【どうぶつの森】さくら珈琲
「あ〜、疲れた〜! この村に来た人って、みんなこんなことしてるんですかぁ?」
きっちり三時間経って、汚れた作業着のまま彼女は帰ってきた。
わたしはとりあえず、クローゼットの奥にあった黄色いワンピースを渡す。ちょっと大きいけど今はガマンしてもらうしかない。
「さくらさん、でしたっけ?」
彼女は家に帰るなり、遠慮なくわたしの部屋を眺める。それどころかクローゼットや引き出しも遠慮なく開け始めた。
―――ちょっと、やめてよ。
止める間もなく、今までやりとりした大量の手紙が彼女の上に流れ込んできた。いわんこっちゃない。
「わぁ、すごーい! さくらさん、ジンボウがアツイんですね〜」
「人望が厚い」といっているのか? なんと、今度は封筒の中身まで音読し始めた。
わたしは早速、新入りに怒鳴る羽目になってしまった。
「あの子、どうだなも?」
とまとの服の買出しに行く途中、たぬきちさんに会った。ちなみに、とまとには、散らかした部屋の後片付けを命じてある。
―――どうって……まじめな優等生、ではないみたいだね。ところで、その箱は?
「いや〜、とまとちゃんに注文させたら十倍になって届いちゃって。」
中身は数十着の「ネビュラな服」。輝く深紫色が目に痛い。
際どいデザインの服をこんないっぱい……。どんな派手な服マニアでも、これでは途方に暮れてしまうだろう。
―――どうするの、これ?
「どうしよぉかなぁ??」
と、たぬきちさんはとまとの真似をしてふざけて見せた。しかしヘラヘラ顔は笑っていても、内心かなり困っているのがわかる。
なんだか気の毒になって、あまり趣味ではないけれどサイズ違いを二着買った。それでもまだまだ、在庫は減らないようだけれど……
たぬきちさんが言うには、とまとはここから遠い都会のお屋敷で生まれた、箱入り娘らしい。まぁ、なんとなく温室育ちなのは想像できるなぁ。
それはそうと、とまとは何をしてもドジを踏んだ。住人へのあいさつも、部屋の掃除も、料理も、ちっともうまくこなせなかった。
それで家にいる間、ほとんどずっとべそをかいている始末だ。
「あたし、何やってもぜんぜんダメなんですぅ。落ちこぼれなんですぅ」
さすがに「そんなことない」とは言えなかった。今日のうち何回転んだのか、服が泥だらけで余計にみすぼらしく見える。
わたしは今こそ出番だろうと、買ってきたネビュラの服を渡す。
「え〜、この服、ハデすぎませんかぁ!?」
―――自分で頼んだんでしょ。ガマンしなさい。
文句を言いつつも、まだ彼女はめそめそしている。一人っ子なわたしは、こういうときどうすればいいかわからない。
誰か、もっと世話焼き上手な大人がいれば……。
あ、そうだ。
わたしはあること思いつき、わたしが一番好きな場所へ彼女を連れて行った。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗