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親愛なる部下へのプレゼント

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突然の出来事に対処できなくなったときに、彼はほとんど無意識の内に闇を渡っていた。

そこで微かに感じるものは、何年か前に人間の少女に半ば奪われるように打った大切な女主人からもらった魔紅玉の存在。

そう、あれを手繰ると同時にあの少女もいるに違いない。

あの自由な少女の姿を目に浮かべた。

そうそう沸き起こるはずのない、限りある命を持つものへの執着。

女主人からの命令以外にほとんど興味もないのに、久々に面白いものを発見したと感じたあの頃。

「ここは?セイルーンの外れの街道?」

彼の前にはやや大きな庭のある屋敷というには言い過ぎるぐらいの大きさの建物があった。

近づいていくと、その庭には畑や果物の木が植えてあって、それはきちんと手入れされていた。
その傍らには怪しげな植物も植えてはあるが・・・

3~7歳くらいの子供たちが遊んでいた。

少し向こうに白いシーツが何枚かはためいていて、
緋色の髪の女性が洗濯を取り込んでる後姿がチラチラと見えていた。

今日は天気がいいが、風は強いらしい。

青年にないはずの心臓がにわかに動いた。


リナさん・・・


近づいていくとl、それがあの紅い瞳を持つ少女だとわかった。


「ねぇ、ねぇったら!黒いマントのおかっぱ頭のおじさん!
 うちになんか用なの?」

普段聞きなれない高いトーンで、また、聞きなれない言葉で自分を呼ばれ、彼は引きつり笑顔になっていた。

なんですか?この少年。

遊んでいたうちの一人の男の子が自分の敷地内に入ってきたこの青年を怪しんだのだろう。
不意に声をかけてきた。

「あなたたちは・・・?」

そして、もう一人の3歳くらいであろう子供が洗濯を取り込むのに夢中になっている少女の元へとかけていき、彼女の足元へとしがみつく。

「ママーー!!
 だれかきた!!」

「え?お客さん?」

少女の紅い瞳は青年を見つめていた。

「ママ!?」

青年は信じられないものを見るように、彼女の前で呆然と立ち尽くしていた。

「リ・・・リナさん!
 あなたはもうお母さんになったんですか!?
 しかも3人もの!?」

またしても声が裏返りそうだった。
そして、素っ頓狂な大きな声でもあった。

それに反応してか、屋敷の中から次々に4人の子供たちが窓からひょいと顔をのぞかせた。

「しかも、7人も!?」

そんな青年を見て、栗色の髪をした少女は洗濯物を置き、くすりと笑った。

「ずいぶんご無沙汰だったじゃない?ゼロス。」



***



「いや~まいっちゃいました~!
 この子達は全員あなたの子供さんじゃなかったんですね。
 どおりで、ずいぶんたくさん子供さんがいらっしゃると思いました!」

いや~いっぱい担がれちゃいました。な~んてこの青年は言っている。

「なにいってるの!あたりまえじゃない!よく考えてみなさいよ。
 この子なんてもう7歳よ?
 あたしが今20歳だから、少なくともあたし、13歳で生み落としておかなくちゃいけないじゃない!
 そんなの無理よ~!
 あはは。
 あんた馬鹿ね~。」

「いえ、だって、この子がはじめに目に入ったんですから!
 この金髪の子・・・何かを彷彿とさせます。
 てっきり僕はリナさんがガウリイかと・・・」

「ああ。この子3歳だものね。
 ふふ・・・
 そうね。あの頃に彼とそういう仲になっていたら今頃はそうだったかもしれないわね。
 でも、残念!
 この子もあたしの子じゃないの。
 両親が病気でなくなちゃって、私が引き取ったの。」

そういって、少女は愛しげにこの金髪の男の子の頭をよしよしと撫でると、
お尻をぽんと叩いた。

「さあ、みんな!あっちに行って遊んでらっしゃい!
 あたしは、このあやし~いお兄さんとちょ~っと昔話があるからね。」

「はーい!」素直に駆け出していく子供たち。

「後でおにいちゃん遊んでね。」と、手を振って出て行く子供。

「やい!お前!リナ姉ちゃんにへんなことしたらただじゃおかないからな!」と、ナイト気取りな子供。

などなど、反応はそれぞれだが、少女から促された子供たちは瞬く間に外へと出て行ってしまった。

後に残ったのは二人だけ。

魔と人間の少女。

「ま、立って話すのもなんだからさ。
 そこのテーブルに座ってよ。
 あんたの好きだったミルクティを出すわ。
 待ってて。」

そして、彼女も台所へと消えていった。