二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

日常

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

阿近と局長(大学パラレル)



「汚れた手で触らないでください。」


そういえば、目の前の男は顔を歪めてさっきまで子供のように光らせた眼をどこかへ放り出してしまった。だがこちらとて書類を汚されたくはない。阿近は、尚も薬品で汚れた手を伸ばそうとする教授から研究資料を遠ざけ、代わりに除菌用のウェットティッシュを置いた。手を洗ってきてほしいところだが、たかだか書類にそこまで神経質になるのもおかしいだろうと、最近同僚に注意され確かにと思った結果がそれだった。だがあの同僚はこの青い髪の男が、阿近の必死にまとめた研究資料をどれだけダメにしたか知らないのだ。手間をかけてカスタマイズしたパソコンは分解され、知らず知らずのうちにウィルスを打ちこまれてすべてが消滅したこともあった。わけのわからない薬を開発し、部屋中の紙から黄緑と紫の触手が生えた時はその始末に追われて、いくつものペーパバックと一部の機材を破棄せねばならなくなった。これらはほんの序の口だが、それらの所業の後でさえ教授である涅マユリはいっさいの謝罪をしなかった、というより、そもそも謝罪をするたぐいの人間じゃないのだ、彼は。
阿近が書類を渡さないとわかったからか、さも納得いかないという表情のまま指先をウェットティッシュで拭きながら、マユリは口を開いた。

「口うるさい割に使えない部下を持つと苦労するヨ。」
「言っておきますが、あんたは教授で俺は准教授、たしかにあんたを助けるのが俺の仕事ですが、上司部下の関係じゃないってこと分かってますよね。」

苛立ちながら間髪いれず答えれば、マユリは色の無い金色の目を細めておかしげに笑った。

「あたりまえだヨ。でなければとうに腕しか取り柄のない貴様などクビにしている。」

やれやれと大げさな態度で、どう見ても面白がっている教授は肩をすくめ、そんなことを言った。手が拭き終わった様子だったので取り上げていた書類の束を渡し、もう片方の手で持っていたコーヒーを差し出した。ちょっと濃い、もう少し薄く作れとどれだけ言ったら分かるのかなんて、文句をつけてくるマユリの言葉を聞き流しながら、全く、人を変えたいと言うのはこちらのせりふだと阿近は思うが、それは口に出すのはやめて、机の上に乱雑に並んだ書類を片づけるために、太い束を抱えて部屋から退出することにした。

作品名:日常 作家名:poco