで手間取っていたのさ。きみが苦しむ真実というものが、否定されればきみは再び、その世界へ戻れるだろうとも言っている。ここがきみのホーム・・すなわち故郷だ。ここは、何があってもきみを否定しない。きみは、ここで生まれ変わって、ここの住人になった。だから、ここは、いつでもきみを無条件に受け入れてくれる。きみはここの人間で、あちらの世界へ戻っても、それを根底にすることができるだろう。だから、迎えに応じることをお薦めする。」
「・・・僕は・・・人殺しで・・たくさんの兄弟を犠牲にしてできた人工の・・」
「今、存在するきみは、ここで生まれて生きているソラという人間だ。それが山父がきみに贈る真実だ。」
 人工の子宮で作られた完璧な自分。たくさんの同胞を葬り去った自分。どれも真実の自分である。それをすべて否定して、この地で生まれたソラという人間であればよい、と言われた。それはできない。自分の手に残る感触は決して忘れさせてくれないだろう。
「何も過去を消せと命じているわけではない。確かに、きみはたくさんの人間を手にかけた。それを忘れ去ることは罪になるだろう。そういうものではないんだよ、ソラ。それを踏まえた上で、きみは未来へ進むべきだと思うのだ。ただね、きみにも唯一絶対裏切られない場所があることを覚えていてほしい、と山父は告げている。たとえ、誰から罵られようとも、ここに戻れば、きみは無条件に受け入れられる。ここは、きみをずっと待っているし、きみを癒す場所となるだろう。そういう場所としての真実だ。ソラ・・・きみの真実の名前は、あちらで使えばいい。ソラという名前は、ここにいるきみの名前だ。きみはソラで、ここで生まれて、ここをホームとするものだ。それが、ずっと真実であることだよ。」
「・・・それは許されるべきことなんですか? 僕は人間ではないと思います。それでも、ここは僕のホームなんですか?」
「すでに、きみはソラとして受け入れられているだろう? 人間でないのなら、なぜ、きみは泣くことができるのだい? 真摯に自分の立場を思い悩むことができるのは、きみが人間であるからだろう? 」
 泣いて悔やんでばかりいた自分は、戦争を終決させるためにやれるだけのことはやったつもりだった。けれど、終わってもポッカリと心に空いた穴だけは拭えなかった。自分の居場所というものが見いだせなかった。美しい声の歌姫の傍にいても、どこか安まらないものがあった。
「人間というものは、どこか絶対な場所を持っている。何箇所も持っている奇特な人間もいるが、たいていはひとつだ。それがホームというものだ。きみにないから、山父は贈ってくれただけだ。いつか、その場所が増殖していくことを山父は願っている。きみが癒されて安堵できる場所というものが、ここだけでなくなったら重畳だ。」
 ポンとゲートは僕の両肩を叩いた。神の法則に逆らった自分を、この地は受け入れてくれた。ナチュラルともコーディネーターとも違うものである自分を人間という括りで認めてくれるのだ。特殊だと輸送船の人間が言ったことは、このことだったのだろう。
「ここにいてはいけないんですか?」
「別に、かまわない。もし、迎えと会いたくないのなら隠れていればいい。だが、諦めはかなり悪い人たちみたいだから、何度も訪問されることは覚悟しておくことだ。」
 三日後には捜し当てられるだろうから、それまでに決めておきなさい、と命じられて家を出された。仕事に戻って、しばらくは闇雲に牧草を刈った。逃げ出した自分を探している人間は、最低でも三人。それも、記録を抹消したにもかかわらず、ここを捜し当てるだろう人間も三人。また、逃げても、やがて見付けられる。・・・戻りたいとは・・・思えない・・・けれど、会いたくないとは思わない・・・・・
 決められないままに、簡単に二日は過ぎ去った。二日目の夜に、ゲートは下宿までやってきて、「決まったか?」と尋ねた。返答に窮した僕に、ゲートは苦笑して、僕の頭をグリグリと撫でた。
「決まらないのなら、会えばいい。それなら、私のうちに来なさい。」
 決まらないということは、会いたいということと同意義であると、帰り道、説明された。僕が悩むことが見通せているかのように、ゲートは淡々と説明する。
「何もかも、僕の心すら見えているわけですか?」
「・・・さあ・・山父には見えているのかもしれないね。とても可哀想だと同情していたよ。だが、きみは強いから大丈夫だとも言っていた。絶対に逃げなかったからね。」
「逃げましたよ、僕は。ここまで逃げてきた。」
「完全に逃げるというのはね、ソラ。自らの生命を断つことだ。とても簡単で楽になれる方法だ。だが、それをきみは選ばなかった。」
「・・何度か考えました。けれど、それを選んだら、たぶん、みんなが・・・哀れまれるぐらいのことはいいんです。でも、助けられなかったと嘆かれることだけは嫌だったんです。みんな、精一杯やっていた。それを僕が否定するように取られるのは嫌だったから。」
「だから、その場から逃げてみた?」
「はい、それなら責任は僕だけで済むし・・・もう何をしていいのかさえ、わからなくなって・・・戦争での殺人は殺人ではないと否定されました。でも、僕だけ以前の生活に戻ることはできなかった。何もかも忘れたように両親と暮らしてカレッジに通うなんて、そんな自分は許せなくて・・・」
 だからといって、他のもののように軍籍にあったわけでもないし、政治に興味があったわけでもない。そんな自分ができることはなくて、結局、歌姫の屋敷で細々と手伝いをするくらいのことだった。どちらの陣営にも恨みを持たれていることもあって、誰もが自分を表立って動かなくていいように隠してくれた。裏切り者だの殺略者だのという陰口すら、なるべく耳に入らないように配慮されて、そんなふうに護られている自分は、みんなの足枷でしかないのかもしれないと思うようになった。それでなくても、出生のことで悩んでいたのに、だんだんと居たたまれない気分が溢れて、突発的に逃げ出したのだ。
「よく考えたら・・後先も何も考えてなくて・・・無茶苦茶に無謀なことをやってますね、僕は。」
「冷静に判断できるようになってよかったじゃないか。・・・あの頃のきみは、かなりおかしかったよ。山父が随分と悩んでた。混乱と衝撃で、きみの心は締め尽くされていて、なかなか心の奥に辿り着けなかったそうだ。辿り着いてみたら、これまた記憶がバラバラになっていて、ひとつずつ整理するのにも手間がかかった。だから、きみは何ヵ月も家に閉じこめられていたんだ。でも、よくわかっていなかったみたいだったね。地下から二階の部屋に移しても、何の反応もしなかった。ただ、とても穏やかな瞳ではあったけど。」
「・・・あまり覚えていなくて・・・そういえば、静かでいいな、って思ってました。何もないし誰もいないから。」
作品名:しーど ほーむ 作家名:篠義