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ふうりっち
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MONSTRE GREEN-REGARDe

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 夜はこれから始まるが、深夜まで生徒会室に居残ることは許されていない。むしろ一般生徒と同様、一定の時間になれば帰宅が余儀なくされる。出来る事ならば、常にアーサーと共に行動したいと願っていても、それが了承されることは恐らく無い。永遠に。
 妖魔との戦闘で利用する魔具を造れても、菊は魔力が使えない。その点は一般生徒となんら変わらない。そのせいもあり、深夜になる前の帰宅が命じられていた。
 一人で戦いに身を投じるアーサーを守りたいと願う気持ちもある。けれど足手まといになる事は避けなければならないため、今はルールに素直に従うしかない。
 軽く腰を曲げ会釈をすると、すぐにフランシスから声が掛かった。

「おぉ…、気をつけてな~」

 暢気に送り出すフランシスの言葉。しかし、菊にしてみればまるで恋敵を追い出す嫌味な言葉として聞こえなくもない。

「では、また明日」

 そんな想いもあるせいか、アーサーだけに頭を下げていた。

「またな、菊」
「バイバーイ、菊」

 二人に見送られ退出するも、後に残った二人に進展が無い事を祈らずにいられない。幼馴染みとはいえ、彼に近付く者は誰一人として好ましく思えない。心が狭いと分かっていても、こればかりはどうにもならない。
 けれど人当たりを気にする性分なので、わざわざ心の闇を晒すようなことは避けていた。その甲斐もあり、周囲へ菊の本音が気付かれることはない。
 それに、菊には大事な使命がある。そのため皆と同じように青春を謳歌し、恋愛に現を抜かす時間など無かった。
 それは滅多に本音を口にしない菊だから、このような境遇である事を知る者など居ないに等しいといえた。


 アーサーは、ティーカップを片手に夕陽が山間に沈むのを生徒会の大きな窓越しに眺めていた。もうすぐ一日が終わろうとしているが、暮れゆく夕陽に郷愁を覚えることはない。むしろ、夜の帳が下りたあと毎夜繰り広げられる宴に関心は注がれていた。
 本日戦った妖魔は孔雀のような外見で、身の丈はアーサーとほぼ同じ。妖魔の特徴ともいえる緑の目を爛々と光らせ、自らの羽根で攻撃を仕掛けてきた。
 だが菊の情報分析によれば、妖魔は能力はさほど強くはなかった。けれど濃霧が反撃のチャンスを潰し、頬や首に負わずに済んだ傷を残してしまった。それが悔しくてならない。
 妖魔の能力と自分の実力を比較しても、今回は無傷のまま勝利できると確信していただけに、例え小さな傷であっても、敗北感を抱かずにはいられない。

「……」

 ふと隣を見遣れば、いつの間にかフランシスが佇んでいた。彼もまた、黙って夕焼けを見つめている。

「もうすぐ、…だな」

 二人だけの時間の中、先に口火を切ったのはフランシスだった。窓越しに沈む橙色の夕陽を見つめながら小さく呟けば、アーサーが静かに言葉を返す。

「ああ、夏が終わったからな……」
「今年はどうよ?」

 何が、と問わなくともアーサーには分かる。フランシスの言わんとしていることが。

「まだ全貌は見えてこない。これからだ」

 今はそう答えるしかなかった。
 常に繰り返される妖魔たちとの戦い。
 菊から言わせれば悪しきモノたちは『物の怪』の類と考えられ、彼の母国にもこの手の類は昔から跋扈していたのだという。しかも悪しきモノではなく『妖魔』という言葉を使うべきだと主張する。その意見にアーサーは反論するつもりはない。好き勝手に呼べばいい。
 ずっと戦ってきた相手だ。まだアーサーが魔術を完璧に使いこなせない歳の頃からの付き合い。今更どんな呼び方になろうとも悪しきモノに変わりはない。
 何より、間もなく悪しきモノたちの勢力が一気に増長する季節がやってくる――それが、ハロウィン。
 この時期だけは、妖魔たちの力が強大な威力を秘めるせいで、毎年、苦戦を強いられてきた。しかし、菊がサポートについてからは、情報のお陰で魔術が楽に使えるようになり、最近は、怪我程度で済んでいた。
 その怪我も、もう治りだしている。
 不思議なことに、アーサーの治癒力は並外れた回復力を秘めているため、妖魔たちとの戦いで常に万全な体調で挑むことができるのも、そのお陰といえる。

「けどさ、いつになれば親玉にたどり着けるのかね?」
「確かにな…。出来るだけ早く首謀者を見つけねぇと、アルフレッドだって、この先、安心して暮らせないだろうしな」

 その名が告げられた途端、フランシスの双眸がスッと細められる。
 しかし、窓越しに暮れゆく夕陽に思いを馳せ、夜な夜な暗躍する忌まわしき妖魔たち討伐への闘志を漲らせるアーサーに、フランシスの機微に気付くだけの余裕は無かった。















 ハロウィンまで、もうすぐ―――。





作品名:MONSTRE GREEN-REGARDe 作家名:ふうりっち