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親愛なる部下へのプレゼント

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紅茶のふわりとした優しい香りが鼻をくすぐる。

それがいいものかもわからないが、彼女は青年が前に口にしたものを覚えていた。

「ねぇ、はじめに念を押しておくけど、
 あんた、またよからぬことを考えてあたしんところに来たんじゃないでしょうね?」

「もし、あの子達に被害を及ぼすことをするんだたったら、
 あたしはすぐにでもあんたを滅ぼすわ。
 この命に賭けて。
 忘れないで。」

「さあ、正直に言って。それは秘密です。は、なしよ。」

青年はそれに苦笑した。

自分は信用されてないなと。

当たり前だけど。

「リナさん・・・
 ええ。もちろんです。
 今回僕はあなたに隠していることなど何もありはしないんです。
 だから、今にもラグナブレードを唱えそうな態度はやめてもらっても大丈夫ですよ。」

青年は少女の魔法を唱えそうになっている手にそっと触れ、その手をテーブルへと導いた。

「はぁ。よかった~。
 緊張しちゃった!
 あんた相手じゃ勝てるかどうかわからないから。
 よかったわ!
 あんたは魔族だから嘘はつけない。
 だから、信じる。」

「でも、もし、勝てる相手じゃなくっても、負けられなかったけど・・・」

「そう、あんたがあたしたちの前に姿を現さなくなってから3年の月日がたったんだったわね。
 月日がたつのは早いわね。」

そういった彼女から青年は目が離せないでいた。

そう。3年もたったのだ。

自分はその間何をしていたのか。

紅の瞳を持つ自由な少女は、今は前よりも華奢な体に幾分かの丸みを帯び、
ふっくらとした赤い唇に、以前よりも長くなった髪からは大人の香りがした。

「あんたの姿は何も変わってないのね。
 服装も前と同じ、あのときのまんま。
 ゴキブリスタイル健在ね!ふふ。」

くすりと大人になった少女は笑う。

「でもすぐに、あたしはあんたの見た目年齢を超えちゃうんでしょうね。」
と、付け加えた。

「リナさん。」

でも、その笑いはあの頃の面影をもちろん残していた。

「ゼロス。あたしはね、アメリアに頼まれて、ここセイルーンで子供たちのお世話をしているのよ。
 早い話がここは小規模孤児院ってやつね!」

「ええ!リナさんがですか?」

「そうよ。
 アメリアが資金を提供してくれてんの。
 それと、あたしはあたしで余暇があるときは、魔法薬の研究をしていて、セイルーンに逆にこっちが提供したりして仕事してんのよ。
 お手伝いさんもいるしね。」

「お手伝いさん?」

「そう!ゼルよ!
 あのゼルガディス!
 あいつ、キメラになる前は、よく村の子供たちの面倒をみてたって言ってたでしょう?
 あいつは、よく来てくれて助かるわ!
 アメリアはもう、第一王位後継者で忙しく政務をこなしているし。

 ・・・あたしもなんだかんだいって、アメリアに引き止められちゃってさ。
 でも、ここにいると、旅をやってたころのみんなに、ちょこちょこ顔を合わせられるから落ち着いちゃって。
 えへへ。
 ガラにもないでしょう?」

「そうですね。
 実は、僕もリナさんはまだガウリイさんと旅を続けているとばかり思っていました。」

「あはは。そうね。
 あたしって、自由だったもんね~。
 あの頃はさ。
 各国を飛び回ってたし、いろいろな国を破壊してきたし、盗賊のお宝も横取りしてたし。
 挙句の果てが、魔王様にまで手をだしちゃったんだものんね~。」

「本当にそうでしたね。
 あなたは魔族にとって、本当に厄介な存在でしたよ。僕が言うので間違いないです。」

「なによ!」

スリッパで殴るわよ~!

そういって、彼女はスリッパをちらつかせ、にやっと笑った。

ぷっ、あははーーーー

彼らは何の気なしに笑った。

青年にとって3年なんていう時間は瞬きひとつのことなのに、

あの頃の出来事が今まさに鮮明によみがえってくる。

あの頃の思いも、もう時候?

でも、彼に何かひっかかる。

そう、彼女からは彼の話題は避けられているのだ。

「それはそうとあなたのパートナーはどこへ行ったのですか?ここにはいないようですが・・・」

ひと呼吸の間

覚悟していた。

その質問。

紅の瞳が一瞬揺れて、そう語っていた。

「ガウリイは今はサイラーグで復興のために働いているわ。」

「サイラーグで?」

「そう。そこでかわいいお嫁さんを貰って幸せよ。

 だからね、さっきあんたあ、あの子を見て、ガウリイさんとあたしの子供ですか?なんて聞いてくるもんだからおかしくなちゃったの!」

「本当にそうだったらよかったんだけれどもね。
 でも、もうそれもかなわないわ。
 だって、あいつにはもう子供もいるし。」

「リナさん。」

「でもね、あたし、あいつの幸せをいつでも祈っているのよ。
 それにね、今のあたしには守るものがあるの。」

そういって、少女はとびきりの素敵な笑顔をこの闇の青年へと向けた。

青年は少女の負の感情を感じていたが、すぐに彼女は大人になり、すでに新しい道を歩いているのに気がついた。

なぜなら、最後に彼女が話した決意は真実だったから。




では、自分はどうなのだろう?




「ところで、あんたはどうして突然うちにやってきたの?
 あたしを利用するためではないのに?」

彼女は遠慮なしに青年を覗き込む。

「僕は・・・ 突然獣王様からお前は部下ではないといわれてしまったんです。
 『お前はもうお払い箱』だと。
 理由はまったく分からないんです。
 僕は仕事でミスもしてないですし。」

目の前の彼女はにこにこ笑っている。

「そうなの?ときどき完璧の中に抜けがあるのがあんただと思うんだけど?」

「そんなことないですよ!僕はいつも命令されたことはすべて緻密にですねー計算してですねー」

「あ~はいはい。」

「とにかく、僕は納得していなかったんです。
 そうして、気がついたら闇を渡って、魔紅玉にたどり着いたんです。」

「これ?」

「そうです。」

「そうね、本当あんたって、昔っから命令以外のことはしないやつだったものね。
 魔紅玉は獣王からあんたがいただいたものなんだものね。

 でも、返さない!(笑

 悲しい中間管理職なんていってたけど、でもそんな仕事一筋だったあんたがクビなんて言われちゃったらネ。
 わかるわよ。あんたのこと。」

そういって、少女は優しく、青年の肩をたたいた。

「でも、いいんんじゃない?
 ゼロス、考え方よ?
 獣王からクビなんて言われたなんてすごいじゃない?
 つまり、あんたは獣王から自由をもらったのよ!
 本来だったらあんたは永遠の仕事地獄だったのを。
 
 まぁ・・・ただほんのちょっとテレ屋さんだったのね?
 あんたのご主人も。
 クビ!なんていわずに、もうちょっとソフトな言い方をしてやればよかったのにね?」

「リナさん。
 それはちょっと強引な考え方じゃ・・・」

苦笑いだが、でも、青年はそういうことをいう彼女を好ましく思った。

「あんたもこれからは晴れて自由の身なんだし、
 自分でこれからのことを考えなくちゃね!
 何年生きてるか知らないけれど、そろそろ親離れよ?ゼロス。」