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「今日からそなたはクビだ!」




その言葉はまるで雷のように突然降ってきた。
いや、彼にとってそんな生易しいものではなかったのかもしれない。

そ・・・そんな・・・

彼の頭の中は今まさに、

頭の上で鐘を鳴らされたようになっていた。
つまり
がーん がーん がーん
反響。



「でしたら!僕はこれからいったい何をすればいいのですか!?」

まだ状況を掴みきれていない、この闇を纏った青年は、彼の敬愛してやまない女主人の前で声が裏返りそうになりながらも叫んだ。

その言葉に金髪の女主人は、腕組みをしながら眉間に人差し指をあてちょっと考えるしぐさをとると、
もう、本当に哀れみを見る目で青年を見た。

「なんだ、お前は。
 私に使われていなかったら次の行動もわからないのか?
 あ~もう!
 お前は、本当に残念なやつだな~!
 いいか!もう一度言うぞ!心して聞くがよい!
 ああ。お前に心なんかなかったな。魔族だし。

 お前は

 もう

 クビ

 になったんだ!」

「えええええ!!!!」

そして、おもむろに手で自分の首を切る動作をした。

「切腹!?」

「ちがーーーう!
 首切りだーーーー!!」

「そんな!獣王さま!殺生な!」

思い余った青年は、金髪の女主人の元へ駆け寄った。
思わず、瞬間移動も忘れて。

「じゃかし~~!
 つまり、お前はお払い箱という意味だ!
 どこへなりと出て行くがいい!!」

げし!

ああ!まるで昭和の亭主関白をみているよう!

そう言い残し、彼女はヒールを翻すと豪奢な刺繍が入ってスリットの入った白いドレスを神々しくなびかせながら、
颯爽と神殿の奥へと去っていった。

後に残されたのは、まるで母親から捨てられた子猫のように突っ立ている青年だけ。

いや、本当にあの女主人は彼の母親であることに間違いはないのだが。

「そんなーーーーーーーーーーーー!!」

青年の声だけが虚しく木霊していた。



***



青年はこの世に存在した瞬間から彼の女主人のためだけに生きてきた。

彼の人生のすべては彼の女主人のものだったし。

そもそも、彼の頭のてっぺんから足の先にいたるまですべての部分にゼラス様を敬愛すべしとプログラミングされていたのだから。

そう、もしそれ以外に従うものがあるとしたら。
それはあのお方。
すべての混沌の母でしかなかった。
あの方はすべての魔族たちが求めてやまない存在なのだから。
でも、会えるチャンスはいかに超常を逸した存在である魔族にしたってほとんどないに等しい。
すべてのものと共に母の身胸に還るときだけ。
あるいは、あの少女が命を賭けて呼び出すときだけ。

「いったいどうしたらいいんでしょう?」

「ゼラス様の最後の命令が、まさか僕をいらないだなんて!
 
 僕はそのことをどんなに望んでいなくても従わざるを得ないに決まっているのに。
 なぜなら、僕はあなた様より造られし存在なのだから!
 ああ!!ゼラスさま!!」

それから青年は唇をぎゅっと噛み目をつぶると、恭しくその場でひれ伏した。


「僕は貴方様の命に従います。」


それは何千年もの歳月を共に過ごした女主人への最後の挨拶だった。

理由もわからないまま去るなんて納得いかなかったけれど、主人の命令はぜったいなのだから。

あっけない別れだった。