この笑顔を忘れない
ゾロは話しながらも黙々と料理を作るサンジの背中を見つめた。
こんな風に見たことは一度もなかったことにふと気付く。
ゾロは今までサンジの何を見てきたのかと考える。
気付くと近くに存在を感じて、その距離感はちょうど良くて気付かない程度。
意識しなければ分からないそんな距離感だった。
常に前ばかり向いていたゾロは気付かなかった。
そのことに気付いたときには、
思い浮かぶサンジの姿はあの晩の悲しい泣き顔だった。
「俺の横に居たんだな。」
「・・・・にぶい奴だな。」
「あぁ。」
「開き直るんじゃねーよ、この方向音痴。
そもそも方向音痴なら前だけ見てねぇでこっち見ろっつの。」
「まったくだな。」
「・・・・・お前やけに今日は素直だなオイ、」
「俺はいつも真っ直ぐだ。」
「・・・・はいはい、ほれ出来たぞ。」
「いただきます。」
「召し上がれ。」
コトンとゾロの目の前に置かれたものは、まさしくサンジの手料理。
良い香りが漂ってくる。
ゾロは躊躇なくその料理を口に運んだ。
「お前、ちょっとは躊躇ったらどうなんだ?」
「・・・なんでだ?」
「なんでもねぇよ。」
「信じてるからな。」
「・・・・」
「美味い。」
「・・・・・へへっそうか。」
「その顔。」
「ん?」
「その顔が見たかった。」
「・・・・・・」
「俺だけじゃねぇ、あいつ等皆、
お前の笑顔が見たくて仕方ねぇと思うぞ。」
「そうか。」
そう言って照れくさそうに笑うサンジを見て、
ゾロは自然とその言葉を口にしていた。
「好きだ。」
「おい・・お前今なんて?」
「お前に惚れてる。」
「だっだけどテメーは惚れてる奴がっ」
「今、俺が惚れてるのはお前だ。」
「・・・・嘘だろ。」
「本当だ。」
「・・嘘って言えよっっっ!!!!!!!」
「俺は嘘は言わない。」
「・・・・っ」
「今度は離れねぇ。」
ゾロは静かにサンジに歩み寄り、その体を恐る恐る抱きしめた。
強く抱きしめてしまったら消えてしまうんじゃないか、そんな気がしたからだ。
ゾロの腕にはサンジのぬくもりが確かに伝わってきた。
そのことにホッとした。
「・・・・馬鹿やろっ」
「あぁ、大馬鹿だ。一度手放しちまったからな。」
「・・・そうじゃねぇっ」
「もう、いいから黙ってろ。」