日常
ナルトとシカマル
ぽっかりと欠伸をするために開けた口にナルトが真っ赤な飴玉を放り込んできたので、シカマルはその口を慌てて閉じる羽目になった。がちっと歯が飴玉を不恰好に噛み、少しばかり痛い。何をするんだとそちらを睨みつけても、ナルトは白々しく、イチゴのアメ好きじゃなかったっけなんてぶりっこのように小首をかしげて上目遣いをしてくる。何だ、まだ怒ってんのかとシカマルが尋ねても、いや、ぜんぜーんなんてくるりと回りながら返すナルトは、きっとまだ怒っている。ことの起こりは些細なことではあったけれど、ナルトはいつまでもへそを曲げたままだった。しっかり下調べをしなかったシカマルが悪いと言えば悪いが、行きつけの店が臨時休業なんて、シカマルだって今さっき知ったところだ。誘ったのは確かにシカマルだったので、シカマルの責任になることにはなるんだろう。
(この店を指定したのはナルトの方だろ)
いつまでたっても態度を変えないナルトに若干呆れながら、今目指しているのはナルトが提案したところで、詳細はよくわからない。じゃあ、俺についてこいよとナルトが言いだして、今ひたすら灼熱の道を歩き続けている。正直、暑いのはそこまで得意ではないシカマルだ。ゆらゆらと道の先が揺らめくのを嘆きながら、家で昼寝がしたいともう逃げの思考に嵌り始めている。ナルトはそんなシカマルの様子など気にしたふうもなく、ようやく足を止めたのは、木の葉の里のはずれにある小高い丘で、草原の広がる場所だった。ピクニックするぞ、と足を止めたナルトは言いだし、は、と絶句している傍らでいつ準備したのか、いつから持っていたのか、お弁当を出して座り始める。シカマルが茫然と立ちすくみ、どうしてそんな状況になったか考えあぐねていると、ナルトは腕を組み、それから空をさして、見ろ、雲ひとつない青空、と口を開いた。どうやら機嫌は随分前に治っていたらしい。というか、準備がよすぎないか。
「まさに絶好のピクニック日和だよな!
からからと笑うナルトに、シカマルは正直冗談じゃないと返してやりたかった。ナルトの広げたお弁当は明らかにシカマルの分も含まれていて、言うまでもなく見た目グロテスクだ。何よりこんな暑い日に暑い場所で、こんな罰としか思えない物を食べなければならない理由が分からなかった。ともかく言葉を探してシカマルは口を開く。
「いや、今夏だし。」
「だからに決まってんだろ。」
シカマルの言葉はものの一秒で撃墜した。
準備万端とばかりに座りこんだナルトの横に諦めに背を押され腰をおろし、シカマルはなんでだよと溜息を吐くが、どの季節よりも夏がよく似合う目の前の彼は、セルリアンブルーの目を細めてからりと笑いながら、お前が暑いの嫌いだからと、これまたあっけらかんと上機嫌の理由を語った。